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闘神に気に入られた私  作者: 新条 カイ
第3章 心が通い合うのは
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56.今頃気づくなんて

 中央国のお城に滞在中、私とシュトレイは殆どがパーティーに出ていた。シュトラータのパーティーも綺麗だったけど、さすが中央という事もあって、豪華だった。神様が主賓という事もあってか、仮面舞踏会の時とはスケールも違ったし。

 うん、一番すごかったのは私のドレスだったけどね。今まではなんだったのかという程、きらきらしかった…

 生地は金を伸ばした糸で織られた物で、刺繍はオフィーリスだ。あらゆるところに金属のアクセサリーが施されたけど、不思議と重さを感じなかった。

 パーティーでは、いろんな人が挨拶に来た。様々な国の、金属加工をなりわいとする人や、デザイナーも。その人たちからの賞賛の言葉に、はずかしくてどうしていいのか分からなくて困ってしまったけど。


 また、連日のパーティーで、必ずと言っていいほどダンスがあり、三神のダンスを踊った。ちゃんと踊れたけど、うん。来る前に復習しておいてよかったよ。緊張の度合いが違うもの。


 一方、神の剣のメンバーは、連日剣の稽古をいろんな人としていたようで。騎士や兵士はもちろんだけど、商隊を守る人なんかも鍛えていたらしい。

 ある意味、商隊が害獣に遭遇する確率が高く、闘神が起きた時に稽古するのは必須となっている程だとか。

 最近では弱い害獣しか出ないといっても、油断は出来ないと、しっかり稽古をつけてもらいに来る人達がいることがうれしかった。


 十日の滞在期間を終えて、シュトラータへと戻ってきました。帰りはあの国の軍隊は居なかったから、平穏な帰還だった。

 でも―――


「使節団を、出す?」


 夕食時、シュトレイから伝えられた事に不安がよぎる。

 今日、シュトレイだけでお城に行ったから、どうしたのかと思ったけど…あの国から、シュトレイへ差し向けられる軍の問題解決の為に行動していたらしい。

 シュトラータとしては、国を導く神への冒涜になる為、再三抗議もして、向こうからの要求を飲む事も示唆しているけれど、一向に解決しないのだとか。

 うん、要求は言われたらしいけどね。ただ、その要求が、“シュトレイの首”とか、解決にならないもので。

 一応、目覚める前にも交渉したらしいんだけど、相変わらずで手に負えなかったみたい。


 使節団には、外交官と、神の剣の隊長が行くらしいけど…そんな少人数で大丈夫なのかと不安になる。


「問題ないと思うぞ。俺を殺したいだけで、国には戦争を仕掛けるわけではないからな。それに、何かあった時の為に、隊長がいる」

「隊長だけで、大丈夫なの?」

「神器を付けさせているからな。どうとでもできる」

「…そう。なら安心かなぁ」

「明日出発する予定だ。早ければ十日から十五日位で結果が分かる」

「どうにかなればいいんだけどね」


 何処かに行くたびに、あんなふうに戦うのは辛い。辛うじて、こちらの被害はちょっとした怪我位で軽微だけど、あちらの被害を考えると…国の方針が悪いといえばそうなんだろうけど。

