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第21話 面会

美国とナナは正人の勤務している会社の目の前で、呆然と立ち尽くしていた。

「正人ってこんなところで働いていたんだ」

さすがチェーン店の本部だけあり巨大なビルを見て驚きの声をあげた。


「中途採用で本社勤務とはね。よほどのやり手じゃないと、そうはいかないよ。

私が知っている正人君は、悪いけどとてもそうには見えなかったんだけどね」


「それはちょっと言いすぎ!って……そうだよね。

あの変化で正人はここで働いているんだもんね」


美国はナナのオブラートに包まない言葉に、

言い返そうとしたが変化する前の正人が大企業で働くことなど思えなかったのは事実だった。

「とにかく、誰かに話を聞けないか頼んでみよう」

とナナは言い、二人はビルの中へと足を踏み入れた。



「申し訳ございませんが、アポイントのない方の個人的用件は受け付けておりません」

案の定、二人は受付嬢に門前払いされた。


「だから、朝霧正人のことについて、知っている人に話があるんです」


こういう結果になることはわかっていたものの、ナナは必死さを隠しつつ冷静に食い下がるが、受付嬢は一向に首を縦には振らない。美国も必死にお願いするがダメだった。


しばらくそんなやり取りをしていると、一人の女性社員が近づいてきた。

「一体どうしたの?」と女性は尋ねると、

美国は「朝霧正人のことについて何か知っていますか?」と女性に聞き返した。

「朝霧君のこと?ええ、知ってるわよ。同じ部署だしね。ん?もしかして彼女さん?」

「あ……いや、その……はい」

「なるほどね。いいわよ。今なら時間あるし。私も少し聞きたいことがあるから」

近づいてきた女性社員は、正人の同僚の美穂であった。


応接室に案内され、二人は美穂から紅茶を差し出された。

美穂も椅子に腰をおろし紅茶を一口飲むと「それで、私に聞きたいことって?」と尋ねた。

上手く説明できない美国に代わりナナが、正人について説明をした。


「なるほどね。聞いてみると確かに朝霧君って、最初の印象と今は全然ちがうかな?」

「え……正人……いや、朝霧君のどこが?」

「最初は、今風のどこにでもいる子かな?よくここに採用されたなぁと思ったわよ」

美国とナナは「やっぱり」というような表情をした。


「でもね、すぐにその考えは変わったわ。入社初日から難度の高い仕事を完璧にことをこなした時は、私はもちろんのこと、周りの人達も驚いたもの……。彼が周囲の人間から信頼を勝ち取るには時間はかからなかったわ」

美穂は正人の仕事の能力の高さを、プロスポーツ選手の凄いプレイを説明するように話してくれた。美穂から見ても、正人の仕事の消化の早さは目を見張るようであった。


「その頃の朝霧君はどういう感じでした?」

とナナが質問すると美穂は笑顔で

「うん。気さくでおもしろいっていうか、冗談とかも言える楽しい人だったね。

でもいつからだろう。少しずつ雰囲気が変わっていったのは確かよ」


「……雰囲気ですか?」

「仕事に、はまったというか。毎日毎日遅くまで残業して、口調もしっかりしてきて、それは社会人なら当たり前なんだけど……。でも、入社した当時に比べると少し声をかけずらくなったかな」


「美国。その頃、正人君に会ったりしてた?」

ナナの問いに美国は首を横に振った。

「その頃からあたしも少し忙しくて全然会えなかったの」

会えなかったのは確かだったが、電話やメールも少なくなってきたのも丁度この時期からだと美国は話した。


「私は朝霧君とは、この会社からだけどそれでも思うことがあったよ。なんというか彼が彼じゃない時があるという妙な感覚があったのは確か。それであなた達に彼がどういう人か聞きたかったの」


