54.中央国へ到着。まずは三神と会談です。
中央国へと到着すると、前回とは門を通る時から違った。
門の外では正装した兵士に出迎えられ、すぐ通れた。神殿への道には街の人だろうか、たくさんの人が詰め掛け、少し高い建物から花びらが撒かれて、すごい綺麗だった。
神殿では、入り口の階段の下で、おじいさんおばあさん姿の三神に出迎えられて…神殿内へと案内された。
前回見た三神の像がある部屋の奥に、隠れるように扉があって驚いた。その奥の部屋へと入れば…目も眩む様なステンドグラスのみで囲われ、繊細な彫刻が施された飾りにため息が零れる。
「すごい…きれい」
「ここは、俺が正式に来た時にしか開かれない部屋だ。また、人は入ることが出来ないが、外から見る事はできる」
ぐるりと見回せば、確かにステンドグラスの向こう側に人影が見えるし、覗き込んでる人もいる。でも、限定的に開かれる理由が気になって聞いてみる。
「神のイメージ、という理由だ。そしてここでの会話は一切外には出ない。以前行った住まいにも、同じ様な結界があるから問題ないんだがな」
「そうじゃな。わしらが事象を決めたりもするからの」
大地神が、シュトレイの言葉の後を補うように言う。確かに、シュトレイ専用の鉱山があることだし、人に秘密にしたいこともある、か。
水湖神の器であるクランさんに促され、丸テーブルへと着くと、透明なカップに入った甘い香りのするお茶が出されたけど…小さな白い花が入ってる。
「なにこれ、可愛い」
「それは、特別な花なのよ。ほら、皆に入っているわ」
「これは儀式のようなものじゃのう。皆で一緒に飲み干すんじゃ」
「儀式といっても、何かが起きる訳ではないが」
決まり事なのだと、シュトレイは続ける。透明なカップに入れられたそのお茶を飲むのは、周りで見ている人にも見えるだろうな。
「でも、一緒にって…」
「問題ない。好きなように飲めばいい。用意はいいか」
「花は、口に含めば溶けるから、心配するな」
わたわたとカップを取ると、シュトレイがそっと教えてくれたけど…本当に大丈夫なのかな。
ドキドキしながらカップに口をつければ、皆も口をつけた。それを見て中身を飲むと、シュトレイが言った通りに唇に花が触れた途端にするりと溶けた。味は、蜂蜜入りのレモンジュースみたいで、美味しい。
「…甘いな」
「私はこの味好き」
無事に飲み干すと、シュトレイがそう感想を言った。
「そりゃそうよ~。私達はいいけど、沙耶ちゃんに合う味にしたもの」
「…そうか」
「ありがとうございます」
元々の味がどんな味なのか分からないけど、私のために変えてくれたことが嬉しい。
「それでは、始めようかの。闘神よ、用件があるじゃろ」
「―――そう、だな」
和やかな雰囲気から一転、何故か緊張感が漂う。
そして、シュトレイが話した事は、かなり重大な事だった。
シュトレイを亡き者にしようとしている、あの国へ、本格的に対応しようとしている事。
また、話し合いで解決できない場合には、戦も辞さない事。その際には中央国には仲裁等一切しないで欲しいと言う事を話した。
「…ようやく、その気になったか」
「遅い位じゃな」
「うふふ。国王にはしっかり伝えておくから、心配しなくていいわ」
「頼む」
うん、シュトレイが何回“起きて”、同じ事を繰り返したのか分からないけど…いくら聞く耳を持たなかったとしても、どうして今まで手を打たなかったのか、やっぱり気になる。
「シュトレイ…どうして今まで何もしなかったのか…やっぱり聞いちゃダメ、なの?」
「秘密にする事じゃないわよ。ただ、シュトレイにとっては、言いたくない事かしらね」
「……」
「ここにはワシ等しかおらん。教えてあげればよかろう」
大地神がそう言うと、す…と出された柑橘系の香りのするお茶。すごく落ち着くその香りに、シュトレイの強張っていた顔が解け、ため息を着いた。
「…三神も、原因の一反なんだが」
そう言って話し始めた内容に、ただ驚くばかり。
シュトレイは、元々あの国の人間だった。その時代は様々な物が発明され、文化が出来上がっていた時期だったそうで。
