最凶のゴーレムに転生した俺、勇者パーティーの回復役(推し)に愛を告げたら、福利厚生の良さで秒で嫁になった件
魔王城の地下深くに位置する、絶望の第百層。
世界中から選び抜かれた勇者パーティーが、巨大な鉄の扉を押し開いた。
「行くぞお前たち! 魔王軍が誇る最凶のゴーレム・ゴルガロスだ!
一撃たりともまともに受けるな!」
勇者レイモンドが聖剣を抜いて叫ぶ。
パーティーの紅一点であるシスター・マリアが、神聖回復魔法の詠唱を準備する。
――だが、「最凶のゴーレム」こと、元人間の転生者である俺(中身はアラサーの社畜)の脳内は、それどころではなかった。
(……きたっ……!! 本物のマリア様だ……!
ゲームの画面越しに毎日拝み倒していた推しのシスターが、いらっしゃる……っ!)
俺の前世は、重度のシスター推しゲーマーである。
徹夜続きで命を失い、目が覚めたら身長五メートルの岩石でできた戦闘狂の怪物になったわけだが、世界征服のノルマなど秒でどうでもよくなった。
魔王軍の幹部としての使命?
知るかそんなもの。
今すぐ愛を伝えなければ男がすたる。
「ぐぉおっ……!」
俺が地響きのような唸り声をあげて踏み出すと、勇者パーティーの面々は「くっ、いきなり殺気が桁違いだ……!」と腰を抜かした。
しかし、俺はそのまま巨体をズンズンと進め、彼らの目の前でピタリと止まった。
そして、ギギギと重々しい関節を鳴らし、岩石の腕を後ろ手に回す。
「な、なんだ……? 必殺の波動弾か……!?」
勇者たちが絶望の表情で身構える中、俺がゴソゴソと取り出したのは、地下深くに眠る最高純度のマナを帯びた『極上の特大魔石(ハート型・直径一メートル)』だった。
乙女に差し出す王子様の如く、両手でそっと捧げ持つ。
「おい、美しいお嬢さん。俺の嫁にならないか!?」
地鳴りのような超低音が地下ダンジョンに響き渡る。
――シーン。
広大な空間の空気が、完全に凍りついた。
勇者パーティーはぽかんと口を開け、剣を落とした。
監視モニターで見守っていた魔王や幹部たちも、ひっくり返って頭を抱えている。
だが、当事者であるシスター・マリアだけは、微動だにせず、ハート型の魔石をじっと見つめていた。
「……マリア!? 正気か、そいつは敵のボスだぞ!」
「ちょっと待ってください、レイモンド様」
マリアはそっと聖杖を下ろすと、真剣な眼差しで腕を組み、ぶつぶつと呟き始めた。
「王国教会のシスターの月給は、手取りで金貨三枚……。
福利厚生は祈りのみで、有給は年一日……。
対して、ゴーレム様が差し出した魔石の市場価値は、ざっと見積もって金貨一万枚分……。
しかも地下なので家賃は実質無料、重労働に見せかけたホワイトな労働環境の可能性が……?」
(ま、待てよ、計算し始めてるぞ……!?
しかも魔王軍の待遇の良さに気づき始めている……!)
冷や汗の代わりに冷却水が漏れ出しそうな俺の視線の先で、マリアはパッと顔を輝かせた。
「……あの! 福利厚生について詳しくお聞きしてもよろしいですか?
年間休日は何日ありますか?」
「き、休日・祝日は完全に自由行動(???)! 有給消化率百パーセントを保証する!」
「素晴らしいですね! 私、教会をクビになって、魔王軍に就職します!」
「「「「は……!?」」」」
勇者たちの絶叫をスルーし、最凶のゴーレムと推しのシスターは、雇用契約(および婚約)を交わす。
魔王軍と勇者パーティーの歴史的決戦は、史上最もシュールな形で幕を閉じた。
お読みいただきありがとうございます!
最凶ゴーレムに転生した男の純愛(?)と、経済観念のしっかりしたシスターのお話でした。
愛の告白の答えが「福利厚生の確認」になるヒロイン、個人的にとても好きです。
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