45、シュトラータへ戻りました!
ふと目を覚ますと、シュトレイに抱き込まれて、しかも頭を撫でられていた。
夢見が悪かったのと、昨日の事があって…ちょっと恥ずかしいんだけど。
「…お、おはよ、う」
「おはよう。よく眠れた?」
「う、うん…」
シュトレイの反応というか、表情というか、いつもと変わらない平常運転だ。
顔を洗うべくベッドから出て、歩いた所で感じた感覚に、慌ててお手洗いに駆け込む。馬車だっていうのに、ちゃんと水洗トイレ付きだったのは喜ぶべきなんだけど、見た時には驚いたんだよねぇ。
それはともかく…生理が始まったのかとショーツを下ろしながら、生理用品は作れるのだろうかと頭を抱え―――って、下り物? これはこれで滅多にないんだけどなぁ。
ほっとしたけど…そういえば、もう随分こっちに来てから時間が経ってるはずで。今まで特に生理不順って事もなかったんだけど。ストレス、とかかなぁ? もしかして神の器特典だったりする? いや、まさかねぇ。
とりあえず、今日か明日にはシュトラータにつくはずだから、ネアさんに聞こう。
シュトラータのお城へ十五時位に着くと、ネアさんはもちろんメイドさん全員に出迎えられて、あれよあれよとお風呂にまず入れてもらってから、食卓でみんなとお茶です。
あ。到着前に馬車の中で、みんなのお土産の説明もしっかり聞きました。それを渡せば喜んでもらえた様でよかった。
中央国での話と言っても、パーティの話と、市場がすごい賑わいだった位なので、すぐにお開きとなる。
「あ、ネアさん。ちょっと、いいですか?」
「はい。なんでしょう?」
「ここでは、ちょっと…シュトレイ、ちょっと出かけてくる」
「今から? 何処へ?」
「…ぅ、えーと…」
「闘神様、女の子には女の子の秘密と言う物があります」
にっこりとネアさんが笑ってそう言うと、シュトレイは諦めたのか、許してくれた。
「この城にはサロンがあります。貴族の方達が使っているのですが、この時間ですと余り利用する方はいらっしゃいませんので」
「すみません…」
「いえ、大丈夫です」
ネアさんに促されて部屋から出ると、そのサロンへ向けて歩き出す。
そのサロンへは、城の出入り口から約五分程移動した場所にあった。出入り口に近いのは、貴族が奥の重要な箇所に行けない様にの配慮なんだとか。
貴族とはいえ、やはり王様とかが住むエリアには入れないようで。私達が今生活してるのも、そのエリアなんだとか。知らなかったよ…
ネアさんが、サロンで日当たりのいい場所に席を取った。確かに誰も居ないなぁ。もう夕方近いし、当たり前か。内装的には、オープンカフェの様な感じだ。外にもテーブルがあり、ガラス張りの室内には所々花がある。うん、流石にお城だけあって、花がすんごい盛られてるんだけどね。
テーブルに座って周りを観察していると、ネアさんがお茶を用意してくれて、席に着いた。
「何か、闘神様には聞けない事がありましたか?」
「あ、その…女性の身体の事、なんですけど」
誰も周りにいないけれど、話題が話題なので、こそこそと口にする。でも、生理という言い方で通じなかったから、症状を説明したら、こっちではブルーディって言うらしい。
「そのブルーディがどうかなさいましたか?」
「その、いつもはもう来ててもいいはずなんですがまだ来なくて。私が住んでいた所と、時間とか日時が違う事も関係するかもしれないんですけど…神の器だから、っていう理由ってあったりします?」
「なるほど…申し訳ありません。そう言った細かい事は、一般の教義には記載されていない為…私には分かりかねます。ですが、奥様でしたら当主のみが閲覧できる物も見る事が出来ると思いますし、当主に伝えておきます」
「お願いします。あっ、でも、その、ブルーディの事は…」
「言いませんので、ご安心ください。殿方に言うのは難しい問題ですもの」
そう言われてほっとした。気にしてるのはこっちだけっていう可能性もあるけれど、恥ずかしい物は恥ずかしいもん。
その後はゆっくりとお茶を楽しみながら、このサロンの事を聞いてみた。とはいっても、ネアさんも貴族ではあるものの、城には潜入として身分を隠していたから余り詳しくはないのだとか。
それでも、基本はどのサロンも同じ様で、貴族個人の邸宅の場合はその主がお茶をサーブするのだとか。準備とかはきっと侍女とかがやってるんだろうけど。
城の場合は主人と侍女で来るのがほとんどで侍女がお茶や菓子を用意をするのだとか。そして他の貴族の方達と親交を深めるそうで。でも、私って親交を深めた方がいいのか分からないんだよねぇ。誰も特に言わないからいいのかな?
