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サーヴァント  作者: ミサ
第2章
9/16

9 語られる真実~2~

フェイトの父親、ソルド(カート)視点です。

時期は十数年前になります。

「アリティア様!どちらにいらっしゃるのですか?」

 ソルドは訳の判らない恐怖感に襲われながら、自らが仕えるヴァーストの名を呼んだ。

「アリティア様!」

 しかし、神殿内は恐ろしい程の静寂に包まれていた。

(一体、何があった?)

 己が不在していた、この1か月が悔やまれた。



 一か月前

「ソルド、話があるんだが」

 自室で剣の手入れをしていると、珍しくディレクティがやって来た。

 彼はサーヴァントのリーダーで、冷静沈着を絵にした様な男だった。その彼が何故か表情を硬くしている。

「何があった?」

 何か良くない事が起こっているのではと、彼に問いかける。

 最初言いにくそうにしていたディレクティだったが、意を決したように俺を見て話し始めた。

「隣国のギルテアが、何者かに侵略されたという情報が入ったんだが、はっきりしたことがわからない。どうやら本当の狙いはガテーリアのようなんだ。ソルド、悪いが隣国の内情を探ってきてくれないか」

 ギルテア王国はこの辺りでも大きな土地と人口を有する。そんな大国が侵略されるとは、ただ事ではない。

「わかった……」

 ディレクティに頷くと、出発の準備を始めた。

 俺は剣の腕はガテーリア---いや、おそらく近隣諸国の剣士の中では誰も敵わないと言われていた。その為、ヴァーストであるアリティア様が国内を周る際や、神殿へ客人が訪れた時などの身辺擁護を任されていたのだ。

 しかし、今はアリティア様も神殿の中で結界に守られており、外敵に襲われる心配はないだろう。

 僅か1か月余り、俺が国を離れたとしてもディレクティや他の仲間が彼女を守る。俺はその時、深く考えてはいなかった。

「ディレクティ、一つ頼みがあるんだが---エミネントを連れて行ってもかまわないか?」

「エミネントを?」

 ディレクティは意外と言う顔で俺を見た。そして、少し考えてから疑問を口にした。

「なぜ……あの子を連れて行きたいんだ?」

 エミネントはまだ15歳の子供だ。確かにそんな子を連れて行っても足でまといになる可能性が高い。

「そうだな、あの子はサーヴァントとしての力はまだまだだが、今のうちにいろんな事を知っていた方がいいだろう。隣国に行くのだっていい勉強になる。俺が付いているから大丈夫だ」

 そう、いずれあの子は次代のヴァーストに仕えるサーヴァントになる。おそらく今のディレクティの様な立場に立つだろう。ならば機会があるなら、いろんな事を体験していた方が後々役に立つ。

「わかった、エミネントを呼んで伝えよう。出発は明日の朝でいいな?」

 俺はディレクティに向かって頷いた。



 翌日、早朝。

「おはようございます。ソルド様」

 金髪の中性的な顔立ちの少年が、待ち合わせた神殿入口で俺の姿を見つけると頭を深々と下げた。

「おはよう、エミネント---急な事で悪かったな」

 俺が謝罪の言葉を口にすると、彼は首を振りながら答えた。

「いえ、むしろ光栄です。ソルド様のお供としてギルテアへ行けるなど」

「おそらくギルテアは今、不安定な状態だろう。何があるか判らない、覚悟はしておけ。お前の事は出来る限り俺が守るとディレクティには約束したが---」

 その言葉にエミネントは少年らしいあどけない顔に、真摯な表情を浮かべた。

「俺は仮にもサーヴァントになる為に、ここにいるのです。自分の身ぐらい守れなくて、ヴァーストを守る事なんてできません。大丈夫です、ソルド様。俺の事は心配しないで下さい」

 その言葉に俺は微かに微笑んだ。

「---解った、じゃ、皆が起きてくる前に出発しよう」

「はい!」

 そして俺とエミネントの2人はギルテアへと旅立った。



 隣国のギルテア王国は現王のトリ二アス王が治めており、ガテーリアとはお互い友好的な関係を築いていた。ギルテアは地理的に降水量が少なく一部砂漠化した土地もあり、その為ガテーリアの水脈に頼っている所があった。一方、ガテーリアもギルテアの軍事力で蛮族バーブラスから守ってもらっていた。

 そんな共存関係にあった国がもしも、侵略されてしまったのならガテーリアの平和が揺らいでしまう。

 詳しい内情を調べなければ、こちらも対処の仕様が無い。

 そんな事情で俺とエミネントは密かにギルテアへと入国し、王室と国内の実情を探ろうとしていた。



 ガテーリアを出発して3日目にギルテア王国へと入国した。

 入国には錬金術師で発明家のアルキミィに作ってもらった、偽の通行手形を使用した。万が一自分たちの身元がばれたらどうなるか判らない状態だったから、ディレクティが念のために渡してくれていたものだ。

 税関は別段何事もなく、やり過ごす事が出来た。

 ギルテア国内へと入った俺達は、ひとまず市場の中にある宿へ泊る為に向かった。

 市場はとても侵略された国とは思えない程、賑やかで平和そのものだった。

 本当に侵略なんてされているのか?

 俺は市場の様子を見ながら、噂は出まかせではと思った。 



「いらっしゃい。2人かい?」

 宿の主人は愛想よく俺達を迎えてくれた。

「ああ、しばらく世話になりたいんだが---」

 そう言うと主人は『どうぞどうぞ』と相好を崩して俺達を部屋へと案内した。

 部屋の中はベッドが2つと机と椅子があるだけの殺風景なものだった。

「食事は朝夕の2回です。風呂はいつでも利用して下さってかまいませんよ」

「ありがとう……」

 俺がそう言うと、宿の主人は会釈をして部屋を出て行った。

 それを確かめてから、エミネントが口を開く。

「どうします?今から街へ偵察にいきますか」

「いや……今日はこのまま食事をして休もう。明日から城下と王宮内の情報を集める」

 エミネントは俺の言葉に少し不満気な顔をした。やはり若いからなのか猪突猛進なところがある。

 俺は言い含めるように言った。

「いいか?俺達はギルテアの情報は全くと言って知らない。そんな俺達がただ歩き回っても時間と労力の無駄だ。それにもしかしたらそんな俺達に不審を抱く者もいるかもしれない。分かるな?」

 エミネントは不承不承頷いた。

「……いい子だ。とりあえず、夕食の時にでも宿の主人にさり気なく、最近変わった事は無かったか聞いてみるか」

 俺はエミネントに笑いかけながら、明日からの動向を考えていた。

 


 





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