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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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57.幻影草1

「ソルの使用人は、何者なんですか?」

「エダンといってキロシスタの人間だが、デービス翁の使用人として懐に入り込んでいた男だ」 

 セスランは、椅子に縛り付けられたお茶屋の老店主を見下ろしながら言った。


  「そして、このキロシスタの闇の商人たちとつるんでいた、下法の魔法術師が本当の正体だ」

 老店主は、息を吐いて顔をしかめた。

「はあ、そこまで調べられておったかい」

「お前たち闇の人間を狩るのが、常に表の騎士達とは限らないのは、よく知っているだろう」

「なら、お前さんは裏側じゃな」


 ニヤリと笑う老店主は、商人の駆け引きを始める。


「ずいぶんと余裕があるな」

「お前さんはまだ、わしを拷問することも殺すことも出来んじゃろ」

 老店主はセスランの後ろで、地下への入口を探している二人をちらりと見る。

 シャシャが調理場を調べ始めたので、メリッサもその後をついて行った。


「よく見てるな。さすが商人だ」

「美しいものを見分ける目がないと、商売はできんからの」

 この老店主を力づくで吐かせることに躊躇いはないが、二人にそれを見せる気はない。 

「お前が持っている情報が、命綱だと思え」 

 裏の世界で生きてきたこの老店主は、どれだけの情報と引き換えに生きながらえるか。


「何が知りたい?」

「エダンは、()()ついて知っているか?」

「宝石?そんな話はしたことがないぞ。あやつは自分が作った魔法を試すことばかりに執着しているような奴だ。宝石の価値などわかるような男じゃない」

「その通りだ、宝石の価値はわかるものにしかわからない。宝石に興味のなさそうな男が、それについて話したことはなかったか?」


 エダンが老店主に明かしていないことでも、必要な情報は些細な会話の中にあることが多い。

 記憶をだどっている老店主の返答を待っていると、セスランの袖をメリッサがくいっと引っ張った。


「どうした?」

「あの、シャシャが地下への入口を見つけたら入ってみたいって」

「まったく。君はどうしたい?」

「ソルが心配なので追いかけたいです」 

「わかった」  


 どこにもぐりこんできたのか、メリッサのフードにはほこりと蜘蛛の巣がついてる。セスランがそれを手ではらうと、フードがぱさりと落ちた。

「見つけた」

 老店主がつぶやいた。

「何?」

「宝石じゃ」

 老店主はメリッサを凝視した。

 銀の髪と、特徴的な深い蒼い瞳。


「あれに気づいたのが、銀の髪と蒼い瞳のその嬢ちゃんだと言ったあとに、奴は宝石を見つけたと言っていたんじゃ」

「そうか」

 やはり、エダンは宝石(サファイア)について知っていたようだ。


 メリッサもその意味が分かったのだろう。小さくうなずいて見せると、フードをかぶり直した。

 使用人夫婦を救った治癒魔法まで使えると知れたら、より彼女の価値が上がるだろう。セスランは夕闇に変わりつつある外を見た。窓には外から覘かれないように目隠しの魔法をかけてある。覗き見している者からメリッサの力を隠すために施したそれは、ずっと視線を感知し続けている。


「もう一つ、あの黒い瓶の中身はなんだったんだ?」

「なんじゃ。こっちの質問が後とは、あの嬢ちゃんの方がよほど大事なんじゃな」


 老店主は笑う。相手が何を望んで、どの程度の物を欲しているか、何を差し出せば利益の乗った対価を得られるかを考え続けてきた男は、命がかかった取引でもいつもどおりの仕事をしている。

 それが、セスランが恐怖を与えすぎずに、商談のテーブルを用意しているからにすぎないことを老店主は理解している。


「わしはどこまで生かされる価値がある?」

「そうだな、これからここに来る奴が必要としたら、もう少し生きられるだろう」

「お前さんじゃないのか?」

「黒い瓶のことを話したら、老体をいたわるように言ってやってもいい」


 冷淡に、選択肢は一つだと告げる。

 情報という商品価値のついた老店主は、すぐにそれを察してあっさりと吐いた。


「あの黒い瓶の中身は、幻影草で作った茶葉じゃ」

「幻影草か」

「エダンの奴が、幻影草に魔法を加えて人を操る薬を作ったんじゃ」

「幻影草って何かしら?」

 シャシャは調理場から顔をのぞかせた。


「幻影草はその名の通り、食べた人間に幻影を見せる作用がある。それから幻影を見せる魔物が好んで食べる植物なんだ。その魔物がよってこないように、人間の住む場所で見つけたらすぐに刈り取らなければならないから、森の奥にでも行かないとめったに見ない。メテオーラにしかない植物だ」

 幻影草は一度根を張ると、地下茎で繁殖力が強く他の植物が生えなくなるほどだ。ある意味魔物が食べるおかげで、植物の生態系が維持されている側面もある。


「わたし昔、森で幻影草を採ったことがありますよ」

 メリッサは、そういえばと言って話はじめた。


「幻影草だと知らなくて、ミントだと勘違いしてお茶にして飲んだことがあるんですよね。ミントの香りに似てるんですよ。それに意外と美味しくて。ふふっそのあと幻影が見えて大変でしたけど」

 そう語るメリッサは思い出し笑いまでしているが、それはかなり危険だったんじゃないか。魔物が食べるくらいの代物だ。


「それで、無事だったのか?」

「師匠にど叱れてすぐ吐き出したんで、なんとか無事でした。その後師匠が作った解毒剤を飲まされたんですけど、そっちの方がまずくて死にそうでした」


「メリッサ笑えないわよ」

「嬢ちゃん、気をつけな」

 メリッサはシャシャだけでなく、老店主にまで引き気味に心配された。

 今後もそういうことをしでかしそうだなと、セスランは溜息をついた。

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