4.魔法騎士アレイ
メリッサにはまったく身におぼえのない久しぶり発言だ。
それに、この黒髪の男は、第一魔法騎士団の制服を着ている。騎士団に知り合いはいない。さらに、さっきの会話から察するに飛行魔法でここまで来たらしい。
この時になってメリッサはここが三階ではないことに気が付いた。
黒髪の男の向こう側に見える空の高さ、地平線が見える。
「あの、テラスにでてもいいですか?」
いちおうマスターガーディアンに許可を得る、このテラスに出たとたん落っこちたら最悪だ。飛行魔法はあまり得意ではない。
「もちろん」
メリッサは期待に満ちた一歩を踏み出した。テラスに出て眼下に広がるのは、聖都メテオーラの街並み、神聖樹の森が広がり空と地平の境界が見える。
そして同じ視線上に、魔法騎士団の塔と魔法学園都市ウィズダムの塔が見える。
つまりここは魔技研の塔の上階だ。
朝、眼下に見える広場のレンガを踏みしめて、魔塔を見上げていたことを思い出す。
どこまでも果てしなく広がる空と大地。
千年以上前から聖都メテオーラは存在し、現在は三賢者を中心とする魔法都市を築いている。
女神アルシオーネを祖とし、女神の聖石と神聖樹を信仰する人々の集合都市だ。神聖樹の森に囲まれているため他国から隔離されて文化を作ってきた歴史がある。
「とても、きれい」
「いい眺めだろ」
黒髪の男が隣で紫闇色の瞳を輝かせている。
第一騎士団の制服が、最も美しく完璧に見えるであろう長身とスタイルの良さ。
「あの、あなたは?」
「俺はアレイ。よろしくなメリッサ」
◇◇◇
「やっぱりAランチで大正解だったな」
メリッサがケーキと紅茶の食後のデザートを食べている間に、アレイはアッというまにパスタを食べ終えた。彼は到着するなり、今しか食べる時間ないからとマスターガーディアンにランチをオーダーしたのだった。
「いまさらなんですが、マスターはお昼ご飯‥‥‥」
「私は食べない」
本当に中の人は人間なんだろうか。
「仮面が邪魔で食べないっていう、結構普通でダサい理由だよ。ちゃんと中身人間な」
「ふっ」
メリッサは慌てて笑いそうになる口を両手で抑えた。
「笑っていいんだぞ」
職場の上司を笑えるか。腹筋は痙攣しているが。
この人は、平気でずけずけ物を言う。
それにしても、第一騎士団がエリート集団だからといって、マスターガーディアンに対して失礼じゃないだろうか。馴れ馴れしすぎる。
「アレイ、お前死にたいのか」
マスターガーディアンから殺気が駄々洩れている。壁に掛けてにあった錆びだらけの長剣をいつの間にか手にもって彼の首をトントンしている。
「ご、ごめんなさい」
アレイは急にラスボスの手下のようになった。
「さっさと本題に入れ」
「わかったよ」
向かい側の席に座るアレイは、椅子に座りなおして姿勢を正す。
「月の女神の秘薬を作って欲しいんだ」
「なんですかそれ」
メリッサはかなりの瞬発力を発揮してとぼけた。
「君の師匠、芙蓉の魔女が作った秘薬だ」
思ってもみない依頼にメリッサは内心焦った。
もう作ることは無いと思っていた秘薬だ。
魔女の取引を師匠のもとで見てきたメリッサは師匠の教えを思い出して、勇気をふり絞って魔女モードを演じなければならない。
そう思い込んだ。
「師匠の秘薬ですか」
相手は第一騎士団の人間。師弟関係を知られていてもおかしくない。
「二年前、隣国のオルテンシア王国にある、占いの館で月の女神の秘薬が大流行した。その薬は服薬すると運命の相手、つまり運命の恋人がわかり、ひととき両想いになれるという秘薬で貴族女性にバカ売れした。その製作者である君の師匠を探したが見つからなかった。弟子の君なら同じものを作れるのではないだろうか」
師匠のことも知っている風だ。
どこにこの男との接点があったんだろう。
「師匠のお知り合いですか?」
「君の師匠はウィズダムの魔法科で俺の指導教官だった。そして、それとは別に二年前君たちに会いに行っている」




