18、僅かに生じた不信感
「あーすっきりしたぁ」
はい、今部屋へと戻ってきました。シュトレイはソファへと座って満足そうに言っているけれど…
あの後、”本気を出した”シュトレイは、フェイさんが上手く攻撃を防ぐのでどんどんと攻撃が早くなり、足はでるわ上空からの奇襲をかけるわで、もう何でもありという有様だった。
そんなでたらめな攻撃を受けていたフェイさんは、少々左手を痛めたとかで、今医務室へ行っている。怪我がそれだけで済んでよかったけど。
(で、シュトレイ? 何を色々隠してるの?)
「え? やだなぁ。隠してるんじゃないよ、言わないだけだよ」
(ねぇ、シュトレイ。そうやって隠し事してると、シュトレイの事信頼出来なくなると思う。そんなの嫌だから、ちゃんと話して?)
うっかりさんなのか、技となのか分からないけど、こうやってちょこちょこと何かあるのかもと思うのは結構疲れるし。
それに…またなにか隠してるんじゃないかって疑って、ちゃんとお付き合いできなくなるのも嫌だし。
その、神の器として、シュトレイの、お、奥さんとして、生きなきゃいけないなら…少しは努力してもいいかなって、最近思うようになって来たし。
だから、そうお願いしてみたのだけれど。うーん。と唸ると、渋々と言う様に口を開く。
「ちょっとねぇ、本性だしちゃったというか」
(本性?)
「えっとね、僕まだ起きてないんだよね。そんな今の状態で、沙耶ちゃんに嫌われるかもしれない事って出来れば見て欲しくない訳」
(う…んん?)
「沙耶ちゃんの世界って、すっごく平和だったでしょ?外国は別としてね。そんな世界から来た女の子に見せたくなかったから」
シュトレイはそう言うけれど、じゃあフェイさんの時はどうなんだろう。
フェイさんは、うまく避けたり防いだりしてたし、シュトレイが本気を出すと言ったのだから、レイファントさんの時ときっと同じ様な感じだと思うんだけど。
それを聞くと、状況が違うからと言われる。
なんでも、レイファントさんには八つ当たりと恨みを晴らしたかったとかで、口調とかが押さえが利かなくなりそうだったとか。
(そうだとしても、だからってなにも…)
「今、沙耶ちゃんの表情を読み取る事もできないしこうやって会話するしか意志の疎通が出来ないんだもん。僕にとって物凄く不安なんだよ。嫌だと思った事でも、沙耶ちゃんが言ってくれないと僕にはわからないんだから」
嫌われたくないのに。シュトレイはそう言って黙り込んでしまった。
嫌われたくない、かぁ。確かに、そう思うのは分かる。私だって、いいなと思った人の前では猫かぶったりするし。でもそれとこれとはちょっと違う気がするんだけど。
そんな事を考えていると、フェイさんが戻って来た。そして、食事の用意が整う前にお風呂に入るようにと促される。
なんだかうやむやにされてしまうのは嫌だけれど、衣服はシュトレイが新しくしてくれたものの、確かに土の所で動いていたからほこりっぽい。それに用意してくれた食事が冷めてしまうのも嫌だったから、大人しくお風呂に入る事にした。
翌日、起きても気持ちはすっきりせずにもやもやとしたままだ。それでも、昨日陛下が言った様に、食事を終えて一息ついたかと言った頃、部屋へと迎えに来た。
シュトレイが入り込んで、フェイさんも一緒に陛下の後に付いて歩いて行くと、重々しい木のドアの前へと着く。
両サイドにいた兵の手でそのドアが開かれると、テレビで見た国会議事堂のような雰囲気だ。でも、あそこまで人数がいる訳ではないし、広さもそんなに広くない。
ドアが開いたからか、全員椅子から立ち上がり、礼するみたいに頭を下げている。陛下に促されて、映画とかでしか見た事ない重厚な、王様が座るような椅子へとシュトレイは座る。
陛下もすぐ傍にあるこちらも高級そうな椅子へと座ると、頭を下げていた人達も、椅子へと座った。
ちなみにフェイさんは、シュトレイの少し後ろの横へと立っている。座らなくていいのかとシュトレイに聞いたら、いつもこうなのだとか。
「それでは朝議を開始します」
そう言ったのは、まだ若い男性。フェイさんより年上っぽい。席に着くと、紙とペンを持っているから書記官なのだろうか? その人が陛下に発言を促しているから、書記官兼進行役なのかな。なんだか大変そうだなぁ。
「では、連日議題に上がる事について、今日は闘神様に来て頂いた。闘神様、ご足労おかけしまして申し訳ございません」
そう言って、立礼をした陛下に思わず慌ててしまったが、シュトレイは気にせず肯いただけだ。それでいいのかとあわあわしていると、
「そもそも、本当に闘神様なのか!?」
…え? まずそこからなの?
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