 強制的に軍へ従事することが決まっているなら、やりたくないのに参加していた人もいるかもしれない。

 いくら、抵抗しなければこちらが危ないのだと分かっていても…気分は、良くない。


「…その、軍に参加したくないのに、強制されてたりするの?」

「強制は、してないだろうな。ただ、洗脳に近い事はされてるが」


 ほっとしたのも束の間、続けられた言葉にぎょっとした。


「それってどういう事?」

「簡単に言うと、俺を殺せば、もっと生活が良くなるという様な事を言ってるな」


 だから、あの国の民は、進んでシュトレイを殺そうとしてるのだと言われて、呆然としてしまう。


「それって、まず訂正してもらう必要があるって事、よね」


 そう聞くと、困った様な顔をする。今は話し合いすら持てない状況だもんね。


「訂正してもらえない場合は、どうなるんだろう?」

「国民が聞く耳を持っているなら、それでよし。そうでないなら…滅ぼすだけだ」


 ぎょっとして、思わずシュトレイの顔をじっと見てしまった。

 シュトレイが、ふっと笑ったかと思ったら、そっと頭を引き寄せられて、肩を抱かれてしまう。


「滅ぼすのは、最終手段だ。ただ…国王の挿げ替えはする必要があるかもしれない」

「処刑、とか…するの?」

「国王の考え方にもよるな。柔軟に対処するような者ならば、引退してもらえばいい。ただ、反旗を翻さないようにしなければならないが」


 むむ…いろんな手があるんだね。でも、難しすぎてわからないや。

 一応、シュトレイも穏便に済ませたいみたいだし、あとはあの国が応じてくれる事を祈るのみだ。





 それから何日か過ぎ、使節団からの途中経過を知らせる親書が来た。攻撃される事もなく、無事だと聞いてほっとした。

 内容を見せてくれなかったけれど、シュトレイが難しそうな顔で、その親書を見ていたから…あまりよくないのかな。

 返事を書いて、また送り返し、何度か書のみでやり取りを繰り返していたけれど…




「沙耶。ちょっとあの国に行って来る」


 一ヶ月経過したある日。机で手紙を読んでいたシュトレイが、辛そうな表情でそう言った。


「どういう事になってるの?」

「一対一で戦えと。外交官も匙を投げかけてるようだし、行って来る」


 負けないから心配はいらないというけれど…自信があるから、シュトレイに対してそんな事を言うんだよね。

 本当に大丈夫なのかな…


「それと…できれば、視ないでほしい」

「で、でも、心配だから…」

「試合であればいいんだが、万が一…殺し合いだった場合、見られたくない」


 シュトレイは机から、ソファに座ってる私の前に跪くと、両手をそっと握ってくる。


「嫌われたく、ないんだ。頼む」


 そう言って、手を両手で包み込まれた。確かに、その手で命を刈り取るシュトレイに対して、恐怖を覚えるかもしれない。でも。


「あの、ね。無益な殺しとかは嫌だし、そりゃ、話し合いで決着つけられればいいんだけど…今回の事で、どうにもならない事ってあるんだなって思ったし、何があっても傷つけないでなんて、綺麗事、言えないなって思った。それに、郷に入っては郷に従えって言うでしょ?」

「…そう言ってくれるのはありがたいが、でもまだ…視ないでほしい」


 そこまで言われては、肯く事しか出来ない。

 うーん、まだ、っていうのなら、何か時期があるのかなぁ?



 そんなこんなで、シュトレイはフェイさんと、数人の神の剣メンバーを連れて出かけていった。

 待っている間に、もし軍を動かしたければ副隊長のシルヴィアさんを使え、なんて言い残して。

 軍を動かすって、そんな事私に出来る訳ないのに。でも、シュトレイの隣に立つには、剣の訓練だけでなくそういう事も必要な訳で、シュトレイが居ない間に腕を上げて、あっといわせてやる! なんて、意気込んだり。

 シュトレイが居ないから、好きなファッションをして楽しんだりもした。ただ…膝上5センチのフレアスカートにした時…


「お、奥様っ! 丈は膝下にしてくださいませ!」

「え? この長さ駄目?」

「淑女はみだりに足を出しません。それに…その様な格好をするのは、危険です」


 むむぅ…ネアさんにそう注意されたけど、淑女っていうのは、国が違えばそういうのもあるのは分かるけど…膝上5センチで危険って、治安が良くないのかな?


「危険って、シュトラータは治安が良くないの?」

「いえ、治安は良いです。またシュトラータの者であれば、奥様に対して害はありませんが、年頃の女性に寄って来る不届き者はいますし…外部からの人間も少なくはありませんから」


 ファッションとして流行るのは困るから、という理由らしい。


「屋敷内だけなら大丈夫でしょ?」

「…私どもも、年頃ですから…着たいと思ってしまいます。その感情が問題になりかねません」

「着たい?」

「いえ、私は」


 うーん。そういえば、メイドさんたち、かわいい子ばかりなのに、着てるお仕着せがかわいくないんだよね。リアルメイドなのにもったいない。ネアさんなんて髪の毛シルバーなのに。

 こう、臙脂色(赤)で、エプロンは白で…黒いタイツで靴も臙脂で…


「奥様っ」

「かわいいっていうか、ほんとお姉さまってかんじ! 今日はこれで」

「丈が短いです! も、元に戻してください」

「じゃあ、これくらいならいい?」

「…はい」


 何故か項垂れてしまった。そんなに嫌なのかなぁ?