同じ様に才覚がある者が居て、互いによいライバルであり友達でもあった。
二人が切磋琢磨していたその時、この世界をより良いものへと変化させる為に、物作りの神を作ろうとしていた三神が若い二人に目をつけた。そしてより神にふさわしい者はどちらか見極める為に、二人を競わせた。
それは三神の予想よりも長い年月が掛かり、決着がつかないまま寿命で死んでしまっては本末転倒だと、二人に知らせぬまま、不老不死の体を与えた。
百年経ち、決着はシュトレイが勝ち取った。理由は、能力は同じ位だったが、人の為に意見を聞き、それを開発するという事からだったそうで。もう一人の敗因は、意見は聞くが、自分が作りたい物を開発するのみだった為、この世界を発展させる為に力を振るわない可能性を考慮した。
そして、三神はシュトレイを神へと創り変え…もう一人は不老不死のまま、今はただシュトレイへの恨みを抱えて生きているのだとか。
話を聞き終えて思ったのは。
「人間、だった…?」
「…そうだ」
「う、そ…だって、全然人間らしくな」
「シュトレイに、ソレは求めちゃだめよ~だって人間の時も人間らしくなかったもの」
「そうじゃのう。かなーり人間離れしとったわい」
「物作りもだが、剣術も、魔法も、あげく錬金術やら…何でも出来たからな。その点は特に加味してはいないが」
いや、チートすぎて人間っぽくないって言いたい訳じゃなくて、精神的な物なんだけど…能力を鍛えるのが忙しくて情緒とか育たなかったって事なのかしら。
あと、魔法はいいとして、錬金術ってこの世界にあるの? というかどんな物なんだろう…思わずシュトレイをじっと見詰めていると、なんだ? と聞かれる。
「錬金術って見たことない」
「……今はもう神の力で、ほとんど必要ないからな」
「やって出来ない訳じゃないんでしょう? 見たい」
「はぁ…分かった、そのうちな」
なんだか疲れたような顔してるのは…なんでだろう。
それはともかくとして、なんでシュトラータを作る事になったんだろ。やっぱりその人が原因? でも、ライバルでもあり友達でもあったって…いくら負けたからといって、そんな殺したくなるほど恨むもの?
「シュトレイを恨むのは…負けたから?」
「…どうだろうな。おめでとうとは言われたが、本心からなのか分からないしな。そもそも、俺達を比べていた事を知ったのは、俺を神にする時だ。いつからか、体が若い時のままで不思議に思ってはいたが…」
三神は理由を知っているのか? と、シュトレイが聞くと、三神も分からないようだった。
理由を聞いて見たいけど…
「いずれにせよ、会うからな。その時に聞くとしよう」
「うん」
私は誰も傷付いて欲しくないから…恨む理由が分かれば、戦わなくて済むかもしれないもんね。
「さて、他に何かあるかのう?」
「特には…あぁ、ガルダン地方とテティス地方へ道を通すのに、山を掘って地下道の様な物を作ろうと思っている。俺の鉱山は通らないから問題はないが、一応知らせておく」
むむ。シュトレイの鉱山は地図のどこにあるのか知らないから、考えてなかったけど…その問題があったか。ずれていたみたいでよかった。
「ガルダン地方とテティス地方? 今まで特にあちらに行く事もなかったと思ったけれど、何かあるのかしら?」
「沙耶の国にあった調味料と同じ様な物があるからな。シュトラータで新たに作るより、今まで交流がなかった地域と物流を促進させるのもいいだろう?」
「なるほど、直通の道を作ろうという事か。地下道というのは見当もつかないが…問題はないのか?」
「ああ、問題ない。ただ、その国王や領主の同意を得る必要があるがな」
「ふむぅ。あの地方は比較的穏便だから、大丈夫だとは思うがの。口添えが必要なら呼ぶと良い」
大地神がそう言ってくれて、助かる。だって、三神はこの世界では必要不可欠な存在だから、交渉するにも、安心感があるもんね。
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