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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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44.メリッサの贈り物

 4人は食事を終えて、レストランを出た。

 メリッサは、元貴族の祖母に、テーブルマナーをしっかり叩きこまれていてよかったと初めて思った。 

 おばあ様のおかげで、楽しく食事ができました。お貴族様に不快な思いをさせて、恥をかかずにすみました。メリッサは心の中で、祖母に感謝の祈りをささげた。


 表通りの広場に移動すると、そこには大型のテントが張ってあった。

「あれは、なにかしら?」

「王都でよく見かける、サーカス団のテントに似ていますね」

 マキシムは王女をエスコートをして、一緒に歩きながら答えた。


「行ってみたいわ」

 背の高いマキシムを見上げるシャシャは、笑顔を向けている。

「わかりました。行ってみましょう」

 お昼休憩を終えてから、マキシムの態度が少し変わったように、メリッサは感じていた。

 臣下というよりも、もう少し親しい感じの空気感がある。シャシャにとってはいい方向の変化だ。


「お化け屋敷って何かしら?」

「この中にお化けのいる怖い世界を再現して、入った人をお化けがおどろかすっていうアトラクションだよ」

「王都にこれはないわね」

 入口には若いカップルの列が並んでいて、オルテンシアからの旅行客と見られる男女も多かった。


「メリッサは体験したことあるのかしら」

「学生の時に、友人と来たけれど、とっても怖くて楽しかったよ」 

 魔法石を駆使して、中の照明はおどろおどろしく作りこまれている。無駄に気合の入った造形とからくりで入場者を恐怖に陥れる本格派のお化け屋敷だ。

 シャシャはメリッサにくっつき、ひそひそ声で言った。


「カップルばかりに並んでるけど、どうしてなの?」

「デートの定番だからね、人間怖い思いをすると近くにいる人に抱き着きたくなるから」

「そういうことね」

 シャシャはちらりとマキシムを見る。

「断られるかしら」

「どうかな」


 真面目な護衛騎士が、護衛しにくいアトラクションに入るかどうか。

 シャシャは少し考えて、寂しそうな表情をしてから笑顔を作り直してマキシムに振り向いた。

「ここは、さすがにやめておくわ」

「どうしてですか。入りたいのでは」

「え」

「今日はそういう日なのでしょう。お付き合いしますよ」

「でも」


「メリッサ嬢。お化け屋敷というのは危険なのか?」

「いいえ。いわゆる娯楽系のアトラクションなので、危険はありません」

「では問題ありませんね」

 無表情だったマキシムが、微笑んでシャシャの手を取った。

「ありがとう。本当は体験してみたかったの」

 シャシャは少し恥じらいながらはにかんだ。


「私たちはここで待ってるから、二人でいってらっしゃい」

 ルビーはすかさず、二人きりになるように援護した。

「あの、サルバドル卿。絶対に中のお化けを本気で撃退しないで下さいね」

「それくらいわかっている」

「ほんとですか?シャシャが叫んでも、絶対にお化けを切っちゃだめですよ」

「う、うむ。了解した」


 メリッサから見た護衛騎士団長は、王女の危機と思って、アトラクションの演者を本気で制圧しかねない気がする。

 多分、マキシムもお化け屋敷は初めてのようだし、デートを台無しにしないためにも、とにかく念を押しておく。


「行ってくるわね」

「楽しんで来て」

 メリッサは、二人を見送った。

 二人の後ろ姿は、ちゃんと恋人同士のようにみえた。



 ◇◇◇



 シャシャとマキシムがお化け屋敷に入っている間、メリッサとルビー近くのベンチで待つことにした。

 メリッサはようやく、胸の鼓動が落ち着いてきた。

 これなら、ルビーと二人きりでも大丈夫そうだ。


「あの、ルビーお姉さま。今日は、会いに来てくれてありがとうございます」

「私も会いたかったよ、ずっと探してくれていてありがとう。きちんとお別れを言わなかったこと悪かったと思ってる。事件のあと、王族に呼ばれてしまってすぐに旅立たなければいけなかったから」

「いいえ、お姉さまはシャシャの占い師ですから、仕方ないです」

 きっと王族ご用達になるくらい凄腕の占い師なのだから、呼ばれればすぐに参じる必要があったのだろう。


「二年前に話していた通り、資材庫番に就職できたんです。ルビーお姉さまに教わった魔法をあれから練習して、いろんな素材を保存できるようになったんですよ」

「がんばったんだね」

 初めて魔法を褒めてもらったときの、優しいルビーの微笑みと メリッサが欲しかった言葉だ。

 胸がじんわりと熱くなった。


「魔塔の資材庫には、山ほど素材があって色んな保管方法を勉強してるんです」

「仕事は楽しい?困ったことは無い?」

「楽しいです。資材庫にはかわいい見回り猫が沢山いるし、先輩はみんな親切ですし、それから、内緒ですけど、資材庫の一番偉い人は黒ずくめのラスボス仮面なんですよ。見た目は怖いのに、私の失敗も許してくれました」

