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第29話 願い

美国のひとつひとつの仕草や表情が、正人の心を苦しめる。


笑った顔

怒った顔

泣いた顔


一体、俺は今まで美国の何を見てきたのだろう。

空っぽだと思っていた俺の人生。

どうでもいいと思っていたのに……。どうして今頃気づかされるのだろう。

もうすぐ俺は俺であって俺じゃなくなる。全く新しい自分になってしまう。

易者の言っていたことは本当だった。

変化までの全ての過程を把握した今日になって、初めてわかった「大切なもの」。


二十五年間かけて作り上げた自分を、全て受け入れてくれた人がいることがわかった。

そして今日になって、今までの自分の人生は無意味じゃなかったことに気づかされた。


――それでも、俺は今日消える……。


二人で過ごす時間が過ぎるほどは正人は後悔の念がつのるばかり。

しかしそれも今日という日が過ぎてしまうと、きっと忘れてしまうだろう。


時間の経過とともに、再び正人にあの頭痛が少しずつ襲ってきた。

まるで「タイムリミッドはもうすぐだ」といわんばかりに。


正人は心の底から願った。


――神様お願いだ。もう少しでいいから、この穏やかな時間を過ごさせてくれ。



 正人達は食事を済ませると、近くにあるテーマパークへと向かった。

小さなテーマパークだが、観覧車やジェットコースターといったアトラクションもそこそこ充実しており、デートスポットとして雑誌に取り上げられるほど有名だった。

昔、二人でこの近くをデートした時に「今度はここに行こうね」と約束した場所だった。

随分と時間がかかったが、約束を覚えてくれていて嬉しかったのか美国ははしゃいでいた。

いくつかのアトラクションをまわった後、ゲームコーナーに入った。


「ねぇねぇ、プリクラ撮ろっ!」


美国も朝のぎこちない態度から一変していつもの美国に戻っていた。

そう、いつも見せてくれる無邪気な笑顔で。


「プリクラかぁ。久しぶりだな」


「本当、正人は写真嫌いだからねぇ。たまにはいいでしょ?記念日だし」


「ああ、いいよ」


「今日はやけに素直だねぇ」


ぷぷっと手を当てながら笑う美国。


「じゃ、じゃあいいや。撮らなくても」


「あーウソウソ。いつも素直だから!ね!一緒に撮ろう!」


そういうと財布から硬貨を取り出すと投入口へいれた。


「ほらほらー!むっつりしないで、笑って笑って」


「だって苦手なんだよなぁ。カメラに向かって笑うのってさぁ」


美国はそんな正人の言葉を聞くと正人の脇をくすぐった。


「ば……やめ……」


その瞬間、シャッター音が鳴り響く。


「あ……」


「ぷぷ。いい笑顔でとれたねー」


美国は満足そうな顔して次のポーズにとりかかる。


「ったく、なーにすんだよ」


正人の少しムスっとした顔も気にすることもなく


「じゃあ、今度はちゃんと……ね」

とノリノリで腕を組むとカップルらしく残りの撮影を終えた。


「へへ、なんかいい感じで撮れたぁ」

美国はニコニコしながら、ハサミで半分に切ると正人に手渡した。


「……これのどこがだよぉ。めっちゃ変顔じゃんか」


「それは機械のせいにしちゃだめでしょ?元々なんだから」


「お前、それはどういう意味だ!」


笑いながら逃げていく美国を追いかけようとした時、今まで味わったことのない頭痛が正人を襲った。

あまりの痛みに片ひざをつき頭を抑えた。


「正人……?大丈夫?」


美国は心配そうなに駆け寄ってきた。

正人は痛みを表情にださないように

「ああ、大丈夫だから。ちょいと立ちくらみしちったよ!」

と、とぼけた感じで言った。

「少し休む?」と美国は言ってくれたが、今だけは心配をかけたくないと

「いや、大丈夫だって。次、行こうぜ」と元気よく言うと、

正人は勢いよく立ち上がり美国の手を握った。


正人は心の中で焦りを感じはじめた。


時間がなくなってきてる……。

その前にちゃんと言わなくちゃ……。



先ほどまで晴れていた空は気づけば雨雲に覆われて

いつしか太陽は見えなくなっていた。

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