51.メリッサとセスランの攻防1
51話を読みやすいように二つに分けました。
夕暮れを迎える。
「まさか、最後のピースを、メリッサがはめてくるとは思わなかったぜ」
セスランが部屋に入ると、アレイは面白がるように言った。
「まったくだな」
シャリア王女が裕福なご令嬢のふりをして、片っ端から露天商に話しかけていたのは狙ってのことだった。多くのオルテンシアの露天商もいる中で、たまたまキロシスタの商人のあたりを引いた。一緒にいたメリッサが、キロシスタの商人の、何かをつかむことはあるだろうと考えていたが。王子を釣ってくるとは思っていなかった。
「どこまで想定内?」
「キロシスタの王子を、釣ってきたこと以外は想定内」
この部屋は誰も入れず、部屋の存在さえ認識されないように結界を張ってある。ここにはアレイと、寝ているメリッサだけしかいない。
「とりあえず、寝かしといたけど。ここで蚊帳の外にしたらきっと怒るぞ」
テーブルの上に置かれた飲みかけの紅茶には、睡眠薬が入っていた。
魔力に耐性のある魔法術師には魔法で眠らせるより、睡眠薬の方が即効性があって効きやすい。
セスランは、アレイに頼んでソルの屋敷に行くといって飛び出しそうなメリッサを留めておくために、仕方なく眠らせたのだ。精霊鳥に魔力を食わせた分、余力はあるだろうが休ませておきたいという思いもある。
「――キロシスタの王子の目的がはっきりするまでは、隠しておきたい」
「それって何だと思うんだ?」
想定されるいくつかの可能性。セスランの脳裏に浮かぶ、一番最悪なのが――。
「デービス翁からサファイアについて情報を得た、キロシスタの連中がメリッサを狙う可能性」
「それな。デービス翁自身、操られてそうだしな」
アレイもそのつもりで、メリッサとジュナ王子の接触をさけようと動いてた。
「ジュナ王子がその情報を得ていた場合、顔を見られたメリッサの正体に気づいて興味を持つだろう」
「すごい勢いで、プロポーズ?してたな。メリッサには響いてなくて笑えたけど。
サファイア狙いなのか、単純にメリッサ狙いなのか分からないな」
「王子じゃなかったら、殺すところだった」
先ほどまで感情を押さえていた分、声に殺気がこもる。
「後は、国交の問題だな。メテオーラにキロシスタの商品を売り込むというよりは、逆にメテオーラの魔道具を仕入れたいんだろうそのための視察と、窓口になりそうな人間の人選だな」
今はオルテンシアの商人が、ほとんどを仲介して隣国に売っている。直接キロシスタは、メテオーラと取引がしたいはずだ。
わざわざ単独で来るくらいだから、複数の目的があるはず。
「商売するには遠すぎるんじゃないか?」
「おそらく、道は確保している」
祭りの間、オルテンシアの王女と公爵を避けて、あちこち動き回っていたジュナ王子と接触できたが、そのきっかけがメリッサでは正直困る。少し王子を泳がせすぎた。
思案するセスランの様子を横目で眺めたアレイは、ソファにもたれ伸びをした。
「まあそっちのことはいいや。それよりメリッサだけど、起きたらすべて終わってました。じゃ、納得しないだろ」
「わかってる」
ソファで眠るメリッサを見下ろす。前世の彼女なら自分で突撃して、すべて解決していることだろう。今日もその行動力と引きの強さで、自分から解決の糸口を見つけてきた。
これ以上キロシスタのジュナ王子や、薬物の事件に関わらせたくないと思うのはセスランのエゴでしかない。
「あの薬物はメリッサにしか見つけられないだろうからな。証拠を押さえるためには連れていくことにはなるが、あの王子が邪魔だな‥‥‥いっそ裏で締め上げて目的を吐かせるか――」
「あーじゃあ俺が裏でやっておこうか?」
算段を口にするセスランに、アレイが軽いノリで返す。
「言ってみただけだ。今回はさすがに無理がある」
「知ってる。俺も言ってみただけ」
キロシスタのジュナ王子と、メリッサの接触を避けられなかったのは悔やまれるが、目の届く場所で公式にやり取りできるようにもなった。
いくつかの可能性はあるが、メリッサが釣ってきたのだから味方となるかもしれない。前世でも、色んな人間やら人外を引き寄せていた。
ただ、ジュナ王子がいきなり結婚とか、ふざけたことを言っていたのが気に入らない。
「見えるところに置いておいて、害悪になりそうなら消す」
やはり結論はシンプルだった。メリッサにとって有益かそうでないか。
「お前、やっぱ過保護すぎ」
「職業病だとでも思っておけ」
「開き直ってんな。元守護天使の職業病こじらせすぎとか、そのうち過保護がすぎて反抗されるかもよ」
もっとも、解き放ったらそれはそれで、色々しでかすんだろうなと、アレイは口には出さずに寝ているメリッサを見た。
「そろそろ起こして話を――」
セスランが、目覚めの魔法をかけてメリッサを起こそうとしたとき――。寝ているはずのメリッサが、わずかに身じろぎした。
二人がそれに気づいた瞬間。
――バリン!!
メリッサが、テーブルの上のティーカップを、拳で叩き潰した。




