33、僅かに感じた違和感
結局、ネアさん、ラビーさんと話しても、はっきりとした手もなく、嫌だと思った事は直して貰う様にするしかないという事に。
うぅ…でも、直して欲しい所を言ったとしても、はぐらかされそう。今までも、知られたくないとかいって、はぐらかされる事多いし。
「奥様、少し歩きませんか? あちらにちょうど見頃の花があるんです」
「わぁ、見てみたいです」
「ではこちらへ。闘神様が起きる時期に咲くので、闘神の花とも呼ばれているんですよ。イシス、お願いね」
「はい!」
イシス君は、さっきまで大人しくしていたのに、元気よく返事をすると、先導してくれる。三人で一緒に付いて行くけれど…
―――あれ? なんだろう。
不意に感じた、感覚。なんだか寂しい様な、何かを忘れている様な、ぽっかり心に穴が開いた様な。
「奥様? どうかなさいましたか」
「え? あ、ううん。なんでもないの」
どうやら立ち止まってしまったらしく、ネアさんが心配そうな表情で覗き込んでくる。慌ててそう言うと、具合が悪いようなら。なんて言われてしまう。
「大丈夫です。ちょっと考え事で」
「でしたら良いのですが…」
そう誤魔化してみたけれど、まだ心配そうにしている。ラビーさん、イシス君にまでそんな顔されて申し訳なくなる。
にっこりと笑って見せて、行きましょうと促して歩き出した。
まだ感覚があるけれど、この感覚がなんなのか分からないし、気にしない様にするしかない。
案内された花畑は、白くて丸い花弁が連なっている花が一面に広がっていた。花の形は少し違うけれど、鈴蘭の様な花だ。けれど、かなり大きい。
花弁が手の平位の大きさで、背丈は、大きい物だと私の喉元位まである。そして、香水の材料になったりもするらしく、すごく甘い香りがする。
さわさわと風が吹けば、辺りから漂う甘い香り。真っ白で丸い花はとても可愛くて。どうして、シュトレイがいないんだろう。確かに大切な話だろうけど、いままでずっと傍にいたから、寂しい、な。
あぁ、さっきからあるこの不思議な感覚が、『寂しい』なのかも知れない。
けれど、寂しいと思うという事は、シュトレイの事…?
「? 奥様、大丈夫ですか? 顔が真っ赤!」
「だ、だいじょうぶ、です。いろいろ、考えちゃって…あはは…」
好き、なのかな? 嫌いじゃあないけど、でもなんで? 確かに顔は好みだよ。瞳も綺麗だし。でも、見た目だけでなんて事ないはずだよ!?
少し風も冷たくなって来た事もあって、室内へ戻ってきました。通された部屋は、コビーさんのサロンという事で、調度品等は幾分女性らしい。
そうして淹れてくれた紅茶を飲みながら、談笑していると、入り口のドアがノックされた。
入ってきたのは、メイドさんだけれど、そのメイドさんの後に続いて入ってきたのは、シュトレイで。
「あ…シュトレイ、お話は終わったの?」
慌てて立ち上がり、シュトレイの傍へと行きながらそう言うと、何故かシュトレイが困ったような顔をした。
「沙耶…何故、泣く?」
「え? …あ、れ?」
そっと指で頬を撫でながらそう言われ、慌てて自分の手で触れてみれば、確かに頬が濡れているし、涙が零れている。
と、そう認識した途端に、ますます涙が零れ、ひきつけるように嗚咽が零れる。なに、これ。なんなの!?
「…だから申し上げたはずです」
「うるさい黙れ。部屋は何処だ」
「こちらへ」
ふわりと抱きしめられて、なんだか力が抜ける。抱き上げられて、フェイさんが案内してくれた部屋に入れば、ソファに座ったシュトレイの膝の上に横抱きに座らせられて。
フェイさんも出て行ってしまい、二人っきりになったけれど、その頃には少し落ち着いて来た。…まだ、涙は流れているけれど。
「ねぇ、沙耶。俺、少しは自惚れてもいいのかな?」
「な、に?」
そっと頬を撫でながら、涙を拭われて。覗き込むように、顔を近づけられた。
「沙耶の心に、俺はどれ位あるのかな?」
「…え?」
「愛してるよ、沙耶。沙耶は、少しは愛してくれてる?」
い、いきなり何!? それに、唇が触れそうな程至近距離で、そんな言葉を囁かないでよぅ! 顔が物凄く熱い。絶対真っ赤になってる!
というか、逃げたい、のに、なんで動けないのっ! こんな状況でまともに話せるはずないじゃない! 吐息が掛かりそうで、息もできない!
「沙耶。答えないなら、キスするよ?」
「! …い、まは、まだよくわからな…でも、嫌いじゃ、ない、から」
話したら唇が触れそうで、たどたどしくなんとか答えれば、シュトレイの瞳が楽しそうに笑みを刻んだ。そして、くるくると色んな色が現れる。まるで万華鏡だ。
「仕方がない。自身の心ほどよく分からないものだしな。時間はまだある」
そう言うと、額、頬へと柔らかくキスをされて、そっと離された。
うぅ…ほんと心臓に悪い。
「涙、止まったな。沙耶、顔洗っておいで」
「うん」
そっと、膝の上から降ろされる。この世界の化粧って、落ちやすいんだよね。崩れるというより、消える感じ。だから、きっと泣いた事で流れてると思う。
示されたドアを入れば、洗面所で。鏡に映った顔は、少しアイシャドウが取れた程度だった。そうなのよね~マスカラとか、アイラインとかしないから、そこまでひどくならないのよね。
何故か、顔を洗って戻ると手招きされ、食事の時間になるまで、シュトレイの膝の上で抱っこされたままだった。
恥ずかしかったけど、なんだか気分が良くて、そのまま過ごしてしまったのは、不覚だったかも。
誤字脱字、指摘や感想等お気軽にどうぞ
最後の文面に、「不覚」を使ったけど、なんだかしっくりこない。
日本語ムズカシイネorz