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闘神に気に入られた私  作者: 新条 カイ
第3章 心が通い合うのは
52/59

50.害獣が出た!

 シュトレイに腕を切り落とされてからは、恐さがあってシュトレイとも余り話さず、何日か教義を読んでおとなしくしていた。

 シュトレイも気にしているのか、いやに優しくするけど、あのトラウマはそう簡単に消えない。

 でも、三日程した時に、神の剣の副隊長シルヴィアさんが面会したいという事で、客室で面する事に。


「奥様。剣の訓練を、私達としませんか?」

「……」


 言われた事に、思わず絶句してしまった。表情にでていたのか、シルヴィアさんが慌てぱたぱたと手を振る。


「あ、あの、身を守るのにやっていて損はないですし…先日拝見した感じですと、奥様は闘神様の攻撃をうまく防いでましたし、その、筋はいいはずです。ただ、なんというか…闘神様は、別次元ですので…私達でしたら、新入りの教育もしますし、木刀なんかも使います。…その、こう言っては闘神様に叱られるかもしれませんが、初心者になにしてるのかと説教したい位で。本当は止めたかったのですが…奥様を大切になさってるので、上手く加減するだろうと思って」


 一息にそう言って、『申し訳ありませんでした』と頭を下げた。

 でも、シルヴィアさんが悪い訳じゃないんだけどな。シュトレイも誤ってくれたけど…あんなに愛してるっていうのに…傷つけるのに抵抗がないのは、すぐに治せるから、なの?


「…駄目ですか?」


 気遣う様に、そっと尋ねられて、シルヴィアさんを見た。心配そうなその表情に、反対に申し訳なくなる。それに、確かに身を守るのに必要な事ではある。

 でも訓練を木刀でやるって言ってたけど、それも当たれば痛いわけで。


「……綿(わた)で作った剣なら、やります」

「綿、ですか? どういった物か分からないのですが…」


 シュトレイだと融通きかないけど、シルヴィアさんは木刀を使うと言う話だったし、大丈夫かもしれない。そう思って、武器に制限をかけた。

 けれどどういう物か分からないらしい。頭に思い描いて、一つ作り出して渡せば。


「お、奥様! これいいですね。これなら子供でも安全に使えます」

「それ、私の国ではいろんな形状があったんですけど…あ、でもこれ、シュトレイに聞かなきゃ」


 言いながら、まだ顔見たくないんだけどと思っていると、シルヴィアさんが聞いてきます! と、凄い勢いでダイニングへと向かったので、お任せする事に。


 そんなこんなで、神の剣のお姉さま達相手に、ぽかすかと遊びながらも訓練をする事で気分がまぎれたのか、次第に恐さを薄れさせる事が出来た。

 後でシュトレイから聞いたんだけど、シルヴィアさんがシュトレイに対して説教をしたそうで。それを聞いた時に、シルヴィアさんに対して怒ったりしなかったかとひやひやしたものだ。実際シュトレイは深く反省したそうなんだけど…ほんとかなぁ。





「え!? 害獣が出たの?」


 ある日、ダイニングで朝食後にお茶しながらくつろいでいると、神の剣の隊長のイーヴィルさんが駆け込んで来て、害獣が出た事を報告した。

 強さや規模は大きくなく、神の剣だけでも問題なく討伐できそうだとの報告だったけど…


「丁度いい。沙耶、一緒に出るぞ」

「えっ!? そんな無理」

「見てるだけでいい。害獣がどんな物か見た事ないだろう?」


 見てるだけでいいならと、行く事にしたけど…本当に見てるだけだよね?


 出現位置へと馬で向かう道中で、個体はノーブルという、クマに似た物だと教えられた。でも、大きさがクマの十倍以上はあるそうで。十倍って、想像つかないよ…



 低木の木が所々に生えている荒地へとやって来ると、もうそろそろだと言われたのだけれど…遠くに居るらしく、小さな点が見えた。

 …えーっと…遠すぎて大きさがよく分からない。


「沙耶。ここ、しがみついてろ」

「え? …なんで?」


 馬の上で、何故か横抱きに乗せられていたのだけれど…そっと腕を取られて、シュトレイの肩に置かれた手。


「このままヤツの所まで突っ込む。それと―――目を、開けてやる。しっかり見ていろ」

「え? っ…!」


 シュトレイの言う、目を開けるとはどういう事なのかと聞こうとして…視界が、ぐにゃりと歪んだ。

 そして…見えるのは、様々な映像。まるで、テレビ画面が目の前にいっぱい並んでいるかの様。


「な、に…これ」


 でも、テレビ画面の様に一つ一つ区切られている訳ではなくて、境界があいまいで。


「これが、俺の神の目だ。そのうち沙耶自身で使いこなせるようにと思っていたんだが、な」

「なんかすごい、気持ち悪い…」

「…否定はしない」


 シュトレイからぼそりと返って来た答えに、思わず呆然としてしまった。そう思うならやらなければいいのにと思ってしまうのは、しょうがない事だよね!?


