第28話 君を好きになった理由
光に反射して煌く海を眺めながら、二人は少し歩きながら話した。
今日は平日なのか人はそれほど多くなく、波の音とかもめの鳴き声が大きく聞こえる。
二人にゆったりとした時間が流れる。
正人は鉄柵に手をかけると、タバコに火を点けた。
美国も隣にきて手をかけると、目を閉じて波音を楽しむ。
特に会話もなかったが、この沈黙は決して重くなく、むしろ安心する感じが伝わる。
「なぁ、なんで俺なんて好きになったんだ?」
正人は突然、美国に自分を好きになった理由を聞いてみた。
美国はクスっと笑うと
「さぁ?なんでだろうねぇ。てか、初めて聞かれたね。正人からこういう質問」
「んー、なんとなく聞いてみたくなった。こんなんのどこがいいのかなってさ」
正人の視線は、海を見たままだが、表情は少し照れた感じに見える。
「そうだねぇ。初めて話した時から、ずっと気になってたんだよ。
しいて言えば、なんか寂しそうな姿が気になったのかなぁ」
美国は髪をかきあげながら、正人の顔を見つめた。
「なんだそりゃ。母性本能かよ。もっと他にもあるだろう!俺の魅力は!」
少しだけムッスリと口を尖らせた顔の正人を、クスクスと笑いながら美国は話を続けた。
「そうかもね。でもさ、人を好きになることって、理屈じゃないんだよね。
あたしは正人と一緒にいたい。本当に、ただそれだけだったもの。
恋愛ってそういうものだと思うよ」
そう言った美国の笑顔はとても可愛く、正人には輝いて見えた。
その言葉の一つ一つに嘘がないことが正人に伝わってくる。
「そっかそっか。俺みたいのでも好かれることってあるんだなぁ」
美国のあまりに素直な答えが照れくさかったのか、正人はまた海の方を見た。
「けっこうレアかもよ?女の子は現実主義が多いからね。
手放したらもったいないかもよ?」
正人の頬をキュっと摘み、ニヤニヤする美国。
「……かもなぁ。そういうことにしとくわ」
「そういうことってなによぉ」
美国は正人の答えに不満に思い、正人の頬を少し強くつねった。
「いてて。やめろって!いや、本当に痛いです。えと、ごめんなさい」
美国は笑いながら正人の頬を離した。そして美国は正人へ質問をしてみた。
「じゃあ、あたしからの質問返し!正人は、なんであたしを好きになったの?」
正人が最初にした質問とはいえ、改めて聞かれてみると答えに困るもんだなと正人は思った。
好きになった理由はいくつかあるけど、どれもまともに答えると顔から火がでそうなことばかり。
しばらく考えたあとに、恥ずかしそうに「なんとなく……かな」とさらっと言い流した。
「ひどーい!なんとなく付き合ってたんだ!へぇ、ほぉー」
その答えに美国はプイッとそっぽを向いた。
「あー!だってこういうのって、まともに答えるとめっちゃ照れるつーの」
正人が髪をクシャクシャとしながら言うと美国も反復するように
「じゃあ、こっちにも聞くなぁ!はずいっちゅーの!」
と言うと美国は正人を背にして、とことこ歩きはじめた。
「……お前のことが必要だったんだよ」
美国の背を見ながら、正人は小声でそう言った。
美国に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで。
「んー?今なんて言ったの?」
美国が振り返り、正人のほうへ駆け寄る。
「別になんも言ってねーよ!さっ、飯でも食いにいこうぜ」
「もう……気になるじゃん」
「気にしない気にしない」
美国の手をひっぱると、車へと向かっていった。
一緒にいることの心地よさが、正人にとって今はとても苦しく感じる。
そう思いながらも表情にださず、正人は精一杯笑った。
ごめんな……。
表情とは正反対に、正人は美国への謝罪の気持ちでいっぱいだった。