すると美国は会社に入る以前の正人について嬉しそうに話し始めた。

決して褒められた内容ではなかったが、正人の人間味溢れる行動等に、所々で美穂は笑顔を見せた。


「あはは。あの朝霧君がねぇ。今の彼からは想像つかないわ。でもこれで美国さんが朝霧君の様子がおかしいと言った意味がよくわかったわ。確かにおかしいよね」

「はい。あたしもどうしたらいいかわからなくて……」

一時の笑いの後に再び沈黙の時間がやってきた。


しばらくすると美穂が上司の話も聞いてみない?と言った。

二人は頷くと美穂は応接室から出ていった。しばらくして美穂は水野を連れてきた。

美穂が二人を紹介して事情を説明すると、水野は快く承諾してくれた。



二人は同じように正人についてのことを聞くと

「彼を発掘したことは大きいな」と水野は上機嫌で話してくれた。

「正直、彼がここまでできる人間だとは思わなかったよ。わずか数ヶ月で彼は結果をだし我が社の売り上げはあがったからね」


「え……。あの正人がですか?」

美国は不思議そうに尋ねる


「あらゆることができるオールマイティ的な存在ってのがあるんだな……と思ったね。

彼は天才じゃないかとも思ったよ」


数ヶ月で結果を出し続けている正人の評価は上層部でもかなり高く、その正人を発掘してきた水野も上層部から再評価をもらい鼻が高いらしい。

正人の高評価ぶりに二人は顔を見合わせた。


「変わったところはありましたか?」

「……そうだね。彼はいつも、何かアイデアを出すとき、決まって頭痛がすると言っていたよ」

「頭痛!」

その言葉に美国は目を見開き、声をあげた。


「うん。彼の頭痛は正に魔法だね。あらゆる壁がいとも簡単に解決される」

「そ……それによって何か変わったことは?」

美国は唾を飲み込み、水野の答えを待った。

「その頭痛の直後、すごい勢いで仕事をこなしはじめて……。そうだね、まるで別人のように……」

「別人……」

その言葉に二人は息をのんだ。


「あ、そうそう。一つおかしなことがあってね……」


そういうと水野はカバンの中から二枚の書類をとりだした。

その書類とは、正人の履歴書だった。


「これは履歴書なんだけど、一枚目は彼が我が社のレストランで働きはじめたモノ。

もうひとつは、ここにきて提出してもらったものなんだけどね」


二人はその二枚の履歴書を見て驚愕した。


その内容は、明らかに別人にしか見えず書いてある履歴も違う。


学歴や趣味、特技はもちろんのこと、一番驚いたのは筆跡であった。

以前の正人の字はお世辞にも上手いとはいえない。しかしもう一つは綺麗で読みやすい。

字などは人の癖があるために、どのような書き方をしてもある程度はわかるはずだが、正人の書いた文字は全てが違った。

「こ……これって本当に同一人物なんですか?」

ナナが驚きながら水野に聞くと

「そこが不思議でね。私は彼の存在が必要だから特には追求するつもりがないけど。

学歴もさることながら、何から何まで違うことを書けるものなのかな?とは思うよ」


「正人はあんなんだけど、嘘をつくような人じゃないよ」

美国が必死に正人をフォローしたが、水野は気にしている様子はなかった。


「ねぇ……。まさか正人君の記憶が変換されているんじゃないかな」

ナナはどこか信じられない顔をしながらも考えられる範囲の答えを美国に提示した。

「記憶!」

美国は思い出したかのように話し始めた。

「そうだ。少し前、写真を見せたの。一番思い出深い写真を……。

でも正人は思い出せてなかった。その後も頭痛みたいなのがきて……」

その言葉にナナは閃いたように仮説を立てた。

「もしかして正人君、頭痛のたびに、何かを手に入れ何かを失っていってるんじゃ……」

二人は顔を見合わせると、すぐに椅子から立ち上がった。


そして美穂と水野に丁重にお礼を述べると、急いで会社を飛びだした。


「もしも私の仮説が正しいとすると、正人君の頭痛は危ない」

「このままじゃ正人が……」

二人は正人の家へと向かい走り始めた。

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