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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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59.アレイのお仕事の時間

「幻影草が材料だったなんてな。ファントムって名前はあながち間違ってなかったんだな」 

 実体のない幻影。探されていた薬物も実体がなくそう名付けられていた。アレイは茶葉をつまみ上げた。

 

「これ、今解析する?」

「面倒だ。お前がやれ」

「俺、細かい魔法嫌いなんだよ」

 押し付けあう二人は、面倒くさがった上に、出来る出来ないではなく、好き嫌いで揉めている。

 ふと、セスランは、夕闇で鏡のように姿を映し出すようになった窓の向こうの気配に気が付いた。


「こういうのが好きな奴がいるな」

「あーね。いいんじゃないか」

 何かを思いついたセスランに、少ない言葉だけで察したアレイが、企むような顔で笑った。

 

「アレイ、後はまかせた」

 セスランはもうここには用はないといったように、身をひるがえす。

「えーやだ。俺もそっちに行きたい」

「離れろ」

 肩を組んで冗談っぽくごねるアレイを、手で払ってセスランは流す。


「ついでの地下探検だ。そこの商人は奴との交渉の為に生かしてある。老体をいたわるようにしろ。卿には先に行って待ってると伝えてくれ」

「はいはい。俺はこのじいさんと、卿に凄まれる役をやっとくよ」 

 アレイは肩をすくめて、空気を読んで黙っている老店主を見下ろす。こいつは長生きしそうだなと考えていると、メリッサに袖を引かれた。


「おじいさんをいじめないで下さいね。絶対ですよ」

 真面目な顔で悪党の為に、拷問するなと念を押してくる。

「嬢ちゃん、気をつけて行くんじゃぞ」

「おじいさんもお気をつけて」

 どういう訳か、老店主まで孫を見送る目をして送り出す側になっている。アレイは調理場へ向かうメリッサの背中に向けてつぶやいた。

「おいおい。こいつも大概悪党なんだぜ」

 

 



「入口見つけたわ」

 シャシャは食器棚の横のパントリーを指さす。食材が保管さている。その一番奥に大きめの棚が設置されていて、横から見ると一見ただの横板だが、押せば開く人一人分が通れるような細長い扉があった。

 セスランが先に扉の向こう側を確認する。

「罠がありそうだな」

 メリッサも横から覘くと、石作りの階段があった。入ってみるとヒンヤリとした空気が肌を包みだす。


「シャシャ、足元に気を付けて‥‥‥?」

 メリッサはすぐに来ないシャシャが気になって振り返った。

「シャシャ?」

 隠し扉の前で、手を握りしめ何かを考えて立ち止まっている。しばらくすると意を決したように顔を上げた。

「少し待って。わたくしも伝言があるの」

 シャシャはスカートをひるがえして、アレイのいる食堂へ戻った。



 アレイは窓際に立っていた。

 真っ暗になった外をじっと見ている。足音で気づいているはずなのに、面倒なのか振り向きもせずに言った。

「なんだよ。早く行けよ」

「あなたはいつも変わらないわね」

 王族に対する、敬意のかけらもない態度を平気でする。

「護衛騎士に追われてる王女様なんだろ」

 護衛騎士達がもうすぐそこまできているのに、何をぐずぐずしているのかとそう言いたいらしい。

 シャシャは、声を潜めてアレイに聞いた。

「あの二人。もう薬の効果が切れてるのかしら」

 シャシャの質問に、少し間をおいてから振り向いて、アレイは答えた。

「‥‥‥効果はひとときって言ってたからな。もう切れてるだろ。メリッサはルビーの時と違って先輩魔法術師に対する態度だし、アイツはやってることそんなに変わらないけどな」

「そうね‥‥‥」

 シャシャはワンピースのポケットを握りしめた。小瓶の存在を確かめる。

 そして、覚悟を決めた。

「アレイ。お願いできるかしら。マキシムに伝えて――」 




◇◇◇




「もう、なんであの人こういうことするのかな!」

 屋敷に入ってきてすぐに、ジェイドの愚痴が始まった。

「もう慣れろよ」

「アレイはそっち側じゃないか!」


 第一騎士団は屋敷内を捜査して、老店主を除いて捕まえた男達を引き連れ、撤収の準備を始めていた。ジェイドと護衛騎士達が到着したときには、すでに三人は居なくなっていた。


