49、防御と戦闘
教義の本を読んで、目からうろこというか、色々とシュトレイの事が分かったと言うか。
一番びっくりしたのが、神様と神の器が発するオーラを見極める方法があったんだけど…熱心に教義を読み込めば見える様になって、もっと極めると、巫女になれる資質も見れるとあったけど、信じられない。ネアさんに聞いたら本当にそれで見える様になったと言うんだから、驚いた。
戻ってきたシュトレイに聞いても、『見えなくてもいい』と言われるし。うぅ…眉唾だけど、教義読み込んでみるしかないのか。
翌日、まだ教義は半分位しか読めてないのだけれど、明るいうちに少し身体を動かそうなんてシュトレイに言われて、訓練をする事に。
引っ張られて連れて行かれたのは、なぜかダイニングからいけるテラスで。多少のスペースはあるものの、こんな所で大丈夫なのかと思ったら、シュトレイに抱き上げられて庭園へと降りていた。
柵は腰の高さ位まであるのに…フェイさんもひょいと軽くジャンプするように、柵を飛び越えてるし。身体能力ってどうなってるの。
「まず、今からやって見せるから見てて。あの時沙耶にやってもらおうと思ったのは、これ」
庭園へ降ろされると、シュトレイは少し歩いて私と距離を取りそう言うと、一瞬で卵型のような形でオフィーリスを張巡らされていた。
「わぁ…すごい」
「さぁ、やってみるんだ」
オフィーリスの壁を解除して、そう言われるけど…ちょっと疑問。
「足元って、どうしてるの? 足元から囲う感じ? それとも、えぇと…360度囲う感じ?」
「360度だ。だから、ここ、隙間が出来てるだろう?」
おいでと手招きされて、指差された地面を見れば、確かに隙間が出来てる。地面に影響が出ない様に、オフィーリスの板に乗る様に、自分の足元に出す方法もあるみたいなんだけど、距離感がつかめないと自分の足を切断する可能性があるなんて驚かされた。
「うぅ…シュトレイの馬鹿ぁ…恐いじゃないの」
「くくっ…俺がいるからそんな事は、万が一にも起きないがな。まずはやってみろ」
本当かなぁ。不安だけど、恐いから嫌だなんて言ってたらいつまでたっても、シュトレイの重荷になっちゃう訳で。
「沙耶。シャボン玉の中心にいる様な物だと思えばいい」
「う、うん」
肯いて、シュトレイの言う様にイメージしてみる。オフィーリスでシャボン玉…オフィーリスでシャボン玉…
「あ。出来た」
見回してみると、しっかりオフィーリスに囲まれていた。でも、シュトレイがやったみたいに卵型じゃなくて、ほんとにシャボン玉みたいに円形になってるみたい。カーブがそんな感じ。
んー…卵型…お、ちょっと壁のカーブが変わった。あれ。そういえば、長方形っていうのも有りかな? こう、テレビで実験する時に使う、透明な四角形のイメージで。
おお、イメージしたら本当に四角形になった。そっか、前にぬいぐるみを作った時に、失敗して背中が開いちゃったけど、あれを補修する様に形を変えられるのか。じゃあ、これにドアつけたら…部屋っぽくなるのかな?
…ドアも、ちゃんとイメージしたら出来ちゃったよ。しかも、玄関みたいな金属のドア…いや、確かに玄関のドアをイメージしたけどさっ!
ドアを開けたら猛獣がいる、なんて事はないよね? びくびくしながら、そっとノブを回して押し開けば…
「くくくっ…くくっ…随分、楽しんだようだな…くくっ」
「う…だって…」
ドアを開けたら、お腹を抱えて必死に笑いを堪えてるシュトレイの姿が目に入った。フェイさんは背中向けてるし。
「くくくっ…沙耶、消すなよ。そのままの形で、三人入れる位の大きさにしてみろ」
「え? …うん、三人、ね」
シュトレイにそう言われて、もう一度その中に戻る。もちろんドアからだけど。三人ていうと、これ位かな? でも、狭いと大変だしもう少し余裕を持って…
うん、これでいいかな。そう納得してドアから顔を出す。
「出来たよ」
「いい出来だな。フェイ、来い」
さっきみたいに笑ってはいないけど、にっこりと満足そうな笑顔をして褒められた。
ドアから顔だけ出していたんだけど、シュトレイに体を反転させられて、中へと移動させられた。そしてなぜかフェイさんを引き連れて、ドアから中に入って行く。
「ふむ、ではそうだな。今この中に三人いて、まだ余裕があるだろう?」
「うん。だって三人って言われても、どれ位かなんて分からないから」
「今こうして中に入ってるだろう? このままで、ぎりぎりまで狭めてみろ」
うぅ…これ、一気に狭めてやり過ぎたらと思うと恐いなぁ。…目の前にフェイさん、シュトレイといるから…ちょっとずつ狭めて行く。
三人が立っているぎりぎりまで狭めて、もういい? とシュトレイに聞けば、満足そうに肯いてくれた。
「では、実践しようか」
「…え?」
にこにこと笑いながらそう言われるけれど…手を引かれて移動したのは、訓練所だ。そこにはレイさんも訓練していたけれど、神の剣の副隊長シルヴィアさんもいた。
けれどその人たちに声を掛けるわけでもなく、シュトレイがいきなり剣を作り出してその手に握っていて。
「今から攻撃するから、さっきの要領で剣の当る所だけ防いで」
「え…」
「全部囲ったら見えなくなるだろう? だから、攻撃だけを防ぐんだ」
「な、なるほど。でも、そもそも攻撃を見れるかどうかが…」
「見れるだろう?」
いや、なんでそう断言できるの!? こんなことやったこともないのに、見切れるはずがないでしょ!!
