第11話 自信
なんだよ、少し考えたらこんなもんかよ。
へへっ、楽勝!
あまりに早くできた正人の書類を、周りの社員達も見にきては感嘆の声をあげていた。
それから間もなくざわざわとどよめく社内に佐々木が戻ってきた。
「どうしたんだい?朝霧君にアドバイスなんてしなくていいんだからね。
君達は君達の仕事を……」
「いえ違うんです。朝霧君……すごい……です。」
「ん?仕事のできないっぷりがかな?」
嫌味ったらしく言い書類を手に取るとみるみるうちに顔つきが変貌していった。
「佐々木さん、コレ終わりましたよ?」
「バカな!こんな早く終わるわけが……」
佐々木は信じられない顔をしながらマジマジとデータを確認する。
しかし出来た書類には穴がなく、むしろ手本にしたくなるようなできであった。
「そんな、完璧だ」
どう見ても、この書類がつくった男には見えない。はっきりいってこの部署でここまでの書類を作れる人間はいないと思っている佐々木にとって信じることができず、我が目を疑うかのように何度も書類に目を走らせた。
「や、やるな朝霧君。ま、まぁこのくらいやってもらわないとね」
認めたくないが認めざるおえない結果がでたために動揺を隠しながら言ったもののどこかぎこちない。
しかし正人は悪意なく佐々木に
「あ、なんかミスが数点あったので修正しときましたよ?」
と追い討ちをかけた。
その言葉に佐々木は動揺し、顔もみるみると紅潮していくのがわかった。
彼の高いプライドに一つの傷をつけた。
正人に渡した書類は佐々木が作成していたのだ。
「こ……これは僕が作った書類じゃないからね」
苦し紛れの嘘をつくと悔しそうな顔をしながら、出来た書類を乱暴に手に取るとスタスタと立ち去っていった。 佐々木の姿が消えるやいなや、社内では賞賛の声があがった。
「やるなぁー新人!あの佐々木さんを退かすとは!」
「いやぁ、やる気なさそうとか思ってごめんな。見直したわ!」
「そんなことないっすよ。なんか、運がよかったみたいで」
賞賛の声に正人は頭をポリポリとかき、少々照れながら答えた。
正人はあまり人から褒められたり尊敬されたりしたことがなかった。
それが正人にとっては嬉しく、とても新鮮だった。
驚かれる喜び。褒められる喜び。
正人は仕事をして始めて楽しいと感じた瞬間だった。
「まるで別人みたいだったね」
隣に座っていた美穂がつぶやいた。
「そんなに違ってました?」
「うんうん。頭痛がきた直後から、まるで人が違ったみたいだったわ」
頭痛がした直後、確かに正人の中で何かがはじけた。
それは自分でもなんとなくわかった。
その直後から自分が何をしなくちゃいけないか判断でき、
効率的にそしてあらゆる問題が簡単に見えた。
多少、危惧したが正人はかまわずにこういった。
「自分、何故か頭痛がくるとめっちゃ冴えるんすよ」
「おお!そいつはすごい!頭痛がすると冴える男か」
結果を残した正人の発言に誰も笑ったりバカにする人間は一人もない。
社内に笑い声が広がる。
「商品開発部でも活躍できそうだな。頭痛のたびに開発できたりして」
冗談まじりにいった社員の言葉だが、
後々正人は恐ろしいスピードであらゆることが完璧にできるようになる。
謎の頭痛と共に何かを得て、そして気づかないように
ゆっくりとゆっくりと何かをなくしていく。
その顕著なる例が早速、昼食に現れることになった。
やっと昼か。そういえば美国の弁当楽しみだな。
午前の仕事も一段落し、皆それぞれ昼食をとりにいきはじめた。
もちろん正人は外へは行かず美国の弁当を机の上に弁当を広げると、
中には一枚のカードが添えてあった。
なんだ?これ…?
カードの中身を見ると
『お仕事お疲れ様。今日はなんか気合はいっちゃって
正人の好きなものいっぱいいれといたよ!
がんばってね!――美国』
それを見て赤面する正人。
ったくなんだよ、あいつ。手作り弁当でさえ照れくさいのにさ。
照れながらも嬉しそうに弁当箱を開く
しかし、開いた瞬間、正人の表情は変わった。
なんだよ……。苦手なものばかりじゃん。
嬉しい顔は一瞬でがっかりとした顔に変わり、小さくため息をついた。
あいつ俺の好きなものわかっているはずなのになぁ。
そう思いつつも残すのも悪いので
正人は仕方なく箸を進めた。
正人は少し前に自分の味覚の嗜好が変わったことをわかっていた。
しかし、今はその変わったことすら忘れてしまっていた。




