表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

第8話 社会復帰

――チェーンのファミリーレストラン


正人はそこで週3回のアルバイトをしていた。

2年前から働いてはいるものの、特に一生懸命働くというより

どこか時間つぶしのような感覚で適当に働いていた。


そのためか周囲からの評価はそんなによくはなかった。

しかし、ここ最近の正人はどこか違っていた。


――昼休み

レストラン事務所


最近は自前で買ったノートパソコンを広げ、なにやら作業をしていた。

パソコンを始めて一ヶ月がたった。

毎日使っているためかタイピングのスピードの徐々に早くなっている。


昼食をとりながら一人で黙々と作業をしていると事務所の扉が開き

店長とレストランチェーン本部の人間が入ってきた。


「あっ、お疲れさまっす。」


正人が挨拶をすると店長は少し不機嫌そうな口調で

「朝霧君。休憩中悪いけどちょっとはずしてくれるかい?

今からエリアマネージャーとミーティングするから」

と言った。


「あっ、わかりました!もう飯終わったんで……はい」


正人が立ち上がり食器を洗い場に持って行こうとすると

本部の人間が正人のパソコンを覗き込むと、その内容が気になったのか正人に声をかけた。


「ねぇ、これ君が作ったの?」


「あ…はい。まぁちょっと暇つぶしっていうかその……各店舗の問題点等についてなんですけど」


正人は答えるとホウホウとアゴをさすりながらしばらくその内容を閲覧している。

一通り目を通した後、本部の人間は感心しながら

「これちょっとできている範囲でいいからプリントアウトして僕にくれないかな?」

と言った。予想外の一言に正人はキョトンとした顔をしながら

「えっいいですけど、たいしたこと打ち込んでないっすよ!」


「うんそれでもいいから!」


「それでよかったら……。店長!プリンター借りますね。」


正人は不思議そうな顔をしながら奥にあるプリンターへと足を運んでいった。


「店長。彼の名前は?」


「朝霧正人のことですか?」


「……朝霧君ね」


少し感心した表情で正人に視線を送る本部の人間を見て、店長は首をかしげながら質問した。


「あの朝霧のどこが気になるんですか?

こういっちゃなんですけど彼はやる気がないですよ。

2年程、ここで働いてますけど……」


「店長。彼の作った資料、あとで見といたほうがいいですよ」


「えっ?あっ、はい。とりあえず見てみますが、それはどういう意味なんでしょうか」


「見てみればわかりますよ」

本部の人間はしれっと答えたが、店長は不思議そうな顔をしていた。


「あっこれ!今あがっている分です。」


「ありがとう!あとこれ僕の名刺」


正人が書類を印刷し持ってくると、本部の人間は懐から名刺を取り出すと正人に手渡した。



名刺には『エリアマネージャー 水野真一』 と書かれていた。


「あっ、自分なにもないっすけど…」


「いや、いいよ!もしかしたら朝霧君に連絡するかもしれないから連絡先教えてもらえないかな?」


「え…あ、はい……」


水野の言葉に正人は少々戸惑っていたが、とりあえず携帯番号を紙に書くと水野に渡した。

水野は丁寧にそれを折り手帳にしまった。


「それでは、また会おう朝霧君。さて店長。ミーティングしましょうか。」




 ――それから数日後


 本当に水野真一から連絡が来て、話すことになった。

そして話をした後、水野真一から「この会社にきてみないかい?」と言われた。

特に断る理由もなかったため二つ返事で了承した。

俺の職場はあっさりと決まってしまった。

むしろ自分のような人間をとってくれると思ってもいなかったから

いまだに信じられない。

信じられないから聞いてみたら

どうやら暇つぶしで作っていた資料が認められたらしい。

なんとなく自分の思ったことを書き出しただけの資料が

なぜ認められたのか不思議だったが、

それよりも美国は喜んでくれるかな?といった思いのほうが強かった。


一人になるとすぐに携帯電話をとりだし美国へメールを送った。

すぐに了解のメールを受け取り、待ち合わせ場所へと向かい歩き始めた。




 あたりはうっすらと暗くなり、街灯がつきはじめ、夜の準備にとりかかった住宅街を

二人はゆっくりと歩いていた。


「どうしたの?なにかあったの?やけに嬉しそうじゃない?」


「ふふん。どうだろうね。そんなに嬉しそうかね?」

正人はいつも以上に嬉しそうな顔をしながら話をもったいぶる仕草をした。


「もう!どうせたいしたことないんだから話してよ!いじわる!」


「どうしようかな?まぁ大したことじゃないんだけどさ」


「だから、なんなのよ!大概のことじゃ驚かないから言ってみなさいよ」


どうせ大したことじゃないことと思っている美国は

もったいぶる正人に、少しだけ怒り口調で催促した。


もう少し引き伸ばしたかったが、これ以上すると蹴り飛ばされそうな予感がしたため

「ごめん。ごめん」と謝ると、大きく深呼吸をして声を整えると、その場に立ち止まった。


「あのな……。俺な…、就職決まったっぽい。」


その言葉を聞いた美国の顔は驚き、目を真ん丸くしながら


「えっ?正人が?就職が?決まったの?えー嘘?本当?」


「こんなこと嘘いってどうすんだよ!そんなに驚かなくたって……」


想像以上に驚かれて戸惑い隠せない正人だった。


「そっかそっか!決まったかぁ!」


これが本当のことだとわかった美国はすごく嬉しそうにはしゃぎはじめた。


「嬉しいか?決まって?」


「うんうん!そりゃ嬉しいに決まってるよ!だってあの正人がだよ!」


ニコニコしながら美国は少し安心した表情を浮かべ正人の腕をグイっと

引っ張った。


「でもさ、俺が暇つぶしで作った資料で決まっちゃうなんて信じられないって!」


「あたしね、ちょっと不安だったんだよね!正人最近付き合い悪かったしさ。

でもちょっと安心した!もしかしたら本当に目覚めちゃったのかもね!」


空をみつめながら嬉しそうにしている美国の顔をみて正人は少し微笑んだ。


「そんなに嬉しそうな顔するならもっと早くしとけばよかったかもな。」


美国は正人の背中をポンと叩き

「そうそう!これからあたしのためにしっかり働くんだぞ!」


「おいおい!なんでお前のタメなんだよ!」


「あはは」


二人で楽しそうに歩く夕暮れ時の住宅街

美国の笑い声がこだましていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