「考えるよりは実際にやった方が早い。いくぞ」
「ちょ、まっ―――!」
振りかぶるとか、そういった予備動作を一切せずに、手でもてあそんでいた剣先を突き出されて、思わず目をつぶってしまった。
「こら。目を閉じたら意味がないだろう。ちゃんと見ないと防げるものも防げないぞ」
「だ、だって…怖くて」
聞こえて来た、呆れを含んだシュトレイの声に、そろそろと目を開けた。
「闘神様。先ほどの動きは、あまりに初心者向けではないと思いますが」
「そうか。だが…見えていたはずだぞ。怖がってないできちんと見ろ」
「見えるわけないでしょ!?」
「では、何故目を瞑った? 見えていない者は、気が付いたら刺されていた、という状況になるはずだが」
そう言われて、はっとした。確かに、さっき、向かってくる切っ先が見えた…
「気づいたか? あの世界では映像機器が発達していたからな。実際に対することはなくても、見ているだけでも捉える事は出来る」
「そ、そういうもの、なの?」
「実際に見ているだろう? そういう事だ」
だから目を閉じるのではなく、防げと言われた。防ぐのは、オフィーリスで、当たる部分だけ…
「ねぇ、これって、武器で防ぐのとどう違うの?」
「利点として、対多数の場合に防ぎやすい。それと、武器を持った手が自由だ」
むぅ…剣とかで払った方がやりやすそうなんだけど、確かにメリットの方が多いのか。
「武器を利用するのは後でやる。今は基本からだ。今度は目を瞑るなよ」
「っ!」
「そうそう、その調子だ」
今度は反対の手で剣を持って、腕を振り払う様に攻撃してきた。それを防げば、嬉しそうだ。
何度もその攻防を繰り返していると、シュトレイの両手に剣が握られ、双方から攻撃されていて。
「ちょ、シュトレ、イ」
「なんだ」
「も、タイム! 頭が、おいつかな」
「敵は待ってはくれないぞ」
確かにそうだけど! 初心者捕まえてこんなハードな事しなくてもいいじゃないの!
なんとかオフィーリスで防いでいたけれど、やっぱり自分の体で防ぐ方が楽そうだと思って、剣で防いだ。
「…沙耶」
「だって…体動かす方がいい」
「後でやると言うのに。まぁいい…そのまま続けるとしよう。だが…手は抜けなくなるぞ」
シュトレイの言った事を理解する前に、目の前に迫る刀身にオフィーリスで防ぐけれど、さっきまでの攻撃とはスピードが違う! もう、なんなの!?
オフィーリスの壁と剣でなんとか防ぐのだけれど、ふと感じた違和感。
「あ。しまったな」
シュトレイがそんな事を言って、攻撃をやめたおかげでほっとしたのだけれど…シュトレイが、上から落ちてきた何かをぱしっと手で掴んだ―――
「い、いやあああぁぁ!」
それは、剣を握っていた私の手だった。
*****
「いやあっ! いやぁ…」
「すぐ治る」
錯乱しているのか、ただ泣き叫ぶ沙耶の、消失している方の腕を掴む。そこに、切り飛ばしてしまった断面をつけ、そっとキスを落とせば、もう元通りだ。
「ほら、治っただろう?」
「やだ、やだっ…怖いっ」
「治ってるといってるだろう? ほら、な」
沙耶の治した手を握ってやってそう言うと、ひくりとしゃくりあげて、じっと手を見た。けれど、顔を歪めたかと思ったら、また泣く。
「治ったから、って…良い訳じゃ、ないもんっ」
「それはまぁ、すまないと思ってる」
「もうやだぁ…シュトレイのばかぁ」
しゃがみこんで膝に顔をうずめてしまった沙耶だが、これでは何もできないな。
「わかったわかった。今日はもうしないから、戻ろうか」
そういって、何とかなだめて部屋へと戻ったのだが…
「うわぁぁん。ネアさん~~~」
「え? お、奥様? どうなさいましたか」
部屋に戻り、キサネアが目にはいったのだろう。沙耶がネアにしがみついて泣きだした。その沙耶の行動に、ネアに嫉妬してしまうのはしょうがないだろう。
「と、闘神様。奥様は、どうかなさったのですか」
「……」
「ネア、食卓へお連れしろ。カモラーヌを淹れて差し上げなさい」
「は、はい…御前失礼します。奥様、どうぞこちらへ」
俺が答えなかったからだろうが、フェイがそう指示を出した。
ぐったりとソファに沈んだ俺に、フェイは渋みの強いお茶を出した。
「いくらなんでも、腕を落とすのはやりすぎです」
「仕方がないだろう。相手が武器を持つことで、本能でしか動けなくなるんだからな」
「説明して、武器を持たない様に諌めればよかったでしょうに」
フェイにそう言われても、ただ黙すのみだ。
沙耶の、反応の良さに歓喜した。武器を出した事で、そうなってしまう可能性を言わなかったのは…久しぶりに本来の力をだせるかもしれないと期待したから。
人相手では、本能で動いたとしても手を抜いている事は、知られていない。害獣相手でも、つまらないからと箍を外した事はない。
それに、沙耶は気づいているだろうか? あの時、一切血が流れなかった事に。
あぁ。本当に…早く手に入れたい。俺の―――
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数字を漢字で統一していたのですが、360度はなんか漢字気持ち悪くて、このようになりました。三百六十度…うん、なんか頭に入らない感じ。
みなさんはどっちがいいですか?