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闘神に気に入られた私  作者: 新条 カイ
2章:目覚めて・・・
37/59

35、処罰って、こんなの・・・

 シュトレイが長い間フェイさんと刀で遣り合っていたせいで、翌日に剣を創る事に。

 イーヴィルさんには刀が欲しいとせがまれました。でも、シュトレイが刀は扱いが難しいからと、なんとか思い留まらせていたけど。

 刀って、ちゃんと使えば強いんだけど、他からの攻撃を受ける時に、側面からだと少し弱いらしい。知らなかったなぁ。

 でも、シュトレイに言わせれば、武器それぞれに長所と短所があるんだとか。だから、それをうまく使いこなす必要があるそうで。


 そのうち実戦訓練もする。そう言われて、全力で拒否したのは言うまでも無い。



 物造りができるようになってからというもの、毎夜パジャマとあのひらひらのサリューとで、シュトレイとバトルを繰り広げている。でも、寝る時にはパジャマだったのが、起きるとサリューに変わっていて、またそこでバトルをするという日々。

 これも訓練になるから。なんて言われて、悔しいやら腹が立つやらで、なんともしがたい状況で。


「うぅ~シュトレイの馬鹿~」

「くくく、そんな顔しても駄目だ」

「あっ、ちょっ…」


 もう!また顔中にキスするんだから!

 あれ、そういえば、唇にキスされたのって、シュトレイが”起きた”時の、一回だけだ。どうしてだろう。恥ずかしい事言ったり、こういう事は、頻繁にするくせに、どうして…?


「ああ、残念。もう時間か。顔洗っておいで」

「う、うん」


 いつの間にか、服も変えられてるし。なんか、すごいゴスロリみたいな服だなぁ。でも、スカートは膝丈まであるからよかった。

 身支度を整えて、皆で食事を摂る。これも、随分と慣れて来たなぁ。


「ああ、沙耶。今日少し出かけてくるから、部屋で大人しく勉強していてくれないか」

「うん、いいけど。どこ行くの?」

「ちょっとした雑務だな。沙耶が気にする事はない」

「そう。わかった。いってらっしゃい」


 雑務ってなんだろ? 買い物とかなら雑務なんて言わないだろうし。何かあるのかなぁ?




 勉強といっても、シュトレイが作ってくれた字の対応表を見ながら、黒板に書いて練習だ。

 ネアさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、何度も繰り返す。少しでも間違うと、ネアさんから指摘が入る。最近は、本も何とか読める様になった。


「…?」


 ふと、なんだか、歓声の様な、街の喧騒の様な音が聞こえて、顔を上げる。


「どうしました?」

「あ。ネアさんは聞こえませんか?なんか、歓声みたいな声がするんです」

「…さあ? 私には聞こえませんね」


 ネアさんには聞こえないのかぁ。でも、確かに聞こえるんだけど。まさか、お祭りみたいなことやってたりしないよね!?

