26、まるでミルクキャンディのような日
ふわふわと、浮遊するような感覚にくるまれて、目覚めた。
「ん…」
なんだろう、この壁は。なんか…気持ちいい。
「ふ、おはよう、沙耶。」
「え? …!?」
僅かにかすれさせた声は、シュトレイだ…! そういえばシュトレイが目覚めて、一緒にベッドに入ったんだった。
それはいいとして、なんでこんな…!
シュトレイに抱しめられる様にして眠っていた事に気が付いて、慌てて身体を起こしたけれど、ぐいっと強い力で引き寄せられて、シュトレイの腕の中へと逆戻りした。
「ちょ、シュトレイ!」
「沙耶。十五年待ったんだから少し位いいだろう?」
そ、そういう問題じゃない!
…あれ?十五年待ったって、どういう事だろう。
「? …どうかした?」
「え? あ、その」
シュトレイの発言に疑問を抱いた事で、逃げ出そうともがいていた力が弱まったからだろう。訝しげな表情をしたシュトレイに、そう聞かれた。
うーん、聞いても、いいのかな?
「十五年待った、って、どういう事?」
「そのままの意味だよ。沙耶を見つけて、その内包する力に歓喜して、この日を待った。それが、十五年」
”約”だけどね。なんて言って笑うその顔を、まともに見てしまって後悔した。
だってすっごいカッコいいっていうか可愛いっていうか、ああ! もう!
「ずっとこうしてたいけど、残念。そろそろ朝食の時間になるな」
そんな声が聞こえたかと思ったら、抱きしめられていた腕の力が緩む。
何かが身体の周りを回った様な感じがして、なんだろうと思ったのも束の間、身体を起こされて、シュトレイに準備しておいで。と言われた。
―――いつ変えたのだろう。ドレスになってる!
驚いて呆然としてしまったけれど、シュトレイに促されて顔を洗いに洗面所へと向かう。
準備を終えて、食卓へシュトレイに促されるように入れば、フェイさん、ネアさん、メイドさん一同にお辞儀をして迎えられた。
「闘神様、奥様、おはようございます」
「おはよう」
「お、おはようございます」
「…フェイ、お前から見てどうだ?」
急に何を言い出すのかと少し後ろにいるシュトレイを振り向けば、席へと促される。
「はい、記述と同じ様に見えます。しかし、奥様の方は少々強い様に」
「それは当然だな。適応率が今までの比ではない」
「確か、百パーセントと」
席に着くと、隣にシュトレイが座り、正面にフェイさん、キサネアさんが座る。そうしながら会話が進められ、料理も運ばれて来るけど。
「あの、シュトレイ。今のって?」
「ん? この国の人間に、オーラが見えるかって言う話」
「確かに前、オーラが見えるものだって言ってた気が…」
「そうだね。まぁ、訓練していないと見えないが。この間のクズみたいに。」
そんな一言でそういえばと思い出した。あの人達ってどうなったんだろう? 捕らえるとか言ってたから牢に入れられてるのかな?
でも、シュトレイに聞くのはちょっと怖いから、黙ってよう。うん。
あれ? 私ってシュトレイを見ても特にオーラって言うような物は見えないけど。
「シュトレイ、私、オーラが見えないんだけど」
「沙耶は見えなくていい。これは目印のような物だから」
目印。えーと…あ、そっか。神様だっていう目印って事かな? と、いうことは…私もそのオーラがあるとすると、街中で、おっきな名札つけて歩くような物じゃない! いやぁぁぁ! 街中とかいっぱい遊びに行きたいのにぃぃぃ!
頭を抱えてしまったのだけれど、シュトレイはくすくすと笑う。
「心配しなくても、隠す方法ならある」
「ほんと!?」
叫ぶように言ってしまったけれど、シュトレイは本当に楽しそうに笑ってる。うぅ…失礼な。
そんな遣り取り中に、テーブルに用意された料理。今では習慣になった、皆で食事。頂きますと言って、サラダに手をつけようとして思い出したのは。
「シュトレイ、毒見は…?」
いつも、シュトレイが毒見をしてから食べていた事を思い出して聞けば、一瞬きょとんとした顔をした。
「―――ああ、もう大丈夫。変化したから」
「変化?」
「うん、沙耶はもう、あらゆる事象を俺と同様に扱えるから。神に毒が効かないという事は、神の器にも効かない」
「そうなんだ。でも、毒が効かないのに、どうして毒が入ってるって分かるの?」
RPGでいうと、毒無効と言う事だろうか。毒が効かない理由はなんとなく分かった。シュトレイが毒見してたのも、その特性があるからと言う事だろう。出てった後に効いて来るんじゃないかとか、ちょっと引っかかるけど。
だとして、毒だと分かるのはどういう事なのか。シュトレイは苦笑いをすると、
「そこら辺は、成分で分かる。沙耶も出来るとは思うけど、ちょっと訓練が必要だな」
だからといって、沙耶に毒を摂らせるつもりはない。そう言ってにっこりと笑ったその瞳をじっと見てしまった。
淡い碧青で、まるで湖面を思わせる色。すごい、綺麗―――
「くく…フェイ、今日の予定を後で知らせてくれ」
「かしこまりました」
ふ、と、視線を外されて、はっとした。慌ててサラダをつつきながら、他の人にばれてないか心配になる。
くっそぅ、ものすっごく見とれてた!? だってあの色、すごく綺麗なんだからしょうがないよね!?
そういえば、シュトレイって話し方が変わった? 声が違うのもあるとは思うけど、前はもう少し柔らかい感じがしたし、一人称”僕”だったよね? 今日、”俺”になってたような。
なんで、変わったんだろう?
食事を終えて、ダイニングへと戻ってきた。ソファへと促されて座り、口調が変わった事を問いかける。
「それは、沙耶だから」
「え、なにそれ答えになってない」
「じゃあ、こういえば分かるかな。沙耶の口から、そんな言葉を出したくなかったから」
感情が高ぶって、思わず出たときもあるけど。そんな風に言われて、何と返していいものか。恥ずかしくて、俯くしか出来ない。
と、その時、ふわりとやさしく肩を抱かれて、思わず顔を跳ね上げてしまうと、微笑んだシュトレイの顔が目に飛び込んで来た。
「俺の、奥さん。ずっと、ずっと、大切にする」
そんな甘い言葉を零して、額にやさしくキスされて。
―――気を失いかけたのは、恋愛に慣れてないだけじゃないと思うっ!
タイトルがちょっとピンと来ない気がする。物凄く甘い日だって言いたかったんだ!
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