31、フェイさん、ネアさんの実家へお泊りするようです
そうそう、フェイさんとネアさんの実家がある街にはホテルがあったのだけれど、シュトレイがこの際だからとご実家へとお邪魔しました。
うん。フェイさんの役割から考えたら、このお屋敷も妥当だよね。
なんていうかもう、ホントに豪邸。そりゃ、お城よりは狭いだろうけど、貴族ともなるとコレくらいが当たり前なんだろうか。
だって、門から屋敷まで馬車で十分ってどんだけなの!?
屋敷までの道中に、噴水がある庭園があったり、何故か畑があったりするし。
建物はコの時形になっていて、中央の空きスペースは訓練所になっているとか。見せてもらったけど…サッカーフィールド位の広さがあるってなんなの!?
建物は二階建て位の高さだけど、大きく作ってるからこれで一階だけだそうで。確かに天上高いし内装も綺麗で、シャンデリアとかもある。
屋敷をフェイさんに案内されながら通された一室に入れば、ずらりと勢ぞろいした人々。フェイさんが順に紹介してくれた。
「闘神様、奥様。紹介します。こちらが、私の曾祖母のミーネ。こちらが祖父のトラビスに祖母のユリア。こちらが父のメッシィに母のフローラ。そして妻のラビーに息子のイシスです。」
「ああ、よく繋いでくれたな。これが俺の器だ。」
「沙耶です、いつもフェイさん、あ、シュフィットさん、キサネアさんにお世話になっています」
「ありがたいお言葉、ありがとうございます。どうぞ二人の事は、愛称で呼んでください」
曽祖母と紹介されたミーネさんが、足が悪いのか椅子に座ったまま、けれど、しっかりとにこにことした顔でそう言ってくれた。曾祖母ってことは、曾おばあさんだよね。御年はいくつなんだろう。
しわが深く刻まれた、でも柔和なその顔は、ネアさんと似ているかもしれない。雰囲気も、そんな感じがする。
「沙耶。少し席を外してくれないか。ネアに庭園でも案内してもらうといい」
「うん。でも…余り、熱くならないでね」
フェイさんの自宅へ来たのは、理由があるからだ。フェイさん―――レヴァン家を遠ざけた理由や、シュトレイを信仰しなくなった事由を聞きたかったから。
その事で苦しむシュトレイを何度も見た。この国の事、世界の事を、全く知らない私ができる事も無くて、ただ傍にいる事しか出来ない。
シュトレイは、その苦しみを私に知られたくないのか、詳しく話してくれないし、遠ざけようともするから、無理に聞くことも出来なくて。
どうしたら、いいんだろう。
「ラビー、イシス。ネアは家を離れて随分経つ。庭園で変わった所もあるだろう? 着いていてさしあげなさい」
「はい。お茶の用意もしますね」
フェイさんが、奥さんと息子さんへ優しく言うと、ふわりと笑うその二人。息子のイシス、は…三歳か、四歳位だろうか。元気に返事をした。
「こちらです、おくさま!」
「まぁ。イシスったら。イシス、ママはお茶の用意をお願いしてきますから、ご案内お願い出来るかしら?」
「まかせて!」
そう言って、張り切るその小さな男の子に、思わず笑みがこぼれる。
「あの子、神の剣になるのだと意気込んでいるんです。教育はしておりますが…ネアさん、お願いします」
「えぇ。大丈夫です、お義姉さま」
そんな話を聞いている間にも、部屋のドアでそわそわした様子でまっている、イシス。
なんだろう、この国の子はこんなにしっかりしているものなのかな? 日本でも、確かに聞き分けのいい子もいるけど、しっかりしてるかっていうとまた別問題だし。
そわそわとドアで待つ姿は、可愛らしい。早くとせかせるでもなく、ちゃんと待っていられるのはすごいと思う。
待たせるのもかわいそうで、くすっと笑って、ネアさんと一緒に歩いて行く。
「あ、そういえば、神の剣って?」
「はい、闘神様配下の軍をそう呼びます。城に既に配備されていますが、動かすのはパレードが終わってからですね。行う事は、害獣退治や攻めて来る他国の排除ですが、今ですと…害獣退治位でしょうか」
