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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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6.相棒セスラン

 日の出とともに目覚めたメリッサは、朝の空気を取り込むために窓を開けた。師匠と暮らしていたアパートの二階は午前中だけ日が入る。家賃が安いので景色はあまりよくない。


 リビングには小さいキッチンと作業台があり。壁一面に素材と魔導具がぶら下げられたり収納されてたりする。隣の狭い寝室はベッドが二つ押し込められていてほとんど歩くが所がない。


 今は宿舎住まいだが、薬草や魔素材、師匠の魔導具コレクションの手入れをして綺麗にしておきたいと思って、週末のほとんどをここで過ごしていた。ごくたまに、師匠の知り合いだの、客だのが仕事の依頼にくるので、魔女家業もたびたび請け負っている。 

 師匠はメリッサが資材庫番に就職したのと同時に、行き先も告げずに旅に出て行ってしまった。



 昨日は散々な一日だった。思い出すとため息が出るが、クビ回避と莫大な報酬をかけて、魔女の仕事をするしかないと無理矢理気持ちを切り替える。


 メリッサは深緑色のシンプルなローブを着てフードを目深にかぶり、花模様の織が入った麻のバックを肩に掛けた。

 鏡の中には、瓶底眼鏡の存在感の薄い魔女が写っている。

「出かけよう」

 メリッサは市場を目指して出発した。


◇◇◇


  魔法技術研所から離れた地区にある市場は、休日にいつも訪れる場所だ。居住区の台所で、食材や日用品のほとんどが手に入る。


「おはよう!魔女さん」

 朝早くから店を開く魚屋のおっちゃんはいつも元気いっぱいに挨拶する。時々魚フライをサービスしてくれる。

「おはよ、おっちゃん」


 魚屋のとなりの八百屋でアルバイトしている青年もメリッサに気が付いた。

「おはよー」

 同じアパートに住んでいる、くだものをおすそ分けしてくれるいい人だ。

「おはよ、ジンくん」

 地味なローブをかぶった魔女は毎週うろついているので、常連枠にいれてもらっている。

 休日の市場は他地区からきた露店商も集まってにぎわう。ごったがえす日中よりも、朝のうちに買いものを済ませたい。 


 どの順番で店をまわるか悩んでいると、後ろから急に声をかけられた。

「おはよう、魔女殿」

 振り返ると、キラキラな美貌を隠そうともしないあの男が立っていた。

 アレイは騎士団の制服ではなく、旅人風の装いだ。ショート丈のマントをかぶっているが顔の美しさは隠れていない。


「ア・・・・・お客様、どうしてここにいるんですか?」

 今は魔女だ、外でうっかり依頼主の名前を言いそうになった。

 アレイもメリッサの名前を呼ばなかった。

 嫌な予感しかしない。


「いっしょに材料集めするよ」

「一人でできるので結構です、というか、今何時だと思っているんですか?」

 早朝7時にいきなり現れるなんて、どうかしている。


 こんなことなら昨日、材料集めを今日するなんて言わなければよかった。しつこく聞いてくるからめんどくさくて答えてしまったのだ。

 時間と場所までは教えてないのに、なぜか現れた。


「次の満月には完成するので、それまで黙って待っててください!」

 メリッサは走って逃げようと踵を返した。

 ドスン!

 アレイと反対方向に逃げようと思って、振り返りざまやわらかい壁にぶつかった。


「ご、ごめんなさい」

 壁は、群青色の魔法術師のローブを着た男だった。

「大丈夫か、魔女殿」

 メリッサは男を見上げた。紅い瞳と、一つに結んだ綺麗なミルクティー色の長い髪が特徴的な美丈夫がそこにいた。目深にかぶったローブが、紅い瞳に影を落とす。


 メリッサの脳内に、聖典の挿絵が思い浮かぶ。

 アレイがいたずら好きの天使のごとき美貌であれば、この人は聖典に描かれる殺戮の天使に雰囲気が似ている。

 

 その、紅い眼に吸い込まれ呆然としている間に、ほんの一瞬、懐かしいような思いがメリッサの胸にじんわり湧いてきた。


「魔女殿、そいつは俺の相棒のセスラン」

 アレイの一言でメリッサは我に返った。胸をよぎったものが、消える。


「あ、相棒?!」

「そう、共同の依頼主だ」

「共同ってなんですか?」

「だから秘薬を作ってほしいと願っている仲間、みたいな」

「なっ」

 仲間がいるなんて、聞いていない。


「覚えてるか?こいつは2年前一緒にいた相棒だ」

 師匠を捜査しにきたあの諜報員のもう一人の方。二人ともあの時は仮面で顔を隠していたからこんな風貌だとは知らなかった。


 メリッサは唖然として二人の顔を見てから、そのまま思ったことを言った。

「あなたたちの顔なら誰でも落とせますよ。みんな勝手に運命感じますって」

「じゃあ魔女殿は俺に運命感じるか?」

 アレイは意地悪く、ほくそ笑む。


「感じませんね。顔だけじゃなく、性格も大事だと昨日学んだばかりなので」

「そうだろう!!やっぱ秘薬必要だよな!」

 やはりこの男、性格が悪い。



「魔女殿」

 セスランという男が、落ち着いた声で言った。

「そこのバカはあまり本気で相手にする必要はない。それより材料代はこちらで払うし、きちんと仕事がなされるか確認したい」

 さらりと相棒をバカ呼ばわりしつつ、告げられた要件はメリッサにとってはあまり面白くないことだった。


 つまり、監視だ。一応メリッサにも魔女としてのプライドがある。

 言い返さない代わりに、心の中で「お金とクビ回避」の呪文を30回唱えて、気持ちを落ち着かせた。


「わかりました。ついてきてもいいですけど、一日がかりですよ。それから絶対邪魔しないでくださいね」


「承知した」

 群青色のローブをまとった魔法術師はアレイとは違い、淡々としてる。

 この人も秘薬が欲しいのだろうか。下世話な詮索をする気はないが、今更なんでこんなものが所望されるのか謎だった。

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