サロンから帰ると、シュトレイに捕獲されてソファへと連れて行かれた。ソファへと座れば、にっこりと笑顔を向けられ…
「今から少しだけ、ダンスの練習しようか?」
「え…い、今から?」
「今から。フェイがパーティの日程を聞いて来てね。後十日しかないみたいだから」
「嘘!? だってあの時、なくて二週間って…」
「早く開催したいと、随分と頑張った者がいるらしくてね」
「がんばらなくていいのにいいぃぃぃぃ!!!」
ソファに座っていたのに、抱き上げられて強引に移動させられて…ダンスの練習をする羽目になりました。はい。
でも、移動したのは応接室だ。ソファとかテーブルなんかを端に寄せられていて、家具がないと結構な広さがある。
床に降ろされると、手を組まれて、ぴったりと体がつけられた。は、恥ずかしい…
「まず武踏をやろうと思うんだが、仮面舞踏会の時に見たのは覚えているか?」
「手の動きとか、動く方向なら少しは。でも、足は全然。スカートで見えなかったから」
「最初の一歩がどちらの足からなのか分かれば、後は何とかなる。右足から前に出すんだ。後は歩幅だが…パートナーの上手さが如実に現れるな」
「どういう事?」
「まぁやってみるか。まずは一歩動いたら止まる」
むぅ…やれば分かるって事なのかな? 言われた様に、足を動かすけど…右足前に出して、左足を右足の横、肩幅位に置いて…右足を左足の後ろに置いて時計回りにくるりと回るっと…
「そうそう、その調子」
「で、答えは?」
「足の長さを考えて足を運ばないと、踏むか踏まれる。後は、ここで動きをコントロールする。でないとふらつく事になる」
「そ、そうなの?」
ここ、と言ったのは、ぴったりとつけられたお腹というか腰というか。
「他のダンスはそうでもないんだが、武踏はな。テンポが速くて2人こうしてくっついて動くとなると、どうしてもバランスが取り難い。タイミングもずれやすくなるのもある」
「そうなんだ…」
「だから、沙耶。俺以外の男と踊ったら駄目だよ」
「っ…しない、ていうか私にダンスを申し込む人なんていないよ」
耳元で囁くように言われて、ぞくりとした。もうほんと腰に来るから止めて欲しい…
貴族でもない、異世界から来た、しかも神の器っていう私にダンスを申し込む人がいるとは思えなくてそう言えば、シュトレイは苦笑を零す。
「そうだといいんだが」
「そうだよ。ねえ、それより後は?」
「最初からやる?」
「ここからでいい」
そうして、晩御飯の時間になるまでには武踏の流れを、たどたどしくではあるけれど出来るようになった。
よし!この調子でさくっとダンスを覚えるぞ…!
ダンスの練習を始めて三日目。なんとか四神のダンスはマスターしたよ!でも、シュトレイに言わせると優雅さが足りないって言われて、優雅さのために特訓中。くそぅ。
「沙耶。ネアに身体の事、聞いたそうだな」
「っ!」
しっかりと抱きしめられているかの様に錯覚してしまう水湖神のダンス中に…なんで、秘密にしておきたかったシュトレイからそれを聞かされるのよ~~~! ネアさ~ん!
