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訣別
朝は、昨日と同じ匂いがした。
窓を開けると、やわらかな光が床を撫でる。
遠くで子どもの声が弾けている。
ポストの前を通る。
もう、封筒はない。
代わりに、あの猫がいた。
雨の夜と同じ毛並み。
同じ目。
今度は、逃げない。
私はしゃがむ。
指先が、わずかに震える。
ゆっくりと、手を伸ばすと
顔を掌に擦り寄せてきた。
温度があった。
確かに、生きている温度。
猫は、ただ目を細める。
何も起こらない。
君の声も聞こえない。
奇跡もない。
それでも、
朝の光は、昨日より少しだけ眩しかった。
私は立ち上がる。
足元に、影がひとつ。
「……行ってきます。」
返事はない。
けれど、
風がやわらかく、背を押した。
私は歩き出す。