「それは、変わった上司だと思う」

 ルビーは目をそらして、いいにくそうにつぶやいた。


「あと、今は宿舎で暮らししているんです!」

「出会ったときは、家をなくして路頭に迷う子猫だったからね」

 懐かしさをにじませてルビーは微笑んだ。

「もう大人になったんですよ!」


「そういうことは、本当の大人は言わないよ。師匠から独立したばかりで背伸びしている子猫だな」

「うぐ、ルビーお姉さまのいじわる。でも、わたしだって大人の対応はできるのです」

 そう言ってメリッサは、ポーチの中からごそごそと小さな箱を取り出した。

「ルビーお姉さまにプレゼントです」

 手のひらに乗った、小さな箱を差し出した。


「これは?」

「二年前に助けてくれたお礼と、魔法を教えてくれたお礼です。あと今日の分も」

「メリッサ‥‥‥」

 メリッサの手は少し緊張していた。押しつけがましいかもしれないと、悩んだけれど、次にいつ会えるかもわからないから、今できることをしたかった。

「ありがとう」

 ルビーは箱を受け取った。メリッサはほっとした。


「開けてみても?」

「はい」

 リボンをほどいて、箱を開ける。

「――これは、まさか。子竜(こりゅう)のうろこ」

「そうです!」


 小さな親指ほどの大きさの、子竜のうろこのペンダントだった。

 七色に光るそれは、子どもの竜が脱皮するときにだけ落ちるもので、とても希少価値が高い。

「七色の加護がついたお守りです。占い師のお仕事は人の念をもらいやすいと思うので、子竜の生命力の塊のうろこが守ってくれます」


「メリッサどこでこんなものを手に入れたんだ?」

「メテオーラの秘密の場所で、魔法素材を探しているときに見つけたんです」

 さすがに「子竜が分けてくれた」とは言わないでおいた。

 東の渓谷に、秋の頃になると竜が集まる。子どものころ迷子になって見つけたその場所で小竜のうろこをもらったのだ。精霊と話せる能力は竜にも通用するとそのとき知ったのだ。

 ずっととっておいた、そのうろこでメリッサはペンダントを作った。


「これの価値はわかっている?」

「最強のお守りです!邪気は払われ、元気が出ます、良くないことから守ってくれます」

「それは効果であって、これを売れば師匠の家の借金もどうにかできたんじゃないか」

「お金にするより、誰かのために使ったほうがいいと思いました」

 子竜はきっと、メリッサを思ってうろこを分けてくれたのだ。だから、価値のあるものでもお金には変えなかった。


「ルビーお姉さまには、もっと高価な宝石の方が似合いそうですけど」

 そういえば、ルビーは宝石や魔道具のアクセサリーを一切つけていない。

 装飾品があまり好きではないのだろうか。

「ネックレスはあまり好まないですか?」

「‥‥‥そんなことはない。メリッサ。言いにくいのだけど、このプレゼントは他のひとにもあげたの?」


「それは一つしかないので、ルビーお姉さまにだけです」

「私が言うのもなんだけれど、これの価値と私がしたことと釣り合わない」

「わたしにとっては十分な理由になるんです。だって、ルビーお姉さまはわたしの推しなんです。憧れの好きな人に差し上げたかったんです」


 やっぱり、押しつけがましかったのかもしれない。最後の方は段々声が小さくなった。プレゼントを渡したのを後悔しかけたとき、メリッサは暖かい手に包まれた。

「ありがとう、メリッサ」

 メリッサはルビーに抱きしめられて、息が止まった。

 なんなら心臓も一瞬止まったと思う。 

 ルビーから、ローズの香水の香りがした。


「大切にするから」

 ルビーの胸元で、七色のペンダントが太陽の光を反射して光る。ルビーはメリッサにつけているところを見せてから、小竜のうろこは見る人が見たらわかると言って、服の中に隠した。

 プレゼントを渡せたことに安堵したとき、メリッサはふと思い出した。


 ――二年前の殺人犯も、黒いモヤに覆われていた。

 どうしてすぐに気づかなかったのか。

 あの黒い瓶から出ていたものと、あれは同じ魔力かもしれない。

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