 そう思って、部屋のテラスへと向かう。


「お、奥様っ」

「なぁに?」

「いえ、どちらへ行くのかと」

「ちょっと確認しようかなって。テラスに出れば分かるでしょう?」

「空耳では?」


 なんだか切羽詰ったように声を掛けられて、びっくりした。空耳、かぁ。でもまだかすかに聞こえるし、空耳だったらそれはそれですっきりするからいいんだけど。


「ちょっと疲れて来たし、ついでに気分転換になるかなって。」

「ではお茶を用意しますので、こちらへ」

「どうせだったら、天気もいいし、テラスでお茶もいいかも? ね、そうしませんか?」

「っ…はい。ではその様に準備します」


 うーん、顔が強張ってる? なんだろう、何か問題でもあるんだろうか。

 そんな事を考えながらも、気になるものは気になるので、テラスへの窓を開いて外へ出れば。


「やっぱり聞こえる。」

「…聞こえますね」

「ほら、空耳じゃなかった。でも、ネアさん、今日は何かあるんですか?」

「いえ、特にはないはずです。もしかしたら兵の訓練かもしれませんが」


 うーん、言われてみれば、確かに聞こえてくる方向には訓練所があったはず。

 そう思いながら、その方角を見ると、その上空に見えたのは…きらきらと光る物が、地面へ向けて落ちて行く様で。落ちる速度が速いのか、光が線となっている。

 しかも、それが結構な量で、まるで雨が降っているみたいに見える。


「なに、あれ?」

「なんでしょう?」


 二人して顔を見合わせてしまう。でも、なんとなくだけど、上空に雲があるわけじゃないから、雨じゃないと思うし、だとしたらこんな事できるのって、シュトレイ位しか思いつかないんだけど。

 あ、でも、確かこの世界では魔法が使えるんだよね。シュトレイのドア解除位しか見たことないけど、どんな物なのかな。

 聞いた話では、攻撃の魔法もあるみたいだけど、もしかしてそれかな? ネアさんに聞けば、そうかもしれないけれど、はっきりとは分からないという返答が帰ってくる。


「んーちょっと見に行ってもいいかな?」

「いけません。闘神様から部屋にいるようにと言われております」

「ちょっとだけなら大丈夫! これも勉強のうちだと思うし」


 攻撃魔法なんて見た事ないもん。頼めば見れるだろうけど、やっぱり好奇心が勝る。だって、アニメとかで魔法とかカッコよかったし。どっちかっていうと、変身願望の方が強かったけどね。

 強引な理論で、さっさとテラスから部屋へ戻り、移動してしまう。

 けれど、食卓へ通じるドアの手前で、ネアさんにドアを背に隠すようにされて、道を塞がれてしまう。


「奥様、お願いします。私達レヴァン家の者は、闘神様の言葉に絶対に背けないのです」

「え。でも、大人しくしているようにって、ここから出るなっていう訳でもないと思うんだけど」

「そうとも取れる言葉です。ですから…」


 言われてみれば、確かにそうとも取れる。でも、すごく気になる。うぅむ。


「ん? あれ。じゃあ、シュトレイの言葉に背けないという事は、私の言葉にも背けないって事になるのかな?」

「っ!」

「じゃあ、行きましょう?」


 びくっ! と、身体を硬直させて、目を見開くネアさんの態度で、それが正解だと分かってしまった。

 と、同時に、それを最大限利用させてもらう事にしよう。もしシュトレイに咎められても、私が強引に言い出した事なんだから、私が怒られればいい。



 そうして、その場所へと行けば。


「なに、これ…」

「…奥様が見てはいけないものです。戻りましょう」

「そう言う訳には。だって、これ、シュトレイがやってるんでしょう?」


 そこは確かに訓練場だけど、情景は一変していた。周りを埋め尽くすのは街の人達。そして、人々の目の前の地面には、鋭い剣先が天を指すように設置され、中央に細い通路。そして、頭上からはナイフが降って来ている。

 そう、テラスから見えた光。それは、ナイフだったのだ。細い通路を通されるのは罪人らしく、その通路へと出される前に、罪状が読み上げられている。

 細い通路へ出されたら、頭上から降るナイフを避けなければ、否応が無く傷を負うか、死だ。けれど、避ける事でバランスを崩せば、剣先の床に真っ逆さまだ。

 遠くから見ているだけでもおぞましい地獄絵図。けれど、その現場の傍にいる、漆黒の鋼鉄鎧を着た、シュトレイ。

 …こうしてる理由を思えば、止めたい訳じゃない。でも、シュトレイの心が、その鎧の色で表されてるように感じて。


「…シュトレイ」

「何故、ここにいる」

「私が来たいって言ったの。ネアさんは悪くない。私が強引な手を使っただけだから。…この人達って、朝議の時の人達、よね?」


 出来るだけ違う方角を見ながら、シュトレイに近づいて背後からそっと声を掛ければ、重い声が、ここにいる理由を聞いてくる。それが咎めている様に聞こえてそう言えば、シュトレイは深いため息をつく。


