8、家族の思い出
今日はいろいろあったなぁ。
夜、ベットへと入って、今日一日を思い出す。キサネアさんと、仲良くなれたと思う。…敬語でずっと話されるからちょっと不安だけどっ!
それに馬にも乗ったし、シュトレイの創り変えの方法にびっくりした今日。
なんだかんだと忙しかったけれど、―――ふと思い出してしまった。今日、”家族”を見たから。
「……っ……っ!」
ばさりと掛け布団を頭まで被って、顔を隠す。零れた涙を、見られたくないから。
両親には愛情豊かに育てられたって訳じゃない。ああ、いや違う、大切に思われて育ててくれたんだろうと思う。両親は仕事で忙しくて、子供に構う時間が取れなかっただけで。
忙しい中でもお母さんはちゃんとご飯も、お弁当も作ってくれた。忙しいからと冷凍食品に頼る時もあるお弁当だったけど。手抜き料理だと言って、材料全部を鍋に入れて味付けしただけのおかずとか。
そんな料理だったけど、成長期に入った弟と、肉を取り合って食べたりしたな…
時々どうしても遅くなる時は私も作ったりしたけど、学生の本分は勉強!なんて言われたっけ。
思い出すのはどうでもいい事や、喧嘩した事ばかりで。
せっかくなんだから楽しい思い出を思い出せばいいのに、なんだかなぁ。
…会いたい、な…
翌朝目が覚めると、少しだけ頭が重い。昨日泣いたまま寝ちゃったんだっけ。目、腫れてないといいんだけど。
のっそりと起き出して、カーテンを開ければ昇り始めた太陽が見えた。
―――ああ、今日もいい天気だなぁ。
準備を終えてシュトレイに変わると、何かもの言いたげな声で呼ばれた。返事を返したものの、シュトレイは何を言うでもなく『呼んでみただけ』と言う。
もしかしたら、泣いてたの気づかれてるのかもしれないけど、何も言って来ないならこちらから言う事もないよね。
いつもの様に着替えを済ませた。動きやすいようにと、腕部分がふんわりと広がったクリーム色のブラウスにギャザーが入ったデニムのスキニーパンツだ。ブラウスの胸元が寂しいからか、ペンダントトップが大きめのネックレスがある。ピンク色の石で、よく見れば花弁が7枚ある。
綺麗だけど、何の花なんだろう。この世界の花なんだろうけど、もしかしたら地球にも似た様な花あるのかな?
そんな事を考えていると、食卓へと移動していた。次々と料理が運ばれシュトレイが毒見をしていると、チェルシーさんが『レヴァン家当主が来ている』とシュトレイに伝えている。どうやら応接室で待たせているらしいけど。
それに対してシュトレイは食事が終わったら行くとだけ言って、黙々と毒見作業をしている。
(…ずっと、毒見しないとだめなの?)
「ん、これも僕が起きるまでだから安心して」
(そうなの? でもどうして?)
「ちょっと、ね。出来れば聞かないで貰いたいなぁ」
そう言われてしまっては、それ以上聞く事は出来ずに黙り込むしかない。
そうして食事を済ませ、応接室へと行けば。30代位だろうか、男の人と、キサネアさんがいた。シュトレイがソファに座りながら、二人に座るように進めれば、その男の人は深々と頭を下げる。
「闘神様の…奥様にはお初にお目にかかります。現レヴァン家当主、シュフィット=ヴォン=レヴァンと申します。闘神様とは長い付き合いになると思います。どうぞよろしくお願いします。」
(な、お、お…おく、さ、ま…? な…)
その呼称に、その後の発言なんか耳に入らない。
どうして初対面の人に奥様って呼ばれるのよ! 確かにシュトレイに言われたし拒否出来るとは思えないけど、まだ了承してないのになんで『奥様』って…!!
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