1.5、自己紹介と・・・?
トントントン
ドアをノックする音がして、シュトレイが入室を許可すると入ってきたのは、ロマンスグレーのおじ様と先程のコスプレの人とメイドさん達。
なんだか皆顔が強張ってるけど、大丈夫かなぁ?
「託宣の巫女は来てないのか」
「は、ただいま準備をしているようです。もうしばらくお待ちください」
「しょうがないねぇ。そこに座って待ってて」
自分の向かいにあるソファを指してそう言うと、立ち上がってさっきのキッチンみたいな部屋へと行く。
(あれ、火が出てないのにお湯が煮立ってる?)
「うん、火焔神の力だからね。地球みたいに火が見える場合もあるけど」
ポットを取り出しお湯で温めている間に、茶葉を取り出す。その手馴れた動作に思わず感嘆を表す。
なにやらシルバーのポットまで出てきて、カップ共々お湯で温めてる。でもシルバーのポットってどうするんだろう?陶器の、ポットは分かるんだけど。
「シルバーはねぇ、保温性がいいんだよ」
シルバーポットの蓋を開けて、茶漉しを置くと、紅茶を注いで行く。ふわりと香るのは、アールグレイのようだけれど、僅かに甘い香りもする。
「やっぱり世界が違うからね。似ているけどまったく同じ紅茶っていうのがないんだ。だから沙耶ちゃんの口に合うといいんだけど。」
(香りは、好きですよ?)
「そう、それはよかった」
ワゴンに一式を乗せて、部屋へと戻れば、コーヒーの香りがする。あちらはあちらで用意したようだけれど、やっぱりコーヒーもあるんだなと感慨にふける。
紅茶をカップへと注いでセンターテーブルへ置くと、ソファへ座る。テーブルにはあちらで用意したお菓子が乗せられている。
シュトレイ、は、おもむろにそれらを手に取り、一口食べては取り皿へ乗せて行く。全種類同じように行うその行動に首を捻るばかりだ。
「沙耶ちゃん、お菓子はコレだけにしてね。調べといたから」
(調べたって何を? それに食べかけを食べろっていうの?)
「食べかけっていってもこの身体、沙耶ちゃんのでしょ。何の問題が?」
(…そういえばそうでした)
調べたって事に関してはスルーされてますが。話したくないんでしょうか。
「さて、託宣の巫女は…お前かぁ。まぁ話する位なら大丈夫かな」
そう言うと、ふわりとした感覚の後に、感覚が自分に戻るような感じがした。ああ、シュトレイが出て行ったんだなと私は理解した。
先程シュトレイが、託宣の巫女といいながら見た人は、柔和な顔つきの女性。白い、占い師のようなローブを頭から足元までの長い物を纏っているけれど、託宣の巫女が何なのか分からないし、シュトレイが何をするつもりなのか一切分からない。
かといって、目の前に座るおじ様とコスプレの人も何も言わないし。しかもみんなで託宣の巫女の方を見てるし。
こっそりとため息をついて、シュトレイが入れてくれた紅茶を一口口にすれば、香りもさることながら飲み口も柔らかくておいしい。
けれど、急にどさりと音がした。びっくりしてそちらを見れば、先程シュトレイが見ていた人が床に蹲っていた。
「え? だ、大丈夫ですか!?」
慌ててカップを置いてそちらへと駆け寄れば、周りにいたメイドさんもその女性の身体を起こそうと背中へと手を当てていた。
「く…精度が、低い、な。」
「あ。しゅと「沙耶ちゃん名前は呼ばないで」ハイ」
声に被せる様に言われてしまい、黙るしかなかった。
「ごめんね。今は闘神って呼んで。名前呼ばれちゃうと、また沙耶ちゃんの身体に入っちゃうから。」
困ったような顔をするその女性。さっき”託宣の巫女”と言われてたけど、そういえばなんでシュトレイだと思ったんだろう。
ともかく、どうして名前を呼んじゃいけないのか分かった。確かに第三者を交えていろいろと説明するのに私がすぐ疑問を口に出来ないのは何かと不便だ。
どうにか身体が馴染んだらしいシュトレイに促されてソファに戻れば。
「まずは自己紹介だねぇ。お前から」
シュトレイが、す…と、指さしたのは白髪の混じったロマンスグレイのおじ様だ。黒っぽい髪の毛に白髪混じりの髪の毛だと思ったら、群青色だった。着てる服は、堅っ苦しい、けれども威圧感のある高級そうな服だ。それに、なんとなくだけど、あのコスプレの人に似てる気がする。
おじ様とコスプレの人は、ソファから立ち上がると、跪くように礼をする。
「初めまして、神の器様。私はシュトラータ皇帝ファルシュと申します。どうぞファルと呼んでください」
「先程は失礼しました。シュトラータ第一皇子レイファントと申します。レイとお呼びください」
簡素な自己紹介だが、このなんとも高価そうな衣装といい、やはり王族か。ちょっとだけ、社長ですって言わないかなと期待したのだけど。
ま、さすがにこのお城の偉い人が社長と言うのもありえないか。
それと、やっぱり皇帝に皇子と言う事は、親子だよね。似てるはずだわ。それはともかくとして。
「よ、よろしくお願いします」
どうやって挨拶すればいいのか、この人達みたいに跪けばいいのか分からず、立礼してみた。顔を上げればおじ様―――皇帝が柔らかく笑っていた。
おお、渋い、渋いよっ!思わずにへらっと相好を崩す。と、ぐいっと腕を引っ張られてソファへと逆戻りした。
「っ…へ?」
「次」
なぜ腕を引っ張られたのか分からず、引っ張った張本人の|シュトレイ(託宣の巫女)を見れば、不機嫌そうな横顔が見て取れる。むぅ、なんか機嫌悪くなるような事あったかなぁ?
