34、色々と勉強しないといけないようです
お城へと戻ってきました。パレード中は時間が取れないから、この国の実体を知る事は余り出来なかったけれど、人々の優しさには触れられたと思う。
もう少し自由時間欲しかったな~なんて、修学旅行のノリで思ってしまった。
で。今、シュトレイ、フェイさん、ネアさん、ミンファちゃんで、城にある書庫へと来ました。
―――文字の勉強をする為に。
シュトレイが『書庫』って言ってたけど、これは図書館だよねぇ。書庫って言うから、倉庫みたいなのかと思ったけど、ちゃんと整頓された本棚に、テーブルもある。窓が大きく取られていて、明るいし。
「国の歴史書はあるか。簡略された物がいい」
「はい、闘神様。用意出来次第お持ちしますので、あちらでお待ちください」
入り口に司書らしき人がいた。その人にシュトレイはお願いをしているけれど、文字の勉強に歴史書ってどーなの!? 英語の勉強だって、まずはABC…とかスペルからなのに。
ともかくとして、窓際の机へと座る。私の隣にシュトレイ、向かいにミンファちゃん。その両隣にフェイさんとネアさんだ。
席へ座ればネアさんが持って来てくれた、紙とペンが私とミンファちゃんの前に置かれた。
そしてシュトレイにも。それにシュトレイはすらすらと何か書いているけれど…日本語だ。
「シュトレイ、それ」
「前に言ったはずだ。ひらがなと同じだと。だから対応表をね。日本語と違って、漢字なんか無いから簡単なはずだ」
そう言われて、シュトレイが書いている手元を見れば、たしかに50音の横に、絵文字が書かれている。
むむ、という事は、何もここに来なくてもなんとかなったんじゃ。そう言うと、シュトレイに『歴史も知ってたほうがいいから』と言われた。
確かに何も知らないからなぁ。でも、歴史より、今! と、教義の方が、大切な気がするんだけどなぁ。
「はい、これ。これを見ながらでいいから、読み上げてみろ」
シュトレイが書いてくれた対応表。それを受け取って、本を開く。ミンファちゃんは、もう既にネアさんと一緒に指差しながら読んでいる。
なんだか小さい子が絵本を読んでもらってるみたいで、なんかほのぼのとする。
「と、空間を遮断しておこうか」
シュトレイがそう言うと、ふわりとした感覚がして…私達が座っている場所を、”なにか”がぐるりと取り囲んだ。
その”なにか”が、はっきりしない。見えないんだけど、なにかがそこにあるという感じがするだけで。
きょろきょろと見回していると、、シュトレイに頭をそっと撫でられた。
「ふふ…これは、そうそう見える様なシロモノじゃない。だが、ちゃんと分かったようだな」
「えっと、どういう事?」
「いずれその勉強もする。まずは、こっちを勉強しようか」
とんとん、と、分厚い歴史書を指で軽く叩いて、にっこりと微笑まれる。
気になる所だけど、確かに今は、その為にここに来ているんだった。
ぱたりと、本を開き、シュトレイが書いてくれた対応表とにらめっこしながら、一文字一文字読んで行く。
ダイニングへと戻って来てから、シュトレイに小さな黒板を作ってもらって、漢字の書き取り練習の様な事をしたのは、言うまでもない。
今日は、シュトレイとフェイさんとで訓練所に来ました。その時に、”神の剣”の主要メンバーと顔合わせしました。
隊長のイーヴィルさん、副隊長のユートさんにシルヴィアさん。シルヴィアさん、女性だよ!女性!と、驚いていたら、私にも隊が着く事もあるそうで、そういった点から、この国の軍は、男女の区別無く入隊し、訓練もするのだとか。
あと、副隊長の補佐役として、それぞれに2人ずついるみたい。
今日は取りあえず、隊長と副隊長だけだったんだけど、隊長、とはいっても、大隊長はシュトレイなので、シュトレイからの命令が最優先されて、命令が無い時は城下町の警護をしているのだそうで。
で、ここに来るのに、なんで動きやすい格好で来たのか。神の剣のメンバーとの顔合わせなら、ドレスでもよかったんじゃないか。
そんな事を思っていたら、なんと!このメンバーに、私が力で武器を作るようになんて言われた!
「ちょ、シュトレイ、そんなの無理に決まって」
「今までの神の器なら、出来ても精度が低くてお飾りになるだけだったが、沙耶なら十分。それに…」
『サリューも作り変えられる』
「! やる、やります」
こっそりと耳打ちされて、俄然やる気が出てきた! だって、毎晩、あんなの着せるんだもん。パジャマがいいもん。
「くくくっ、ホント即物的でいいな」
「だ、だって、普通の可愛いパジャマだってあるのに、なんでいつもあれなの」
「俺の好み」
「シュトレイのへんたいー」
そんな遣り取りをしていたら、フェイさんに止められて、はっとした。そ、そういえば他に人いたんだよね。はずかしい。
「では、沙耶。こっちへ。お前達は、得意な武器で模擬試合でもしていろ」
シュトレイがそう言うと、一斉に礼をして、どこかへと向かう。武器庫にいったのだろうとシュトレイに教えられ、訓練場の端へと、一緒に移動した。
そうして、ベランダや庭で使う様な、金属製のガーデンテーブルを作り出すと、そこに座って説明してくれた。
物を作るのに必要なのは、イメージ力だという事。本当は成分だとか、細かい事も必要らしいんだけど、そこら辺は補正されるから心配要らないと言われた。どうやって補正してるのか、気になる所だけど。
そして、重要なのが、3Dでイメージ出来るか。人間はどうしても2Dで見ている為、イメージすると2Dになってしまうのだとか。
言われてみれば、そうかも。後ろ部分があるのは分かってるけど、同時に見えてない部分なんて考えないなぁ。
後は、どこにその物体を出すのか。シュトレイはよく、着ているドレスをそのまま形を変えたりしてるけど、それは着ている物自体を、こう変えたいとイメージするのだとか。
他にも色々一通り説明されると、シュトレイにやってみるようにと言われる。
「剣じゃなくてもいい。一番いいのは、イメージしやすい物だな」
「え? でもさっき…」
「まず、コツを掴む事から始めよう」
イメージしやすい物。子供の頃から持ってて、大好きだったクマのぬいぐるみとかでもいいのかな?