神の剣という名称が分からず、道中に聞いてみれば、そう答えが返ってきた。確かにシュトレイから、戦争とか害獣退治とかすると聞いていたけれど、その軍が神の剣なのか。
と、そこまで聞いて、思った事。
「フェイさんの一人息子を戦いに出しちゃっても、大丈夫なの? その、跡継ぎ、とか」
強いフェイさんが父親だから、簡単に死ぬ様な力で戦に出す事もなさそうだけど。フェイさん、シュトレイと戦っても、腕を痛めた位だったし。
でも、何があるのか分からない、し。けれど、そんな心配を他所に、ネアさんは大丈夫だと言う。
「訓練指導をするとか、跡継ぎが出来てから、という選択もありますから」
「そっか。戦うだけって訳でもないんだ」
「えぇ。それに、繋ぐ者として、武芸が出来ないと困りますから、神の剣になりたいというのは、好ましい事です」
「確かにそうだよね。…繋ぐ者って?」
跡継ぎ、とかなら分かるんだけど、繋ぐ者ってなんだろうと、違和感を覚えた。
ネアさんが教えてくれたけど、シュトレイが寝ている時のレヴァン家の跡継ぎをそういうのだと教えられて、ほんと、シュトレイ中心の家なんだなぁと思った。ここまで徹底されていると、感心というより、驚きのほうが強いよ。
「とうちゃくです!ここで、きょう、ぎ、もしたりするんですよ!」
「ありがとう。そうなの、ここで教義もするのね~」
たどたどしい言葉は、やはりというか、年相応で、かわいらしい。
ここには円テーブルと、椅子があり、確かにお茶も出来るだろうし、教義も出来そう。
開放的で、緑と花が咲き誇るこの場所で、どんな風に教義がされるのか、気になるな~。今だ教義の勉強してない、し。
そこに咲き誇る花は色んな種類があって、バラの様な物、甘い香りがするツツジの様な物、小さな花がたくさん咲いている物などがある。
流石に、イシス君は花の種類までは分からないらしく、ネアさんが説明してくれた。一緒に聞くなんて、偉いなぁ。遊びに行っちゃったりしないなんて。
「奥様、お待たせしてすみません。お茶の用意が出来ましたので、どうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
呼ばれて振り返れば、ラビーさんがメイドさんを連れて来ていた。
促されてテーブルの場所へと戻れば、お菓子セットと茶器が揃えられていて。席に着くと、淹れたての温かなカップが出される。
「お口に合うといいのですが」
「いただきます。…ん、すごい、良い香り。おいしいです」
「良かった。改めまして、ラビーと申します。こちらは息子のイシス。粗相をしてなければいいのですが」
「そんな、全然! ちゃんと案内してくれましたよ。ラビーさんありがとうございます」
そう言うと、ふわりと笑うラビーさん。赤茶の髪の毛で背中までゆるくウェーブしている髪と、栗色の瞳をしていて、地球を思わせるその色。けれど、イシス君はやはりというべきか、フェイさん、ネアさんと同じ白に近いシルバーだ。イシス君にもお礼を言うと、満面の笑みで返事をした。可愛いなぁ~。
そういえば、お父さんも、おじいさんも、その色だった。おじいさんもいい年だろうに、白髪じゃなかったのは…死ぬまで”レヴァン”を背負うという事なんだろうか。
レヴァンという重さを考えても、どうしようもない事だけれど。
「奥様は、異界から来られたという事ですが、ここの生活には慣れましたか?」
「あ、はい。少し、は。…でも…」
尋ねられて返事を返して、シュトレイとどう付き合って行くべきか悩んでいる事を話す。私の今までの世界での神様に対する常識なんかも。
最近では、その腕の温かさも、好き、だけど。それでもまだ、踏ん切りがつかないというか、煮え切らないというか。
だから、女子同士の恋バナで、良い考えがないかなぁ、なんて、ちょっと他力本願な考えがあったりする。
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徐々にほだされてきた感じがしますがナニカ。