「貴様。知っていることをすべて話せ!」

 マキシムは老店主の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。椅子ごと空中に浮く。

「やめろ。じいさんだぞ」

 アレイはマキシムの腕を掴んで止めに入る。


「貴殿はこいつの味方をするのか?」

 それならば切るぞと言わんばかりに、アレイに怒気を飛ばす。セスランへの怒りの矛先が、確実に老店主とアレイに向けられていた。


「こいつは悪党だが、証拠を持ってる。それにいじめるなって伝言あずかってんだよ」

「伝言だと」

「そ。美少女から」

 数秒の間があってから、マキシムの腕の力が緩められ、椅子ごと老店主はガタンと床に落ちた。


「さっきの男と違って乱暴じゃの」

「悪いな。そのさっきの男のせいで気が立ってんの」

 アレイが言った美少女を、マキシムは王女だと思って主人の命令に従った。本当はメリッサの伝言だが、美少女をどう認識するかの問題だから嘘は言っていない。


「ふーん。聖都の屋敷ってこんな感じなんだな」

 まるで緊張感もなく、物見遊山の観光客のような空気のジュナが食堂に入ってきた。そして、室内をぐるりと見まわした後、老店主の前に立った。


「しくじったのか?」

「すみませぬ。殿下」

「あの下法者の、監視をするのがお前の仕事だったよな」

「「は?」」

 アレイとジェイドは、予想外のジュナの発言に驚いた。マキシムの目も見開かれている。 


「じいさん。どういうことだよ」

「俺が説明する」

 ジュナは三人に向き直った。


「この男は、キロシスタの闇の商人として潜り込んでいた俺の部下だ」

「は?‥‥‥まさか――」

 アレイはメリッサの言葉を思い出した。


 ――だから、あなたはくそったれな悪党から()()()()()()()、闇の商人でしょう?


 老店主をまじまじと観察する。派手な服に、すべての指に指輪がはめてある。首には大振りの装飾のネックレス。

 ――メリッサの奴、じいさんの宝飾品の記憶を読み取ったのか。


「いじめるなってそういう事かよ」

 アレイは思わず笑が零れた。これはメリッサに助けられたな。キロシスタの王子の駒を潰さずに済んだ。


「ちょっと、待って。その人、あの黒い瓶を持ってたんだよね」

「そのテーブルの上にあるぜ」

「は?」 

「だからその証拠品。幻影草の茶葉」

 後から知らされるジェイドに同情しつつ、アレイは説明した。

「エダンの魔法のタネを、じいさんがちゃっかり手に入れてたわけだよ」




「で、いつになったら俺の部下は解放されるんだ?」

「キロシスタの王子の部下だとしても、聖都で闇の商売に加担してたわけだし、ここのルールでまずは捕らえるのが筋だよな」

 アレイはジュナの出方を確かめるために、わざとそう言った。


「であれば仕方ないな。ドルパ、捕まっとけ」  

 老店主はドルパというらしい。あっさり主人に捨てられた。

「捕まった時のための奥の手も回収されてしまったし。わしもここまでじゃな」

 ドルパもドルパであっさりと受け入れている。


「はぁ。あんたたちさ‥‥‥。まあいいや。ジュナ王子の目的はこれか?」

 緊張感のかけらもない主従に呆れつつ、アレイは話を進めた。

 テーブルの上に置かれた幻影草の茶葉と、メリッサの魔法で保存されたままの幻影草のお茶。時が止まったかのように、湯の温度が入れらた時のまま維持されているので可視化された魔力もそのままだった。