さて、5人のメイドさんを紹介してもらった。出身地とかも言われたけれど、見当もつかないから割愛するとして。
金髪碧眼のイザベラさん。
赤茶で目も茶色。雀斑がチャームポイントのチェルシーさん。
エメラルドグリーンを水で薄めたような髪色と、青い瞳のコーディさん。
ピンクっぽい紫色の髪に黒い瞳のスンさん。
茶色がかった金髪に青い瞳のマリベルさん。
皆、クリーム色の生地の服に、白く小さなエプロンを着けているけど、形は日本のアニメでも良く見るようなワンピース型の服を着ている。袖口なんかの淵に赤が彩りで入っていて、綺麗だ。
それにしても、ここの人達って、この髪色がデフォなのかしら。と、ちょっと心配になってしまう。漫画とかアニメくらいでしか見た事ないよ、こんな色。
デフォならデフォでいいんだけど、これからはこの5人のメイドさんにお世話になるらしいので、なるべく気にしないで接する事にしよう、うん。
そう心に決めた所で、ソファへと戻ってきて座った皇帝のファルシュさんが伺うような表情をする。
「闘神様。恐れながら、いくつかお伺いしたい事があるのですが…よろしいでしょうか」
「何?」
「レイファントから聞いたのですが、その、神の器様を、異界から得られたと言うのは…」
「それ、後でいい? 今は話したくない」
「畏まりました」
質問をすっぱりと拒否したけど…いいのかなぁ? 王様より、やっぱり神様の方が偉いんだろうけど。
そんな事を思っている間にも、質問は続けられていて。
「闘神様、教育係は必要でしょうか?」
「いらないよ。僕がやるからねぇ」
「教育、係?」
「うん。まぁ器だからねぇ、本当はなんでも許されるんだけど、マナーとか、知ってて損はしないでしょ?」
確かにそうだよね。高校受験の時に面接の仕方はやったけど、確か社会にでるといろいろあるとかって聞いたな。挨拶の仕方も角度がどうとかあったし、そんな感じかな?こんな立派な建物を行き来するなら偉い人とも会うだろうし。
今更だけど、目の前にいる二人が一番偉い人筆頭なんだよね…なんか失礼な事やってなきゃいいんだけどなぁ。
「よろしくお願いします。」
そんな事を考えながら、隣に座ってるシュトレイにぺこりと頭を下げて言えば、柔らかな笑みを返してくれてうれしくなる。
「闘神様、神の器様のお名前や出身をお伺いしても?」
「―――、沙耶。沙耶=望月。出身は、異世界の日本だ」
「そうですか、お名前はさ「誰が名を呼ぶ事を許した」はっ、申し訳ございません」
えーと…おじ様―――ファルシュさんが謝罪をしたまま顔も上げずに固まってるよ。
「あの、しゅ、……闘神様」
名前を呼ぼうとした瞬間に、にっこりと暗黒笑顔を向けられて背中に嫌な汗をかいてしまった。
女性で柔和な顔でこれやられると物凄く怖い。けれど、言い直したらそれも霧散してしまうのだからびっくりだ。
「どうしたの?」
「私の名前を呼んではいけない理由があるのでしょうか?」
「ないよ?」
「え? でも今―――」
確かに今私の名前を呼ぶなと、すごい剣幕で言っていたではないか。なにやら矛盾する事に混乱してしまう。
けれど、僅かに拗ねたような顔をするシュトレイ。
「だってまだ、僕本体で呼べないんだよ? 本当はこの巫女の身体でも呼びたくない位なのに」
とんでもない理由にその場にいる全員で呆けてしまう。けれど、復活が早かったのはやはり皇帝だった。
「申し訳ございません、そのような記述がありませんでしたので対応に不手際がございました事を謝罪いたします」
「ん、あぁ、確かに今までこんなに入れ込む事もなかったなぁ。」
「…その、では、神の器様をなんとおよびすれば」
「そのままでいいよ」
「では神の器様と」
「ちょっ! 待って、待ってください!」
いくらなんでもそんな理由で呼び名を決められたらたまったものじゃないよ! そう抗議すると、拗ねた顔で『ヤダ』と言われてしまう。
「うー…じゃあ、苗字なら?」
「ダメ。君を形成するモノは全部僕のモノ。」
なんだそのジャイアニズムはっ!
「だからって神の器だなんて呼ばれたくないよ!」
「じゃあ婚約者は?」
「っ…そ、れは、やだ」
「僕は花嫁とか、奥さんとかでもいいよ?」
「なにその羞恥プレイ!」
「えーもしかして僕と結婚するの嫌なの?」
「良いもなにもまだ判断つかないしっ! そもそも拒否権あるの!? あるなら帰りたいよ!!」
そう、帰れるなら帰りたい。いきなり神様の婚約者だなんて言われても、信じられる訳ないもの。
だけど、そう言った瞬間、ずしりと身体が重くなる。
「だめだよ、それは。絶対に、帰さない」
な、に…心臓が掴まれたみたいに、息が、できない。目の前にいる、柔らかな笑みに見つめられているのに、身体が動かない。
「ね、やくそく、して? ぼくと、ずっといるって、やくそくして」
1話を二つにぶっちぎりました。
誤字脱字、指摘や感想等お気軽にどうぞ