「教義には、その様な物は記していない。記されているのは目の事と…あとは何だったかな」
「…記してないって事は、それ以外は普通の人と一緒って事よね?」
わざと記さないようにしていた、なんて事じゃなければ後は…環境の変化でストレスが、とかの理由なわけで。そういう考えで聞いて見ると、何故かくすっ、と、笑われた。
「今からいう事は、秘密だよ」
「ぅ? うん…」
なんか秘密が多いな。確か前もそんな事を言われた気がする。言われた事、全然理解できなかったけど。
「前に言ったな? 沙耶は、俺。俺は、沙耶。覚えてるか?」
「うん。でも今関係あるの?」
「大有りだ。沙耶が自分で気づくのを待ちたかったがな。俺は、沙耶。という事は、沙耶の身体の事象を全て掌握している、という事だ」
「は?」
「生理が来ないのは俺がそうしているから、といえば理解するか?」
「え? …そんな事できるの?」
「できる。もう一つ言えば…俺が目覚めた時―――あの日、あの時、生理になるはずだった」
「はい?」
「その経血を喰って、目覚めた」
「………っ!?」
な、何、それ、どういうこと!? ていうか、いやいや待って、確かにあの日辺りは生理が来てもおかしくなかったけど…いや、そういう問題でなくて、血を喰うって…こわっ!
「子を成すのも、俺が卵子の調整をしている。だから、俺の意図しない子が生まれる事もない」
「…え?」
「沙耶は、俺としか子供は作れない。まぁ、だから生理がないといえばそうなんだが」
またなんか爆弾発言だよ。排卵までどうにかできちゃうのか…
「沙耶の国でも、子供は天からの授かり物なんて言っているが、それを実行しているだけだな」
「…なんでもあり、だね」
「神様だし? でも沙耶限定だがな」
「あれ、でも、確か、その…あれが来ないと子供が出来ないって聞いた事あるけど」
「それは子供が出来ない原因があって来ないだけで、来ないから子供が出来ないわけじゃない。だから、沙耶はちゃんとできる」
そ、そういうものなのか。うーむ。身体の事象を掌握、ねぇ…
「もしかして、私もシュトレイの事、そう言う風に出来るの?」
「出来るぞ? ただ、俺の何をどうしたいのかな?」
にやりと笑ってそう言われて…思わず考え込んでしまった。すると、シュトレイが噴出して笑う。
「くくくっ…考え込まれるとはな。まぁいい。少し休もうか」
びっくりして動きが止まったままだった。抱きしめられた格好のまま話していた事に気がついて、かぁっと顔が熱くなる。促されてソファに座ったけど、何故かシュトレイの膝の上に横抱きにされた。内緒話をするには丁度いいとか言って!
「うぅ…」
「他に聞きたい事あるか?」
「…赤ちゃん、作らなくていいの」
「一人は欲しいが、今は必要じゃないからな。まだいい」
「でも…私のいる意味って、その為にいるんじゃないの?」
「いる意味なら、この間封じられたから分かってると思ったんだがな。力を使う為に、沙耶が必要だ」
あ。そういえば、そうだ。あの時説明された事を思い出して、私が居なければ、シュトレイは力を使えない。となると、シュトレイの存在意義もなくなる可能性があるという事か。気をつけないと。
そういえば…あれも聞けば分かる、かな?
「あの、シュトレイ。私の身体って…しゅ、シュトレイしか、触れないとか、あるの?」
「ん? 侍女は触ってるだろう?」
「えっと…フェイさんに、封印解いてもらう時に…気持ち悪くて…あと、攫われた、時、も」
「いや、そういう事はないな。でも、まぁ…俺は平気なんだな?」
こくん。と肯くと、シュトレイは何か考え込んでいるみたいだけど。別に、今まで男の人と手をつないだ事も触れる機会がなかったなんて事もなかったし、その時に嫌悪感を感じたりなんかなかったんだけど…
シュトレイも同じ事を考えていたみたいで、質問されたけど。
「力を封じられたから、という可能性もあるから、後でフェイに協力してもらうことにしよう」
「協力って…フェイさん良い人なのに、気持ち悪いとか思いたくない…」
「じゃあレイでいい?」
「…それはそれで問題ありそう」
皇子様相手にいいのかそれで。そう思ったのだけれど、シュトレイから、『殺したいと思ってるヤツだし』なんて、とんでもない言葉が飛び出してきてびっくりしてしまった。
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ダンスとか分からん!
あと生々しくてごめんなさい。
沙耶に、こわっ!って言わせてますが、あれ、きもっ!ってしようとしてましたしwでもちょっとそれはまずいなーと思って。