 そんな事をして過ごしていたある夜。

 ベッドに入って、ふとシュトレイはどうしているだろうかと思った。出かけてから、今日で五日目だから、そろそろ着く頃だろうな。

 一対一で戦うって言ってたけど、急に、もしシュトレイが死んでしまったらと縁起でもない事がよぎった。

 そう思いつくと、不安が押し寄せてくる。シュトレイは…死ぬことってあるのかと聞いた時に、しっかり答えてくれなかったから。神様だから、寿命ってないと思う。でも、切られたり刺されたりした場合は? 一回、私の手首が切り飛ばされたことがあったけど、そんな事がまるでなかったかのように、何故か綺麗に治ってた。

 つ…と、あの時切られた右手首を撫でる。問題なく動くし、傷痕なんて一切残ってない。これは、ミンファちゃんのときと同じ事なのかすら、判別がつかない。

 あの時は怖くて、どうやって治したのか聞ける精神状態じゃなかったし。


「…無事、だよね?」




 次の日、朝食後にネアさんに質問してみた。


「ねぇ、シュトレイって、死ぬ事もあるの?」

「は、え? と、闘神様がですか? 考えた事もありません…」


 三神も今までずっといるし、シュトレイも眠りはするけど必ず起きる事から、死ぬ事はないと思っているらしい。

 私も神様って言う位なんだから、死ぬ事はないと思うけど…でも、あの国は、シュトレイを、殺したい訳だし…神様が死ぬ事がないなら無理な訳で。


「た、確かに、言われてみればそうですね」

「そうなの。だから…不安で」


 そう言うと、ネアさんが心配そうな顔をする。


「当主がいれば、もしかしたら分かるかもしれませんが…重要な事ですから、私共にはわかりかねます。申し訳ございません」

「いえ、いいんです。そもそも、そんなの皆が知ってたら、危険ですよね」


 そう言って笑えば、ネアさんも困ったように笑う。


 だからといって、不安がなくなるわけではなくて。

 夜、広いベッドに一人で寝ていると、寂しさもある。だって、いつも…抱きしめられて寝ていたから。

 いつも恥ずかしさが強いけど、こうして一人で寝ていると、シュトレイの腕の中が、すごく安心するのだと悟った。

 もし、シュトレイが亡くなったら…


「っ…か、神様だもん、きっと大丈夫」


 それに、シュトレイは強いし! そうやって、心を奮い立たせる事しか、出来ない。


 結局、その日の夜は眠る事が出来なかった。

 また、次の日の夜は…訳もなく泣いてしまって、一晩中泣いてた。朝になっても涙が止まらなくて、いつも朝食の時間には食卓に行くのに行けなくて。ネアさんが寝室まで呼びに来てくれたけど。


「奥様、失礼します。…具合でも悪いでしょうか?」

「ね、あ、さん…ぅっ」

「っ…奥様。どうなさいました? あぁ、こんなに目元が…もしや一晩中泣いて?」


 そっと優しく頬を撫でられて、ますます涙が零れてしまう。

 それから甲斐甲斐しく世話されて、お茶を用意されて、温かいスープも持って来てくれた。寝室で頂くのもどうかとは思ったけど、ネアさんはずっとベッドの上で横に座って背中を優しくさすってくれた。

 スープを食べ終わると、おなかが少し満たされたからか、少し落ち着いた。


「ご、めんなさい。もう、大丈夫」

「いいえ。落ち着かれたようでよかったです。ですが、何があったのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「…シュトレイが、死んじゃったらどうしようって」


 ぽつりと零しただけなのに、またじわりと涙が零れそうになる。


「あぁ、その様な時に効く香りをお持ちしましょう」

「え? その様な時、って」

「お付き合いしている男性や、結婚したばかりの旦那様が、戦や害獣退治に行った際に情緒不安定になる事がよくあります。原因は、やはり…その、人ですので亡くなる場合もありますから。愛する人を失ってしまうかもしれないという不安は、どうしても生じてしまうものです。今お持ちしますので、少々お待ちを」


 ネアさんの言葉を聞いて、呆然としてしまった。

 私、シュトレイの事…いつの間にか愛していた? そういえば、思い当たる節がいくつもある。こうして泣いてしまったのも、その一つだろう。


「…わたし…シュトレイの事…」


 一人残された部屋で、ポツリとそう零した途端、恥ずかしくて顔が熱くなる。いつからなんだろう。シュトレイに、あんなにも愛を囁かれていて、あんなにも乞われていたのに…気持ちに気がついてなかっただけ、なんて、どんだけ鈍感なんだっ!


 真っ赤になって、ベッドで悶絶していたら、戻って来たネアさんに熱でもあるのかと慌てさせてしまった。今頃自分の気持ちに気がついたとは言えずに、なんでもないと言葉をにごすしかない。


誤字脱字、指摘や感想等お気軽にどうぞ


ぶった切る箇所を迷いに迷ってこの場所で落ち着いた次第。

でも、次話もなんか微妙な感じになってしまったorz

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