2 予言
街中へ出たエミネントは、その外れにある古い屋敷の前で立ち止まると、頑丈な門を開けて中へと進んでいく。
屋敷の中は荒れており、人が住んでいるとは思えない程だった。
彼は慣れた足取りで立ち止まりもせず、一番奥の部屋へと入って行く。
「ナスリィ、気分はどうですか?」
「最悪だよ、まったく!薬が効かないんだからね」
声をかけられた白髪の老女は、ベッドの中から苦しそうに答える。
ナスリィは元々平民だが、予言という特殊な能力を持っていた為に、長年ヴァーストの相談役を務めていた。
しかし、数年前に幼きヴァーストが亡くなったのを機に神殿を去ると、占いを生業にして暮らしているが、いまだにサーヴァントの皆からは一目置かれる存在であり、エミネントの良き理解者でもある。
「それなら、ドーラが調合した薬を飲んで下さい。これならすぐ良くなるでしょう」
「ふん、あんなひよっこが作った薬なんざ気休めにもならんよ」
薬師であるドーラが聞いたら憤慨しそうな言葉に、エミネントは苦笑いを浮かべた。
「やれやれ、ナスリィにかかるとガテーリア一の薬師も形無しですね…でも、少なくとも今飲んでいる薬よりは効くと思いますよ」
そう言って懐から小さな薬包を取り出すと、ナスリィへ手渡した。
薬を受け取った彼女は包みを開くと粉薬を口に含み、枕元に置いてあった水を飲むと顔をしかめた。
「何だい、この薬!不味いったら」
「良薬口に苦しと言うでしょう。しばらくすれば痛みは和らぐと思いますよ」
エミネントの言葉に、ナスリィはふーっと溜息をついた。
「この一週間ずっと頭痛が治まらない。そしてガテーリアに星が現れた。私は何か嫌な予感がするんだよ、エミネント」
「だから私を呼んだんですか?」
「そうだ。もし私の予言が当たるならガテーリアにとっても、お前達サーヴァントにとっても危険が迫っているという事だ。外れてほしいが、お前も知っている通り私の予言は今迄外れた事がない。だから、お前に伝えておかねばと思って呼んだんだ」
ナスリィはエミネントの方を向くとさらに話を続ける。
「特にお前はサーヴァントの要だ。身辺には気をつけろ。必ずハーティを傍に置いておけ。ガテーリア内でも神殿内でも気を抜いてはいかん!これからは今日みたいに一人で出歩くんじゃないぞ」
真剣な彼女の口調に、先程の少女の事を言うのははばかられ、エミネントはわずかに笑みを浮かべた。
「心に留めておきましょう。ですがナスリィ、あなたも無理はしないで下さいね。私達にとっては家族と同じくらい大切なんですから」
「ふん…相変わらず口が上手いな。薬が効いてきたようだ…少し眠るとしよう」
そう言うと、ナスリィは目を閉じる。
「では、私も帰りましょう。ナスリィ、おやすみなさい」
エミネントは、眠りにつくナスリィに声をかけるとそっと部屋を出た。