「今は、帰ってくれ。このままだと、沙耶を傷つけてしまう」

「え? どういう事?」

「沙耶の存在は、俺を補う甘露だ。それを、奪ってしまう」

「わ、分からないよ。どういう」

「闘神様、奥様に話してもよろしいでしょうか」

「俺が話す。余計な先入観は、必要ない」


 ネアさんは、シュトレイの言っている事が分かっているのか。でも、シュトレイが拒否しているから、教えてもらえなさそうだ。

 『帰れ』と、また言われ、ネアさんに促されて来た道を戻るけれど…歓声と、罵声と、悲鳴。それをただじっと見ているだけの、シュトレイ。

 今罰せられていたのは、シュトレイを蔑ろにしていた人達。その人達を、罰していると言うのに、全然、気が晴れている様子でもない。


 シュトレイ、大丈夫かな。




 あの時はシュトレイの心情を心配するばかりで、気にならなかったけど…部屋に戻って来て一息つくと、思い出してしまう。

 血の臭い…人の呻き声、叫び声、断末魔…それらが、気持ちをどんよりとさせる。

 映像では見たことあるけど、あくまで演技。そして、血なんかは極力押さえられてる。何より、映像だ。臭いなんて、する訳が無い。

 それが、こんなリアルで、あんなに大量に人の死体だなんて。


 心配したネアさんが、さわやかなオレンジの様な香りがする香料を焚いてくれて、部屋にいい香りが充満する。

 甘い砂糖菓子と、紅茶も淹れてくれて。砂糖菓子は、口に入れるとほろほろと溶けて、口の中いっぱいに甘さが広がる。

 おいしくて、気分は浮上するけれど、ふとした瞬間にフラッシュバックしてしまって、すぐに気分が落ち込んでしまう。


 そんな事をしていると、シュトレイが戻って来た。いつものラフなシャツとズボンだけれど、要所にワンポイントの様に入れられた刺繍が、高級感を出している。


「おかえりなさい」

「ただいま。…本当に、見せたくなかったんだがな」


 ソファに座ると、苦笑を零しながらそう言う。フェイさんが、メイドさんからワゴンに乗ったお茶セットを受け取ると、シュトレイと私に入れてくれる。


「もう下がっていい。夕食まで動かない」

「かしこまりました」


 フェイさんは、ワゴンに乗ったお菓子セットをテーブルへと置くと、ワゴンに古い方のポットとカップを乗せて、出て行った。


「随分、気落ちしてるな。具合は?」

「だいじょうぶ。シュトレイこそ、辛そう」


 そっと、辛そうに歪められている目元に手を伸ばせば、そのまま手を握られてしまう。


「沙耶、愛してる」

「っ…」

「今日ので、嫌いになったか」

「ちがっ…」


 慌ててそう言うと、ふわりと微笑まれて、顔に一気に血が上る。と、いきなり抱き寄せられて、シュトレイの肩口に顔を埋めていた。私の肩にも、僅かな重みがある。


「俺の、甘露。まだ、熟してない。だから、大事に育ててる」

「あの、それ、一体何の事?」


 そう言うと、くすっと笑ったかと思ったら、胸元に手を当てられて!?


「沙耶の、心。俺を、愛して。そうしたら、熟すから」

「あ、や、はなし、てっ」

「あぁ、ごめん。思わず」


 ネックラインはそれ程広くなく、狭い位のドレスだけど、指先が少し肌に触れて。ていうか、胸触った!

 真っ赤になって、ソファの上でだけど、シュトレイから逃げるように背中を向けて、うーうー唸っていると、愉快そうにくすくすと笑い声が聞こえる。


「ああ、そのドレスがなかったら、もっといい感触がしただろうに」

「っ!!! …シュトレイのスケベ!」

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