 ふと、中央に見える映像が変わった。シュトレイを中心に捉えているのだけれど、私をお姫様抱っこの様に抱き上げて…馬上からそのまま飛んだのが見えた。


「シュトレイ? っ…」

「喋ってると舌噛むぞ」


 馬の背から飛び上がると、オフィーリスで足場を作り、それを蹴って、まるで走っているかのよう。でも、最初にがくんと負荷が掛かったけれど、それ以降は体に全然移動のショックなど感じられず、風も感じない為に現実感がない。

 ぐんぐんと、クマに近づいてあっという間に目の前に迫っていた。その大きさは五十階位のビルに相当するんじゃないかと言う位で、某怪獣か! と、驚いたものの、次の瞬間シュトレイのやった事に、呆然としてしまった。

 走っている勢いのまま、私を抱いたまま、そのクマの額部分に飛び蹴りをしたから。


【グがあ゛あ゛あ゛ア゛ア゛】

「ひっ!」

「あぁ、耳が痛いな。まったく」


 物凄い叫び声を上げ、地響きがする程の音を立てて倒れたそのクマに、長い槍の様な物をどんどんと刺して行く。今は、剣に乗って上空に留まっている為、その情景が良く見える。

 刺す、と言っても、能力で出しているのか、気がついたら刺さっている状態で、地面が真っ赤に染まって行く。

あの槍で地面に縫い止められているのか、まるでガリバーのようだ。うん、ガリバーよりも恐い状況だけど。


「さて。止めはどうしようか。あいつ等にさせるか、俺がヤるか。沙耶がやってもいいが」

「え…」

「あいつ等の力量も見たい所だが、ここまでやってしまったしな。どうする?」

「…見てるだけでいいって、言ったよね」


 神の剣の皆が馬で駆けて近づいているのは、別画面で見えているけれど…シュトレイにそう言うと、苦笑を零してそうだったと言う。

 忘れていたのか、それともワザとなのか。ともあれ、シュトレイは、右手に刃が長さ三メートル、幅一メートルの大きな剣を出すと、上空から剣を突き出しそのまま落下する。もちろん私を抱いたまま、だ。


「ちょ、シュトレイ!」

「よいしょっと」


 スカイダイビングは嫌だと言っているのに! と、文句を言おうとしたら、何故かくるりと体を前転させ―――振り回される格好となった大剣で、すっぱりとクマの頭部と胴体を分断していた。

 切断した断面から大量の血が噴出したものの、シュトレイが壁を出してくれたので浴びる事はなかったけど。


「うぅ…匂いがすごい」

「焼いて食べると旨いぞ」


 あ。食べちゃうんだ、このクマ…そんな感想を呆然と思っていると、まだ色んな映像が見える中に、クマがもう一匹写っているのが見えた。


「シュトレイ、このクマみたいなやつ、もう一匹居るの?」

「ノーブル、な。ここからだとあっちだな。フェイ、報告位置に一匹いる。向かえ」


 指差して方向を教えてくれたシュトレイだけど、フェイさんに指示を出していた。てっきり傍に来たのかと思ったけど、居ない。

 もしかして、神器の機能かな? どこら辺にいるんだろうと考えていると、私たちを写している映像が、カメラを引いたように縮小された。

 そうして、私たちが米粒位になると、画面端に見えた、土煙を巻き上げながら走っている集団が見えた。

 この映像、どこを見たいと思う事で変化するみたいだなぁ。

 あれ? 集団は少し左の方向へと逸れた。そして、一人だけそのままこちらへと向かって来るけど…拡大してみれば、フェイさんだ。手綱を引いて連れているのは、さっきまで私たちが乗っていた馬だ。


