4 告白
(……ここは?)
少女は目を覚ますと、辺りを見回した。
壁と天井は白く、家具もソファーが1つと、べッドの横に小さなテーブルがあるだけの小さな部屋だ。
起き上がろうとすると、自分の腕が自由にならない事に気づいた。見ると彼女の両手はベッドにくくり付けられていた。
試しに動かしてみるが、外れる気配はない。
何度か強く引っ張ってみたが、手首に血が滲むだけだった。
その時、誰かが部屋の中へと入ってきた。
「あ、良かった。目が覚めたのね」
嬉しそうな声に目を向けると、そこには栗色の長い髪を後ろに纏めた優しそうな女性が立っていた。
彼女は少女の血が滲んだ手首に気づくとそっと触れた。
「ごめんなさい。こんな事はしたくないんだけど、みんながあなたは危険だと……エミネントが帰って来るまでは我慢してね。彼ならあなたを解放してくれるわ」
「……あんた、誰?」
少女が睨むようにして言うと、栗色の髪の女性は微笑みながら答えた。
「ごめんなさい、自己紹介がまだね。私はエイミア、この神殿でサーヴァントである皆の食事を作っているわ。そして、あなたの身の周りの世話も任されたの。よろしくね…それで、あなたの名前は?」
「……」
答える気がないのか、無言でそのまま天井へ視線を移す。
エイミアは小さく溜息をつくと、そっと部屋を出て行った。
それからしばらくして再び扉が開いた。
少女が顔をそちらへ向けると、金髪の男--エミネントが入って来た。
「目が覚めたようですね」
彼はベッドのそばまで来ると、少女の顔を覗き込んだ。少女が彼を睨む。
「さて、君の名前を教えてもらいましょうか。私の名前はエミネントです。一応、ここの責任者をしています」
世間話をするような気楽さで少女へ話し掛けているが、相手は唇をかみしめ今にも睨み殺しそうだ。
「……おや、黙秘ですか?…しかたありませんね」
エミネントは彼女とは対照的な優しい笑みを浮かべると、まだ睨んでいる彼女の瞼へと手を翳す。
「何を!」
少女は慌てた様に暴れたがすぐに大人しくなった。エミネントが手を除けると眠った様に瞳を閉じている。
「では、名前を教えてもらいましょうか?」
優しい声色で問いかける。
「…フェイト」
「フェイト、君は何故私達の命を狙ったんですか?」
その問いに彼女の顔つきが怒りを含んだものに変わった。
「あんたたちが、私の父さんを殺したからだ!」
予想もつかなかったフェイトの告白に、エミネントは呆然と彼女を見下ろした。頬には涙が流れ落ちていた。
「君のお父さんを殺した?私たちが?」
繰り返された質問に、フェイトの声は更にきついものに変わってきた。
「そうよ!父さんは死ぬ直前に言ったわ『ガテーリアのサーヴァント』と。そして自分の剣を私に託した」
「だから君は、お父さんを殺したのがサーヴァントだと思い、仇を討とうとここまで来たのかい?」
「私には父さんしかいなかったのに…何故、父さんを殺した!」
フェイトは涙を流しながら叫んだ。その叫びは悲痛な心そのままだった。
エミネントは無言で再び彼女の瞼に手をかざすとそっと話し掛けた。
「もう、何も考えないでいい。ゆっくり眠りなさい」
静かな寝息が聞こえてきた。それを確認するとエミネントはそっと部屋から立ち去った。