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星を継ぐもの  作者: 朝霞
第一章 魑魅魍魎の晩餐
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第一話 ある日の朝

双子の王登場

 大国アームメイデンの王宮にて。


 白い大理石の床を一人の少女が優雅に歩いていく。歩くたびに揺れる少女の輝くような黄金の髪は見る人を惹きつける魅力が宿っている。大人しそうな顔立ちながらも、全身を包む華やかな雰囲気はこの王宮によく似合っていた。


 少女は"太陽の間"と呼ばれる部屋の前で立ち止まり、一度深呼吸をしてからドアノブに手を掛けた。


「姉さん」


 部屋に入ると少女の弟が微笑みを浮かべて姉を呼んだ。


「イオルク」


 少女も微笑みを浮かべて弟の名を呼んだが、その笑みはどこか引きつっていた。

 弟はそんな姉の様子に気づいたが、特に気にするまでもなく、目の前にいる数人の騎士達に視線を戻す。


 騎士達は少女の方へ向き直ると、恭しく騎士の正式な礼をした。


「おはようございます。フィオリナ王女」


 赤茶色の髪をした中年の騎士が頭を下げる。


「顔を上げてください。ジュノー」


 フィオリナ王女は、優しく微笑みながら赤茶髪の騎士に声を掛けると、双子の弟であるイオルク王子の隣に行く。そして、もう我慢できないとばかりに要件を口にした。


「一体どういうことですか?イオルク」


 イオルクは姉の問いに苦笑を零す。やれやれと言わんばかりだ。


「今、ジュノー達にも同じ説明をしたのだけれどね、姉さん。別に不思議なことではないでしょう?」


「確かにそうですね。あなたとソフィア様の婚約を正式に発表することにも、そのために開く舞踏会のことにはなんの不思議も異論もありません。私が聞いているのは、なぜこの時期にやるのかと言うことです」


 このアームルメイデンでは現在、非常に難しい問題が起っている。発端は先月、双子の父つまり、この国の王が病により急死した事による。

本当に突然の事だったのと、王はまだ天寿を全うするような年齢でもなかったので、遺言とりわけ後継者の選択をしていなかった。


 普通に考えると跡取りには、フィオリナ王女かイオルク王子がなるはずだったのだが、フィオリナ達には腹違いの兄がいた。ようするに王の愛人の子である。その子供は双子や亡き王をも超える歴代最高のマナを持ち、頭脳明晰で、一部の国民からも絶大な支持を得ている王の器にふさわしいと噂される人だった。


 国内では王の死後双子を支持する臣下と、愛人の子であるエルディナ王子を支持する一派の王権を巡る政治紛争が始まっていたのだ。王の葬儀などで争いはまだ表面化していなかったが、国民に知られるのも時間の問題だ。なにせエルディナ一派は王宮打倒を掲げる過激な集団で、王宮に不満を持つ者達を集め、各地で小さな暴動を起こしているのだから。


 隠密性を重視しているのか誰がメンバーなのかもよくわかっていないので、王宮側も碌に一派を鎮静化することができない。最近は国民達もいつまで経っても次期王が発表されないので訝しんでいる。現在のアームルメイデンはギリギリに張られた糸の上で爪先立ちをしている状態なのだ。



 この不安定な時期に何をやろうとしているのか。空気を察しろとばかりに目じりを釣り上げるフィオリナにイオルクは肩を竦めた。

 

「こんな時だからこそやるのだよ、姉さん。確かに舞踏会を開く事や、ソフィアを王都に呼ぶことは危険なことだね。でも、エルディナ兄さんたちに対抗するためにもソフィアは必要な存在だ。こんなことを言いたくないのだけれど、兄さんを退けるためにも、ソフィアやラカリエール家の人達との絆を強固なものにしたいんだ」


 国境沿いの辺境地帯を統治するラカリエール家は国でも有数の名家だが、それとは別にある理由から神聖視されていた。一貴族と言えども、その家の影響力はとても大きい。絆を深める。遠まわしにラカリエール家がエルディナ側へ寝返ることを阻止し、自分たち側に縛り付けるとイオルクは言っているのだ。


 裏の意味をもちろん理解したフィオリナは驚いたように目を丸めた。優しいイオルクがそんな事を言ったのももちろんあるが、何より彼がこの骨肉の争いに説教的に関わろうとしている事だ。穏やかな気質で、幼い頃は懐いていた兄と本気で戦おうとする姿はまるで別人のように彼女は感じた。


