47、ついにダンスです!
ミンファちゃん達は久しぶりに会ったのだからと、そっとしておく事にして、私たちは街中へ行く事にした。一応ミンファちゃん達にはメイドさん二人ついているから、城の中を歩くもよし、神殿に行くのもよし、という事だった。街に行くのはいいけれど、パーティのエリア内だけという注意もしていたけど。
確かに、ミンファちゃんの格好で、家があるあの地区に行くのはちょっと危ないよね。
ということで、フェイさんを伴って街へと行けば、街人は結構気さくな人たちのようで、露店を歩けば串焼きをもらったり、クッキーみたいな焼き菓子をもらったりした。
「奥様! これうちの一押し!」
「あ、ありがとうございます。おいくらですか?」
「御代なんかいらねぇよぅ!」
にこにこにこ
満面の笑みで、どの露店でもこのやり取りが繰り返されるのだ。中央国の朝市の時と同じ様に、シュトレイに食べるのを手伝ってもらって、露店を歩いた。
ていうか、呼び名がもう”奥様”で定着してる。街にはほとんど出てないのに、なんでだろう…
「シュトレイ…なんで私、奥様って呼ばれるの?」
「ん? なんでと言われてもな………フェイ、お前か」
「そう呼ぶようにと言った事はございません。ただ、以前のパレードの際に闘神様の事はもちろん、奥様の事も聞かれますので、その時に私が呼んでましたから…それが定着したのでしょう」
犯人はフェイさんか! …今更感はするけどさ。メイドさんにも呼ばれてるから。
あと、なんで御代はいらないと言われるのか。それを言えば、フェイさんが当然の事だと言う。
「民には教義が行きわたっております。闘神様が全てを作り出せるといっても、食料品は作れませんからね。それに、奥様が異世界から来た事も理由の一つでしょう。奥様が、どんな味なのか知りたいと思うのと同じ様に、民は自慢の味を食べてもらいたいと思うのです」
「おもてなし、って事なのかなぁ。でも、おいしいからうれしい」
「俺は嫉妬してる。美味しい物を食べてる時は、本当にいい顔をするからな」
そう言ったシュトレイに、思わず吹き出してしまった。そんな所で嫉妬されるとは。しかも拗ねてみせるその表情が、すごくかわいい…
「沙耶?」
「っ…だって、かわいい…っ」
「かわいいは、沙耶の為にある言葉だろう?」
「ふむっ」
ぎゅっと鼻を摘ままれて、変な声出しちゃったじゃない! 離して~~~!
そんなやり取りを、街の人たちから温かい視線で見守らていたのだが、当然私は気がつかなかった。
カフェでお茶を取りながら休憩しつつ街を歩いて、一日を堪能した。中央国の屋台食べ歩きも良かったけど、シュトラータも負けてないと思う。確かに、色んな地域の食べ物はないけれど、シュトラータでよく食べられる物が分かったし。
フェイさんが言うには、今日はパーティというか、お祭りなので、一般家庭で作られる料理でも、露店として売っている所もあるらしい。確かに、すごい人出だから売切れちゃうと、困っちゃうもんね。
翌日は、お城の庭園で行われている会場へと足を運んだ。やはりというか、貴族とか、役職に付いてる人とかに挨拶されたけど…誰も彼も、シュトレイを敬い、大切にしている人たちの様で、ほっとした。
シュトレイが処罰…していたけれど、あんなシュトレイはもう見たくないし。役職の人選とかはフェイさんがしていたみたいだから、役職の人はひとまず安心だけどね。でも…
「フェイさん、あの…」
「はい。どうかなさいましたか?」
ひっきりなしに挨拶に来る人波がやんだタイミングを見計らって、フェイさんに聞いて見る。シュトレイを軽視している人はいるのかと。
そう聞くと、フェイさんは驚いた様で、眼を大きくした物の、すぐにふわりと笑う。
