3 記憶
神殿内に戻り大広間へと入って行くと、窓際で花を活けていたエイミアが振り返った。
「どうしたの?ハーティ…その娘」
ハーティが抱き抱えている赤毛の娘を見て、エイミアは驚いた様に駆けよってきた。顔を覗きこむと気を失っている。
怪しむ様に彼を見上げると、ハーティは慌てたように首を振った。
「待て!エイミア。俺は何も悪くない。こいつは神殿内に忍びこんだ挙げ句、俺とエミネントの命を狙ったんだ!」
「この娘が?まさか…」
ハーティの言葉に驚いて、その娘の顔を再び覗きこむ。まだ幼さの残るあどけない顔だ。とても人の命を狙うようには見えない。
「…何かの間違いじゃないの…そんな娘には到底見えな…」
エイミアはそう言いかけて、ハーティの腕から血が流れている事に気づいた。
「血が出てるわよ」
彼女の視線を追って、自分の腕を見ると−ちっと舌打ちをする。
「このガキ…何者だよ。チビのくせに俺に斬り込めるなんて、ただ者じゃねえよ」
「とりあえずその傷を手当しなければ…ドーラの所へ行きましょう。この娘も怪我をしているかもしれないし、一応診てもらいましょう」
そう言うとエイミアは2人をドーラのいる、薬草管理室へと連れて行った。
「うーん……何だ、この娘」
エイミアに呼ばれてドーラの薬草管理室へとやって来たミンは、目の前で眠っている娘を奇異な者を見る様に見つめた。
「どうした?ミン」
ドーラに怪我を手当してもらったハーティがそばへ来る。
先程から赤毛の娘の記憶を探っているが、この娘が普通と違う事を感じていた。
ミンは記憶と精神を司り、時として相手の記憶を読み操る事さえ出来る…そして破壊することも。
だからエミネントはミンに、この娘の目的を探るように指示したはず…それは通常の彼にとっては造作もないことなのだが……
「記憶が読めないんだ」
「は???」
ハーティ、エイミア、ドーラの3人は、有り得ないミンの言葉に同時に聞き返す。
「記憶が何一つ読めない。初めてだこんな事」
冗談で言っているわけではない真剣な表情に3人が顔を見合わせる。
「…記憶喪失とか?」
ドーラが考え込む様に言う。
「いや、それでも記憶がない時の情景が見える。さっきハーティとエミネントを襲ったんだろう?それすら見えないんだ。俺の能力が役にたたない」
4人はまだ目覚める気配のない赤毛の娘を見つめる。
おそらくはエミネントが戻って来た時に、何らかの答えを彼が出してくれるのではないかと期待しながら。