「闘神様。先に部隊を向かわせました」

「ご苦労。これはどうする」


フェイさんはすぐに到着した。連れて来てくれた馬に乗りながら、報告を聞いたシュトレイが、クマ…ノーブルを指しながら聞く。


「出来れば城下へ出したい所ですが」

「そうか。では運ぶとしよう」


 そう言ったかと思ったら、あっという間にオフィーリスで包まれ…上空へ。

 上空にあるのは、別の画面で見る事ができたし、なんとなく目の使い方は分かってきたかも。

 でも、上空に浮かせてるのはどうやってるんだろう? さっきの、オフィーリスを足場にする方法とかも気になる。それに、剣に乗って移動とかも。

 気になって、シュトレイに聞いてみたけれど…イメージすれば出来ると言って、微笑み返すだけで答えてくれなかった。


 そして、先にもう一匹のノーブルへ向かった集団に追いつくと、すでに足を傷つけられて蹲っているノーブルがいた。


「闘神様! 恐れながらもう少々お時間を」


 私たちに気がついた神の剣のメンバーが、膝を着いてそう言う。シュトレイは笑って、肯き返す。


「上手くやったようだな。ほんっと、レイみたいな馬鹿じゃなくて助かるよ」

「…皇子は、あれでも闘神様を慕っているのですよ。あの大剣しか、国に残してくださらなかったから」

「好き嫌い等、命の前には不要だ」


 シュトレイがそう切り捨てると、その人は苦笑を零して、未だ戦闘を続けているメンバーを助けるべく向かった。


 ノーブルは蹲っていたものの、まだ頭は高い位置にある為、先程のシュトレイの様に首へ攻撃する事が出来ないでいる。

 けれど、何人かが長い鎖の先に鉄球がついた物をくるくると回し、投げ飛ばす。そう、まるでカウボウイの様に。

 鉄球が錘となり、くるくるとその太い首に絡まると、また別の人が同じ様にする。三重になった所で、馬に乗った人が同じ方向へと走れば…足のふんばりが利かないのだろう、あっという間にうつ伏せになるように引き倒される。

 そして背中から素早く首元へ移動し、剣を首へ何度も刺せばあっという間に戦闘が終わった。


「結構、あっさり終わるのね…」

「ん? あぁ、ノーブルは図体はでかいが動作が遅い。とはいえ、あの巨体だからな。踏まれたらひとたまりも無いし、腕を振り回されれば城壁さえ持たない。だから足止めとして足を切って、うつ伏せにして腕を封じるんだ。背後には流石に手が回らないからな」

「そ、そうなのね。今みてる感じだと、全然危険な感じがしないわ」

「…あいつ等の技量も、あるがな」


 確かに、さっきの鎖を首に掛けるのだってあっさりやってたけど、投げるだけの力も必要だし、方向もきちんとしてないと掛からないだろう。


「その、神の剣というか、シュトラータはこういうの得意っぽいけど…他の国とか、あと一般の人とかは、被害とか大丈夫なの?」

「国であれば、軍隊が大体見回りと討伐はしているから問題ないな。だが、一般…商隊や旅行者が遭遇した場合は逃げるのが一番楽だ。護衛者の力量にもよるだろうが」

「逃げるにしても、足が速い害獣とかはいないの?」

「いるぞ。そういうやつの場合は、生肉を置いて逃げる」


 な、なるほど。目を引くものを置いて、そっちに目が向いてるうちに逃げてしまえばいいということか。

 あとは…おなかいっぱいになれば来ないとか、そういう理由もあるかも。なんだか野生動物への対処法になってる様な気がするけど。

 他にも色々適応した対応策があるとかで、準備をしておけば安全なのだとか。最近では強い害獣がでないという理由もあるけれど、人的被害はないそうだから、よかった~。


「闘神様、お待たせしました。只今解体をしますので、天幕を用意します」

「頼む」


 声を掛けてきたのは、隊長のイーヴィルさん。血がズボンに掛かってるけど、シュトレイが綺麗な物へと変えてしまった。


「ありがとうございます。それと…先のノーブルはどうなさいましたか?」

「上にあるぞ。城下まで持って行ってやる」


 どうやら取りに戻らないといけないと思っていたらしく、イーヴィルさんはほっとしていた。なんでも、毛皮はもちろん、肉は安く売られ、一部貧民街へは無料で配られるのだとか。売り上げは神の剣のメンバーはもちろん、軍備に回されたりするらしいけど。

 傍で火を起こして、すぐにお湯の用意がされ…あっという間にコーヒーが大量に作られた。

 シュトレイが用意した、鉄製のテーブルと椅子でコーヒーを頂くと、隊長、副隊長と順番に口にして行く。みんなシュトレイはもちろん、私にも声を掛けてくれて、なんだかうれしい。

 皆飲み終わると、解体に取り掛かっているけど…


「皆、気さくに話し掛けて来るのね」


 話をしていて思った事。人によるけど、自己紹介から家族構成、家に遊びに来てほしい等、内容が友達とかに話すような気軽さだ。


「俺が堅苦しいのを好まないからな」

「そ、そうなの? でもフェイさんとか…」

「レヴァンにそれを求めるのは酷だろう。先代みたいに変わったやつも居たが、ほぼこんな感じだ」


 フェイさんに話を振ると、苦笑している。


「先代を引き合いに出されてしまうと困りますが…まるで悪友のようだったと、先代の父が書いた日記に書かれていましたね」

「…悪友…」


 シュトレイと悪友のように接するって想像つかない。でも、いつも丁寧な言葉や対応だと、疲れちゃうし…なにより、シュトレイが当時を思い出したのか、楽しそうに笑ったのを見ると、神様と言っても一般人と似た様な感覚なのかなぁ?

 なんだか、いろんな一面があって、どれが本当の姿なんだろう?

誤字脱字、指摘や感想等お気軽にどうぞ

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