第15話 曖昧な記憶
正人が入社してから早くも一ヶ月ほど経った。
どの仕事を頼まれても、正人は嫌な顔一つせず、むしろ生き生きとした顔で取り掛かっていた。
仕事がおもしろくて仕方がない。
自分の力がどんどん証明されていくこと 。
周囲の人間から着実に信頼があがっていること。
そして、仕事の難度が高くなればなるほど面白いと感じている。
もちろん難度の高い仕事にぶつかる度に謎の頭痛が生じている。
しかしこの頭痛さえきてしまえば、どんな問題も簡単に感じてしまう。
正直、謎の頭痛様々だ。
ダメだと思った自分の「器」が今じゃ「無限の可能性」を秘めているかのような、
自分がこうなりたいと願った「形」の一つ一つが、
全てに反映されているような気がする。
入社以来 美国は何故か不安そうな顔をしているが、
ここまでうまくいっているのだから、そんな顔しないでほしい。
お前のことはちゃんと考えているから。
今日は久しぶりに対面した水野さんが
「君のことを会社に推薦してよかった」と褒めてくれた。
言われてみたかった言葉に、多少照れるものはあったが、褒められたことは凄く嬉しかった。
自分を必要としてくれている。そう手ごたえを感じるには充分だった。
「水野さんが拾ってくれたおかげで僕も今、充実してます」
「お、それは嬉しいね。これからもがんばってくれよ」
水野は励ましの言葉を添え、正人の肩を軽く叩いた。
正人は「はい」と元気よく返事をした。
「あ、それと朝霧君。君の履歴書そういえばもらってないんだよね。
今度、上に提出しといてくれないかな?」
「わかりました。後日、提出しておきます」
あまりにトントン拍子にことが進んでいたため、正人は履歴書を提出していなかった。
そもそもこの会社で働くことになるなど夢にも思っていなかったのだから。
職場に戻ると、正人は早速パソコンを立ち上げ、履歴書のテンプレートを印刷すると書き始めた。
「えーと……学歴は……」
しかし履歴書を書き始めてすぐに、正人の手が止まった。
あれ?僕はどこの学校に通っていたんだっけ?
なぜか自分の通った学校の名前が思い出せない。
しばらく考えた後、
「ああ、そだそだ。俺が通っていた学校はあそこだ!」
と少し間があったが思い出し書き始めた。
「高校は……あそこだったな。公立の……」
履歴書を書いている途中、上司から声がかかった。
「おーい朝霧君。これちょっと至急で頼む」
「あ、はい」
たいした仕事じゃなかったのでサクサクっと処理をしたが、例の如く途中で「頭痛」があった。
そして再び、履歴書を書き始めた。
「高校は……と……あれ?どこだっけ?」つい先程まで覚えていた学校の名前が思い出せない。
何度思い返しても、学校の名前は出てこず、また考えはじめた。
それからしばらくして、ハッと思い出したかのように書き始めた。
「ああ、そうだ。確か私立の学校だったな。いや違った。公立だった。
どうやったら間違うんだよ。バカだな……」
自問自答をするかのように自分に突っ込みながら履歴書を書き上げた。
書き終えた後、なんともいえない疑問が残った。
なんだろう……。少しおかしいな……。
自分の過去が少しずつ思い出せなくなってるような気がする。
俺の中で何か起こっているのか? などと、
自分自身に対して何かがおかしいと思ってはいたものの、
仕事にはいるとそんな考えは一切消え、正人は黙々と仕事をこなしていった。
この明らかにおかしな変化は正人の「自分が歩んできた記憶」にまで着手し始めた証拠だった。