言われた様にイメージして、やってみる。出来たけど…手に取ってみたら、背中部分から綿が!
「いやー背中が開いてるっ」
「開いてるというか、背中部分がないというべきだな」
「うー…やっぱり無理かぁ」
「このぬいぐるみを補修してみるといい。このままの方向で。」
テーブルに置き直されたぬいぐるみは、私の方に正面が向けられている。このままで補修だと、見えない場所を直すということだから、これも訓練になるのか。
何度か繰り返すと、どうにか補修も上手く行った。シュトレイからもお墨付きをもらえたし、よかった~
思ってたよりは、難しくないかも。
「次は、剣でやってみようか」
そう言われて、ふと目を向けたのは、模擬試合をしている三人と、フェイさん。三人は両刃の剣を使ってるみたいだけど、フェイさんはなんだろう、あれ。槍っぽいけど、反対にも刃があるから槍じゃないよね。
うーん、剣なら、やっぱり3人が使ってるやつだよね。でも、どっちかっていうと、イメージしやすいのは刀なんだけど。
そんな事を思いながらやってみたせいか、案の定鞘に収められた刀が出来上がった。
「あれ。刀になっちゃった」
「身近な物、という訳でもないが、テレビで入ってくる情報に影響されたな。だが、ちゃんと出来てるみたいだ」
『上出来上出来』そう言いながら、シュトレイが手にとってテーブルから離れると、鞘から刀身を抜いた。それがなんだかかっこよくて、時代劇の俳優さんみたい。
でも、成功していてよかった~。鞘だけで中の刀身がなかったらどうしようかと。
「フェイ、少し相手しろ」
「え? シュトレイ?」
「扱った事がないからな。見てはいたが、どういうものか試してみないと」
だからって何も今じゃなくても! そう思っている間にも、シュトレイは模擬試合をしている方に行ってしまった。
そうして、三人はこちらに来るみたいだけど、シュトレイとフェイさんで、打ち合いを始めてしまう。
「奥様、あの武器は奥様が作られたと、闘神様から伺いましたが」
「あ、はい。そう、ですね。剣を作ろうとしたんですけど」
「初めて見るんですが、あれは奥様の国の物ですか?」
三人がこちらへと来たら、隊長のイーヴィルさんに質問される。なんだか目がきらきらしてるんだけどっ!?
それより、日本の事とかって、話してもいいのかな? 生活様式とか、全然違うし、ハイテク機器なんて、この世界で見た事ないし。取りあえず、言っても問題なさそうな事だけにしよう。うん。
「はい、そうです。使う事は、なかったんですけど、よく目にしていたので」
「なるほどなるほど。で、あの武器の名前は…」
「はいはい、隊長その辺にしてください。いきなり女性に失礼ですよ」
ずいっと、近寄って来られてびっくりしたけど、副隊長のシルヴィアさんが割って入ってくれた。
そうして、もう一人の副隊長のユートさんが、困ったように笑って、隊長を背後から羽交い絞めにしている。
「えっと…」
「すみません、奥様。隊長はちょっと…どころじゃなく、武器マニアなので」
「マニア、ですか」
「えぇ、それが高じて、隊長になったようなものです。武器の扱いが上手いので」
「そ、そうですか」
ユートさんに羽交い絞めにされたまま、ずるずると引きずられて行ってしまうのだけれど、そんなに離れなくても。
それに、3人の武器を作らないといけないんじゃ?それをシルヴィアさんに言うと、
「闘神様が満足されてからでも構いませんので」
それまであそこで取っ組み合いでもしていてもらいましょう。なんていわれて、視線を向ければ、いつの間にかイーヴィルさんは羽交い絞めから抜け出して、殴り合いのような事をしている。
シルヴィアさんと笑いながら、シュトレイとフェイさんを見れば、シュトレイはもうコツを掴んでいるようで、テレビで見る、殺陣の様な感じで動いている。
ああ、そういえば、シュトレイが戦う所、初めて見たかも。シュトレイが寝ている時に体験したけど、あれは自分の身体が動いていたからなぁ。
かっこいいなぁ。着流しなんて着たらどうなるんだろうなぁ。髪色がプラチナブロンドだから、違和感あるのかなぁ?
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「イメージすると2Dになってしまうのだとか。」について。私はそうだけどみなさんはどうですか?
でも、よく考えたら、3Dでイメージしろと言われれば、やって出来なくは無い気がする。