23、闘神、起きる
なんだかんだと日々が過ぎて。夜にシュトレイの眠る部屋へと来た。
「じゃあ、沙耶ちゃん、話しかけても良いけど、名前だけは呼ばないでね」
(うん。待ってる、から)
そう、ついにシュトレイが起きるのだ。とはいっても、一日掛けて体が変わるのだから、一日ここで待たないといけないのだけれど。
大き目のバスケットに切ったフランスパン。ガラスの密閉容器にジャムやいろんなディップなんかもある。これは保冷庫にしまったけれど、すごいおいしそうだった。
サラダは悪くなるということで、酢漬けにしたいろんな野菜や根菜類なんかを用意してくれた。これも密封容器に入れられてる。ちょっと気になるものがあって、摘んで見たくなるものも。
シュトレイがこの日のためにと何個か実験して作った保温ポットなんかもある。この世界には魔法瓶はないそうで、地球で見たから作りたかったのだとか。シルバーポットも保温性はいいけど、何時間もは無理だし。紅茶を多めに作っても、これなら冷めないし、1杯ずつ作って飲むのも手間だから助かる。
できれば、シュトレイの変化を見ていたいし。…こんなこと言うのは恥ずかしいし、シュトレイを喜ばせるのも嫌だから黙ってるけど。
そうしてシュトレイが私の身体から出て行ってしまい、一人残された。
入り口は厳重に金属で覆ってしまい、誰も入れないようにしてしまった。ここに来れるのは王族のみだけれど、シュトレイはとことん心配の種を排除したい様で。
紅茶はさっきシュトレイが保冷ポットに淹れてくれた。事前に小さなカフェテーブルを運び入れてもらってあり、そこへカップと共に置いておく。クッションも持ってきてある。シュトレイが寝ている場所はベットのように高くなっているから椅子代わりにもなる。
今は夜の零時位だけど、今から一日、かぁ…ランプもあるし、月明かりで結構明るいから怖くはないけど、ちょっと淋しいかも。
シュトレイの金属像に変化が出たのはどれくらいしてからだろう。夜明けの光が差し込んで来てるから、今は5時か6時位かな?
髪の毛が毛先から柔らかな毛へと変わり、その色はプラチナブロンドだ。ゆっくりと変わって行く様は、なんとも不思議な光景だ。
ゆっくりとした変化は時計がない為わからないけど、三十分~一時間は掛かっただろうか。全体的に変化し終えても、ぐるぐると周りを確認してしまう。
その後は特に変化せず、それから三十分ほど経った頃、身体の上に掛かっていた布のような形状の金属が変化した。その変化は一瞬で、白いリネンのようだ。その後で、シュトレイが横になっている台座も変化した。
シュトレイの重みで沈んでいるように見えたその台座、ちゃんとしたベットでした。でも、これって眠りにつくのと関係あるのかな?関係ないような気がするんだけどなぁ。あ、この蓋みたいにホコリが、っていう問題があるなら関係あるかなぁ?
そんな事を考えていると、うっすらと顔色が変化してきた。最初は真っ白で、白人より白くてびっくりしたけれど、徐々に血が通ったというか、だんだんと白人色へ変わり、少し色白な日本人色になった。
てっきりマッチョみたいに小麦色の肌色なのかなと考えてたけど、予想を裏切られたっ!
でも、これで見た目の変化は終わり、かな? あと金属の所はないし。リネンがかかってる所が金属のままかもしれないけど、捲ってみる勇気は出ない。だって、肩がリネンから出てるんだけど、服着てないんだもん。
素っ裸だったら目も当てられないよ。
その後は特に変化もない為、キッチンへ行って食事をしたり、ちょっと仮眠したりした。時々様子を見に行ったけど、変わりはなかった。
そうしてまた日が暮れて。
だんだんと待っている事に疲れてきてしまう。キッチンに置いてある酢漬けの瓶をカフェテーブルへと持ってきて、フォークで刺して取り出す。その野菜は星の様な形状をしていて、色も黄色い。齧ってみれば中は白くてお酢のすっぱさの中にほんのりと甘みがあっておいしい。
「野菜なのかな? 根菜類なのかな? まさか果物なんて事はないと思うけど」
そんな独り言を零してしまう。誰かがいればそんな独り言でも会話が弾む事もあるだろうけど、ここには自分一人しか居ない。
「はぁ…」
ため息が零れてしまうのもしょうがない事だと思う。うん。
余りにも暇だった為、お風呂に入ってのんびりしてきた。時計がないからあくまで勘なんだけど、もうそろそろ、かなぁ?
に、しても…何時くらいに起きるのか聞いておくべきだったかも。時計ないけど、零時と五時じゃ随分時間差があるもんね。
いくらランプがあっても、この暗さじゃ瞳の色、見えないかなぁ。
シュトレイの寝ている台座に座って、顔を覗き込みながらそんな事を考えていると、何故か周りがきらきらと光り始めた。まるで、封蝋を開けた時の光の粒子のよう。
それに見とれていると、急に私の身体の中から何かが噴出していくような感じがする!
「な、なに? んう…あ、つい」
恥ずかしくて急に身体が熱くなるような、そんな感覚を強くしたような感じだ。それになんだか目がちかちかする。
ぎゅっと目を瞑って落ち着くのを待つと、すぐにそれは静まった。ほっと息を吐き出して目を開ければ、未だに周りがきらきらと光っている。
これは何だろうと手を伸ばしてその粒子を手のひらで受けるようにしたら、ふわりと粒子がシュトレイに吸い込まれていった。
「……あ」
その粒子が吸い込まれたと同時に、シュトレイがうっすらと目を開けた。思わず漏れた声に気がついたのだろう、シュトレイを見下ろすように座っていた私の目と、視線が絡んだ。
「おはよう、沙耶」
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