第23話 たいせつなもの
「俺が消える……」
正人は時間が止まったような感覚に陥った。体は硬直し、思考が定まらない。
「これからどうなるんだ……」
「今後、数回の頭痛とともに、君が今の君でいられるパーソナルは完全に書き換えられる。
特に怖いと感じることもないだろう。ただ……」
その言葉の続きを、唇を噛みしめ、ツバを飲み込み正人は聞き入る。
「この変化の最後の日は、自分が一番大切なものに気づく日なのだ。
何かの記念日であったり大切な日。その日だけ君は全てをわかった状態で迎える。
変化前と変化後、全ての過程を理解した状態でね」
易者はゆっくりと正人に説明をしていく。
「そ……その日ってのは、いつなんだ?」
正人は震える声で問いかけた。
「それは、君が一番わかってるはずだ。君の状態を見る限り、その日は近いと思う」
「なぁ、俺は戻ってこれるのか?」
「戻るも戻らないも変化しようが君は君だ……」
「だって……あんた、記憶があるじゃないか!
自分で変化したってわかったってことは、戻ってるってことじゃないか?」
正人は何かにすがるかのように易者に言うと、少し間をおいてから
「確かにワシは記憶が戻った。……いや、融合したとでもいうのかな。
私にとって大切なものが変化した後のことよりも大切だった。
それに気づき、その気持ちが凌駕したとでも言えばいいのだろうか。
正直、ワシもどうして戻れたのかという核心的理由はないのが現状じゃ」
と言った。
「じゃ……じゃあ、その大切なものに気がつけば戻れるんだな」
戻れる可能性があると知ると、正人に少しだけ安堵の表情を浮かべた。
しかし易者はそんな正人の考えを打ち消すかのように
「それは、簡単なことじゃない。さっきも言ったが、少なからず変化した君の人生は君が望んだ理想の自分なのだから。君は変わりたかったのじゃろう」
自分の理想の人生というものは、誰もが求める究極の願いかもしれない。
人はその理想というものを目指すために日々の生活を送っている。
易者の言ったことに正人は否定できなかった。
「これはね。二重人格とかいう安易なものじゃない。変わっても君なんだ。
よく考えてみたらいい。君にとって何が一番大切だったか。
残念なことだが、ワシには君をどうすることもできない」
易者は再び目を閉じると悟ったように正人に話した。
大切なもの……。それを考えはじめた時、再び大きな頭痛が正人をおそった。
「仕事しなくちゃ……」