「姉さん、理解してくれた?」


 唖然とする姉をイオルクは不思議そうに見た。フィオリナは我に返ると大丈夫と微笑みながらも心配そうに顔を歪ませた。


「でも……。やっぱり、危険ではないしら? 万が一、ソフィア様が道中襲われたらどうする気? それに、舞踏会中で何か起こったら」


「それなら大丈夫。ソフィアには、ファウマやユエ達の聖騎士が護衛に就くから。それに、今回のことにはカルテラにも了承を得ているから」



フィオリナはイオルクの言葉の意味を、ゆっくり咀嚼した。


 騎士の中でも別格の強さを持つ者達は聖騎士と呼ばれる。彼らに護衛を頼むと言うのならソフィアに危害が及ぶ危険は無いだろう。そして大臣のカルテラと言えば、亡き王の腹心の臣下で他の大陸から来た魔導士でもある。


彼の予言ははずれた事が無く、慕う者も多い。亡き王やフィオリナ達も深く信頼している人だ。そんな彼が大丈夫と言うのなら心配ないのだろうとフィオリナは胸を撫で下ろした。


「そうですか……。カルテラが大丈夫と言うのなら、私はもう何も言いません。ファウマ、ソフィア様をお願いします」


 それまでイオルクの後ろで控えていた金髪の男性が恭しく頭を下げた。


「お任せください。フィオリナ王女」


 イオルクは姉の方へ向き直ると、静かに微笑んだ。それを合図に小さな会議は幕を閉じた。








「随分と急な申し出ですね」


 イオルクとの話し合いが終わり、自室へと戻ろうとしたフィオリナに背後から低い声が掛かる。 フィオリナは特に驚くことも無く、少し嬉しそうに振り返った。


「申し訳ありませんね。ユエ」


 彼女の前には、独特の藍色の長い髪を高く結い上げた男が立っていた。その整ったきれいな顔や優雅な姿は、一瞬女と間違えてしまいそうなほど美しい。

 彼の名はユエ・アルフォース。さきほどイオルクが名を上げた腕の立つ聖騎士だ。剣士として、その名は大陸中に知れ渡っている。この国でその名を知らぬ者はそうそういないだろう。


「突然のことで、本当に申し訳ないのですが……。ソフィア様の護衛の件、よろしくお願いします」


 フィオリナは深く頭を下げた。本当に申し訳なさそうな様子は言われた方が思わず謝ってしまいそうだ。

 

そんな主君にユエは扱いに困ったような笑みを浮かべる。


「私の事はお気になさらずに。それよりも、どうして急にこのようなことを?」


「ああ、それはですね……」彼が気にして無いことにほっとしながら、フィオリナは先ほどのイオルクの説明を簡単に話した。


 ユエは王女の説明を聞き終えると納得したように頷く。


「なるほど……。そういう事でしたか」


 フィオリナは納得したような彼に思い切って聞いてみた。


「ユエもこの案を良いと思いますか?」


「ええ、そうですね。王家とも繋がりの深いラカリエール家やソフィア様を味方につければ、あちらの勢力にすくなからずの打撃を与えることができるでしょう」


 淡々と言う彼の言葉を聞く内にフィオリナは胸に渦巻く違和感が膨れ上がるのを感じた。 ユエは彼女の顔が陰ったことに気づくとわずかに首を傾げる。


「どうかしましたか?」


 フィオリナは彼の顔を見つめると自信なさそうに言った。


「変だと思いませんか?」


「何がです?」


イオルクの事を彼女ほど深く考えていないユエが不思議そうに聞き返すと、フィオリナは言葉を探すようにゆっくり喋りはじめた。


「イオルクのことです。あの子の性格から考えて、こんな危険なことを思いついたことが……変におもいまして」


 弟のことを心配するフィオリナの顔を見つめたままユエは心の中で頷く。


 確かに。あの平和主義の王子からは考えられないことだな。深刻化している王権争いが王子の心境に変化を与えたのかもしれないが、それ以外に何か理由があるのか。


 ふむと腕を組んだユエだったが、不安そうに見上げる主君に気づくと思考を一気に打ち切った。


「イオルク様もこの争いに、深く悩まれたのでしょう。平和を望む故に危険を承知で今回のことを決心なされたのかもしれません。……大丈夫です。なにがあろうと私があなたとこの国を守ります」


 フィオリナは「あなたを守ると」いう部分に感動すると満面の笑みでユエを見た。


「頼りにしていますよ、ユエ」


フィオリナ・ウェン・アームルメイデン


・癖のない背中まである美しい黄金の髪と銀の瞳。

・アームルメイデン第一王女でイオルクの双子の姉



イオルク・バーム・アームルメイデン


・美しい黄金の肩過ぎまである髪と銀の瞳

・アームルメイデン第二王子でフィオリナの双子の弟





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