「今はいないと思います。闘神様が直に手を下されましたし、あの力を見ても尚そう思う様な輩はいないでしょう」
「…あの、力…軽視はされないけど、恐がれられそうですけど」
「沙耶。恐れも必要な事だ。恐れ、身を守ろうと相手…この場合俺だが、俺を知ろうとすればいい方へ向かうはずだ」
「そうです。その為の教義なのですから」
にっこりとシュトレイとフェイさんに笑顔を向けられて、パーティが終わり次第教義を見せてもらう事をお願いした。身体の事が気になってネアさんにお願いはしてたけど、結局シュトレイに話が行ってしまって見れてないしね。
日本で生活していて、宗教とか周りでやってる人はいなかったし…教義ってどういうものなのかも気になるしね。でも、聞いてるとシュトレイの行動とか思考とかが書かれてるっていうから…ある意味取扱説明書のような感じがするんだけど。
「…ぷっくくくっ」
「沙耶?」
「な、何でもないよ」
取扱説明書、と、自分で思いついておきながら、すごいしっくり来る単語で、思わず笑ってしまった。シュトレイにどうしたのかと呼びかけられて、慌てて笑いを引っ込めたけど…あ、だめだ。考えちゃ駄目だ。
考えるとまた笑ってしまいそうで、慌てて意識をにぎやかな箇所へと移動した。
夜になると、城の様子が一変して、落ち着いた雰囲気になる。日も暮れて明かりはあるけど蝋燭やランプだから、庭園の様な明かりがない場所から、城の内部へと舞台が変わる。
その時に、一度部屋に戻って休憩して、ドレスや髪型も変えられた。そうして城内へ戻ると、明日ダンスをするという広間では、歌姫と称されていると言う人の歌や、どこかの一団なのだろう、民俗舞踊が踊られたりしていた。
広間には小さなテーブルと椅子が置かれていて、私達が行くと、一番舞台に近い、良い場所へと案内された。近くに王様もいましたけどねっ!
舞台で繰り広げられるさまざまな催しでは、必ず『闘神様と奥様に捧げます』なんて言われてうれしいやら恥ずかしいやら。でも、それら全てに感動して、その夜は興奮してなかなか眠れなかった程で。
さて、そんな訳でダンスパーティの始まりですよ…
「うぅ…私達だけで踊るなんて聞いてないー」
「言ってないからな」
「ひどいー最低ー緊張する…」
「一番得意な妖精の幻影でよかっただろう?」
そう、そうなのだ。ダンスパーティで、最初に私達だけで踊るのだと、この会場に着いてからフェイさんに教えられたのだ。シュトレイの言う、妖精の幻影というのは、その曲の名前とダンスで、今まで習った物の中で一番踊りやすくて、覚えも早かった物だ。だってフォークダンスに近かったからさ…
「でも、四神の踊りをしつこい位にやってたのに、なんで妖精の幻影?」
「それは、もし三神を国に招待、もしくは中央国に行った時に、それを踊れないと困るからだ。俺の踊りは…一応、か。俺達の為のパーティなのに、武踊を踊るのは…自画自賛っていうのかな。まぁ、可笑しいだろう? それに、三神のダンスも、パーティの趣旨からはちょっと離れる」
「な、なるほど。でもだからってなんで私達だけでなんて」
「お披露目のために街を移動しただろう? それと同じ様な物だ。大丈夫、沙耶ならちゃんと踊れる」
シュトレイにそう言われたら、何故か先ほどまでの緊張がすっと抜けた。すると、まるでタイミングを計ったように、音楽が変わる。
「ほら、行くぞ」
「うん」
差し出された手を取って、そっと引かれるままにダンスホール中央へと行けば、曲が始まる。
テンポのいい曲に、転がるように移動をして、くるりと回る。また移動して、シュトレイに促されるように回れば、どんどんと楽しくなって行く。
「そう、いい調子だ」
「うん、楽しくなってきた」
周りにたくさんの人がいるのに、今じゃもう、シュトレイしか見えない。