「我々もそれを探していた。解毒と解呪方法が解らなかったからな。エダンを捕まえても、それがないと意味がない」


 オルテンシアと聖都を巻き込んだエダンは、キロシスタの人間だ。

 自国の下法術師が他国で犯罪を犯していたら、その証拠品を一番早く手に入れたかったのはキロシスタ側だったろう。

 エダンを捕らえたとて、きっと口を割らずに死ぬ方を選ぶ。


「じゃあ、なおさらだな。ジェイド。解析頼むぜ」

「もうやってる。どうせあの人が僕にやれって言ってたんだろ」

 ジュナとのやり取りはアレイにまかせて、ジェイドは残された茶葉に解析魔法をかけて情報を読み取ることに集中していた。


「で、事件を犯人捕まえて終わらせずに、解毒と解呪方法にこだわる理由はなんだ」

 アレイは簡単に協力する気などさらさらない。いかにこちら側が有利になるかだけを考える。

 ジュナの目が眇められる。

「魔塔の魔法術師なら、それが出来るのか?」

「見ての通り、魔法技術研究所の上級魔術師で、三賢者代理としてここにいるジェイドはその手の解析マニアだ」

「マニアじゃない。専門家!」

 集中しながらも、口をはさむほどの余裕があるのはそれほどの腕があるということだ。


「国の為と言いたいところだが。俺の部下がそれのせいで気が狂って死にかけている。親友なんだ」

 平静を装っているが、その強く握られた拳にアレイは気づく。

「なーるほど。それでお忍びなわけだ」

 まったく同情もせずに、それでいて弄ぶようにアレイはジュナに言った。


「じゃあ。解毒と解呪方法。何と引き換えにする?」

 ジュナは瞬きをして、考えた。この対峙する男は聖都メテオーラの騎士だ。それでいてそれ以上の権限を持っているか、そういう枠をこえた存在なのだろう。他国の王子相手にへりくだらず、外交するつもりもなく、何か別のものの為に動いていると感じる。


「――ならば‥‥‥」

 ジュナが考えて、答えようとした時。

「そんな取引をしてる場合か。殿下はどこに行った!」 

 しびれを切らしたマキシムが、アレイの胸ぐらに掴みかかった。


「あーもう。わかったよ。その殿下からの伝言」

 アレイは掴みかかられても動じずに、マキシムの目を捕らえにいく。

「伝言?」

「婚約するなら迎えに来て。しないならセスランおにいさまがいるから、来なくていいってさ」


 マキシムは固まった。凍り付いたといってもいい。護衛騎士への命令ではなく、個人的なお願いだと、この男は気づけるだろうか。

 胸ぐらをつかんだ手が、するりと落ちた。

 アレイはマキシムに目もくれずに、ジュナに向き直った。

「話がそれたけど、ジュナ王子。部下を助ける手伝いしてやるよ。対価は後で請求するってことで」

「そうか。それは助かる!」

 ジュナは、協力を得られることに喜んだ。


「それから対価とは別だけど。今すぐ覗き見やめろ。聖獣だろうが撃ち落とす」

 アレイは紫闇の瞳に魔力を宿す。殺気を窓の外の闇夜に向けた。冷酷さを垣間見せたアレイに、ジュナはすぐに白旗を上げた。

「わかった。相棒を傷つけないでほしい」


 ジュナが「おいで」囁くと、小さな光が窓からすり抜けてきて、彼の肩に一羽のフクロウが現れた。

 昼間にジュナの存在に気付くのが遅れたのは、超遠距離からジュナの聖獣が見ていたからだ。

 ここに来てアレイはやっと、ジュナの聖獣の存在をとらえることができた。

 地上にいるジュナは聖獣と視界を繋いで、空からずっと観察していたのだ。



「へえ。フクロウか」

「メテオーラの魔法術師は恐ろしいな」

「単身で乗り込んでくるあんたほどじゃない」

 鼻で笑うアレイは、老店主を縛り付けていた魔法の縄を切りほどいた。


 ジュナは静かに息を吐いた。

 このメテオーラの騎士は、出方を間違えれば躊躇わずに我々を手に掛けそうだ。

 すぐ横でオルテンシアの王女の護衛騎士が、アレイの言ったことで撃沈している様を見てわずかに同情した。この護衛騎士に至っては、見た目に反して王女相手に色恋沙汰の駆け引きの最中らしい。


「解析終わったよ。早く行こう」

 ジェイドは、マキシムのくだりは聞かなかったことにして、仕事を早く終えてこの面子から解放されるために動き出した。 

 アレイは襟を直しながら溜息をついて、わがまま娘と呟いたのだった。

ブルメテ(ブルーインフェルノメテオーラの略です)

プロローグを、お話全体をわかりやすくする意味も込めて、加筆修正しました。

1~2話までをまとめて編集しなおしました。

早くから読んでくださっている読者様も、読み返していただけるとうれしいです。

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