第22話 核心
「君が望んだこと」易者の発したその言葉は、
正人の表情を歪め、次の言葉がなかなか見つからなかった。
しばらくの沈黙の後「俺が望んだこと……だと!?」
考えに考えてみたが、易者に言った言葉を聞き返すことしかできなかった。
易者はゆっくりと目を開くと、少しずつ話し始めた。
「君は今まで歩んできた人生に対して、常に疑問を覚え、変化したいと思っていたはずだ」
そう、そうさ。いつだってそう思っていた。
目的もなく、おもしろいこともなく、何かいつも変化を求めていた。
自分の器の限界に気づいて「人生はクソだ……」そう思っていた。
だから願った。変わりたい……と。
易者の言葉に、正人の脳内では、今までの自分の人生に対して思っていたことが水が溢れ出すように吹き出し駆け巡った。
考えてみると今の状況は、明らかに自分がこうなりたいと願った理想に近い。
仕事ができ、誰かに必要とされ、仕草や考えなど願ったこと全てがうまくいっている。
正人は易者の言葉に反論することができなかった。
易者は、正人が思い描いた理想の人生を送っていることをわかっているかのように話す。
「今の君は、自分の理想が叶いつつあるはず。
本当はこうなりたい、こうしたい。そんな自分の『理想』や『願い』」
「そ、そんなこと誰だって思っていることじゃないか!」
「そうだね。人は常に変化を求めている。それは確かだ。
急に今の自分を変えることなど、そうはできない」
正人の言ったことを易者は否定はしなかった。
むしろ人が現状に納得などせず、常に変わりたいと願っていることなど承知している。
易者の話は、この現象についての核心的な内容に触れ始めた。
「君は君自身がどうやって構成されているかわかるかい?」
「自分の構成……?」
「そうじゃ。今現在、君が君であること。それを作り出しているもの」
自分が自分であるという証明。今の自分をつくりだしたもの。
正人はしばらく考えてみたが、答えがでてこなかった。
「個性……。パーソナルだよ。
過去の経験、出会い、そして環境。全てが君を作りだしてきた根本たる要因。
誰と出会い、何を感じて、何を見てきたのか……。
あらゆる事象の全てが、今の君を作り出した。……それが個性であり人格」
最初につくられた個性。その影響は両親。それが始まり。
人は出会いの連続の中、徐々に自分という存在を確立していく。
「……君はそれを全て否定した。今まで歩んできた人生全てを……」
「そんなこと思っていても、そんな簡単に変われるものじゃないだろ?」
「確かに簡単に変われるものではない。
そしてこの現象がなぜ起こったのか?それは私にもわからない。
唯一つ、わかることは私も君と同じ変化を経験した者。
そして私には何故か見えるようになった。変化する可能性がある者を見る目が……ね」
正人は信じられないような顔で易者を見た。
「あんたが変化した結果だって?じゃ……じゃあ、俺はどうなる?どうなるんだよ!」
易者は一度呼吸を整えた後、正人に宣告した。
「君の個性……パーソナルはすでに、書き換えられている。
それは君が望んだことであり、それを止めることはもうできない。
何故なら、この現象は君の理想や望みを叶えているのだから。
自分の理想を否定することはできない。それは君も経験したことだろう。
そして、何かを得るということは何かを失うということ……」
そして最後に易者はこれから起こるであろう核心を突く言葉を放った。
「君は消える」