ダンスを無事に踊り終えると、シュトレイはダンスホールから出た。そして、フェイさんがあらかじめ取っていてくれた席へと向かう。そこはダンスホールが良く見える場所だ。
「もう踊らなくていいの?」
「そうだ。今から武踊、三神のダンス、あとは適当にだな。次のダンスまでに流れる曲で、次のダンスが何か分かるようになってるんだが…踊りたければ踊ればいい」
「いい。というか、できれば踊りたくない、し」
さっきは何故か緊張が飛んで落ち着いて出来たし、途中から楽しくなったからいいけど…緊張の度合いが…
「出来れば、今のうちになれていた方が良いんだがな。中央国にいったら否応がなく三神の踊りは踊る事になる」
「うわ…そうなの?」
「そうだ。武踊は駄目だが、三神の踊りには参加しようか?」
「うぅ…中央国で恥かくより今かいたほうが良いって事?」
「そこまで自分を卑下しなくてもいいと思うが」
くすくす笑いながらそんな事言われても説得力ない! でも…確かに慣れてしまった方がいいのかも。こんな雰囲気の場所なんて、今までなかった訳だし。だから、お願いをしてみれば、もちろんと答えてくれた。
「あ。でも、シュトレイ…ダンスの前にね、おまじない、かけて」
「おまじない?」
「うん。妖精の幻影の前に言ってくれたでしょう? 私なら踊れるって。あれ聞いたら、緊張が解けたから」
「可愛らしいお願いだな」
にっこりと笑って、シュトレイはそう言うけど…可愛らしいだなんていわれて、恥ずかしくなる。
シュトレイのおまじないのおかげか、無事三神のダンスも難なくこなし、ほっとしたのも束の間で。
「闘神様、ぜひ私と踊ってくださいませんか?」
「奥様、ぜひ私と」
と、何故かテーブルの周りにダンスの申し込みをしてくる人が多数押しかけてきた。シュトレイは分かるけど、私!?
「ほら、だから言っただろう?」
「きっと何かの間違い…」
「まぁ、沙耶は俺以外とは踊れないからな。残念だがお引取り願おう」
そう、シュトレイが男性陣を一刀両断で一掃してしまう。これは、別にシュトレイが嫉妬して、とかそういう事ではないのだ。
何故か、男性に触れる事も、触れられる事も出来ないというか、気持ち悪くなるのだ。実験につき合わせてしまったレイさん、ごめんなさい。封印が解除されている事からそれが原因でもないと思うし、シュトレイにも原因は分からないらしい。これでシュトレイにも気持ち悪くなるようなら問題だけど、他の人の場合は関わらなければいいだけだから、問題ないと言われてしまったし。
「俺は沙耶の傍を離れたくはないし、フェイ、お前は? 踊れるだろう?」
「踊れますが…私に相手をしろという事ですか」
「物分りが良くて助かるよ」
「…しっかり記述されていましたが」
「そうか、それは知らなかったな」
…ひっそりと気配を消していたフェイさんに、強引にお嬢さん達を押し付けていたけれど…それでもぜひシュトレイと。と、頑張っている女性もいた。
あとから聞いた話では、闘神とダンスを踊ると、結婚の相手に恵まれるのだとか。もしくは、貴族の場合はいい所との縁談が入るとかね。神様効果ってこういうところにもでるんだね。でも、シュトレイがカッコいいから、っていう理由の女性もいるとは思うんだけど。だって目がきらきらしてるし。
ちなみに、私の場合は、闘神との繋がりが欲しい場合とかに利用される事もあるとかで、フェイさんが心配そうに説明してくれたけど。確かに、シュトレイに直談判するより、私から言った方が…シュトレイは聞いてくれそう、だけどね。
こうして、楽しいだけではなく色んな思惑もあったパーティは、無事に終わった。
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