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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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42.シャシャとお買い物2

 魔道文具店には、魔法が付与された文具が並んでいる。

 店内に入ると、シャシャは感嘆した。


「すごいわ。とってもきれいね」

 ランプの光を反射して輝くペンを、シャシャは一つ手にとって眺める。

「それにオルテンシアだったら倍以上の値が付くわね。魔法石がたくさん採れるメテオーラで直接買うとかなりお買い得になるわ」


「これの倍以上?」

 メリッサは驚いた。

「そうよ、宝石に魔法を刻んだ固有の効果のある文具を持ってることが、貴族の間ではちょっとしたステータスなのよ。その効果と宝石が珍しいほど羨望の的になれるっていうね」

 魔道具職人の作った文具は、見た目も性能もこだわりぬかれている。

 そのため、逆にだた文字が書ければいいといったものが少なかった。


「じゃあ魔道文具を売り込んだ人は、大儲けしたでしょうね」

「だいぶ前のことだけど、メテオーラの財務長官が若いころに売り込んで、大流行したって文官から聞いたことがるわ」

「‥‥‥納得しました」

 メテオーラで三賢者を操縦できる、唯一の傑物だ。

 


「これにしようかしら」

 シャシャが選んだのは、ゴテゴテに魔法石が装飾されたペンだった。

「書きごごちを滑らかにする魔法、インクの残量を教えてくれる魔法、手の疲労を回復する治癒魔法、眼精疲労を回復する魔法、睡魔を飛ばす魔法、集中力を高める魔法が付与されているよ」

「最高ね!これにするわ」

 メリッサの説明に、シャシャは即決した。

 まるで、超強力なエナジードリンクがペンになったようなものだ。


「これでいいの?あっちに暗殺者を知らせる魔法が付与されたペンとか、一回分の防御魔法が発動するペンとか、なんなら自動書記ペンもあるのだけど」

「いいのよ。お兄様はすぐ書類をためこむんだから。効果は内緒で渡すことにするわ」 

 メリッサは、シャシャがかなりしっかりものでスパルタな王女だと思った。



 ――それから。シャシャの希望で露天商を見てまわった。

 興味をそそられた店に、片っ端から話かけにいっては買い物をするのだ。そのたびにマキシムが荷物を受け取り、隠れている護衛に渡すという流れが出来ていた。

 気前よく買っていく美少女に、あちこちの店でおまけをつけてもらっている。


「クレープが一番おいしいかも」

 王都では買い食い出来ないといいながら、シャシャはおいしそうに食べている。

 マキシムが止めようとしたけれど、先にメリッサが食べてみせたので何も言わなかった。王族は少し不自由なのかもしれない。


「次はあの店に行ってみましょう」

 シャシャが選んだのは、メテオーラの露天商でもなく、オルテンシア王国からの露店商でもなかった。

 メリッサは見たことのない、民族衣装を着た店主が立つ店だった。

 乾燥した葉が瓶に詰められて並べてある。ハーブと茶葉の店らしい。


「キロシスタの商人さんからしら」

 シャシャが、煙草をふかしたひげ面の老店主に話しかける。

「そうじゃよ、お嬢さんはオルテンシアからの観光客かい?」

「ええ、そうよ。遠くまでお店を出しに来ているのね」

「最近は、オルテンシアに商人の拠点ができたからね、こちらまで来やすくすなったんじゃよ。今までは遠すぎて来れなかったけどねえ」


 オルテンシアからメテオーラまでは、馬車で十日だ。王都の中心から東側のメテオーラのと国境まで3日移動して、そこから街道をひたすら七日移動する。そしてマイムで一日休憩を取ると、ざっと二週間の行程になる。移動だけで赤字になるので、オルテンシアより遠くの国の商人が直接来ることは今までほとんどなかった。

 移動用の聖獣を飼っている貴族であっても、最短で三日はかかる。


「お茶、おすすめはどれかしら?」

「そうさね、若いお嬢さんにはこの、花茶がおすすめじゃ。お湯を注ぐと花が咲く」

 茶葉の中に乾燥した花が、そのままの形で入っている。

「素敵ね。それをいただこうかしら」

「ありがとよ、少し待ってくれ袋に入れるから」


 老店主は茶葉を小分けにするために立った。

 その時、老店主の足が当たり、彼の後ろに置いてあった物の覆いの布がはらりと落ちた。そこには黒い瓶が置いてあった。

 メリッサは、なにか覚えのある、気配を感じた。黒い瓶から黒いモヤがほんの少し漏れ出て視える。


「あの、その後ろにある、黒い瓶には、何がはいっているんですか?」

「こ、これは特級紅茶の茶葉のストックじゃ。ほれそこの瓶に入ってるのとおなじものじゃよ」

 確かに、透明の瓶に入った紅茶がある。

 けれど、あの瓶から感じるものとは違うとはっきりわかる。

 黒い瓶が新しいものなのか、瓶の記憶が薄くて視えない。黒いモヤだけが薄気味悪い。


「メリッサどうしたの?」

 シャシャの呼びかけに、メリッサはハッとした。

「なんでもないよ」

 今は、シャシャ達と一緒にいるのだ。不用意に力を使ってはいけない。

「異国の物は珍しいじゃろう、いろんな茶葉があるからのぉ」

「そうですね」

 あれが何なのか気になったが、異国の商人には、隠しておきたい秘密の商品があるのかもしれない。

「他にもとっておきのがあるんじゃよ」

 店主はもみ手をして、一つの瓶に入ったお茶を勧めてきた。


「後ろの二人にはこれなんかどうじゃ、滋養強壮効果抜群の薬膳茶がおすすめじゃ。マムシとすっぽんの粉末が入っておる」

 店主は、目をきらりと光らせて、ニヤっと笑う。

 ルビーとマキシムは、店主を殺気だけで殺しにかかった。


「っていうのはジジイの冗談じゃ、おすすめはこっちのタンポポ茶じゃ」

 店主は二人の凍てつく眼光に震えあがり、命乞いをするように言った。

「ルビーお姉さまとサルバドル卿は、朝からずっと着いてきてくれているし、お疲れですよね。おすすめのお茶買いましょうか」


 メリッサだけが、気が付いていない。

 ルビーとマキシムが、なんとも気まずい顔をしていることに。

 年下の王女ですら、いろいろ察しているというのに。 

「アレイにも買おうかな」

 微妙な空気に、メリッサは気が付かずに言った。


「――メリッサ。花茶にしなさい」

「花茶の方がいいですか?」

「花茶の方がいい」

「ルビーお姉さまがそれでいいのならそうします。卿は‥‥‥」


「私は疲れていないので不要だ」

 マキシムはメリッサにかぶせる形で断ってきた。

「じゃあアレイの分は‥‥‥」

「それも花茶にしなさい」

 ルビーはまた、かぶせる形で告げる。


「アレイにはあまり似合わないような気が‥‥‥」

「あの人意外とお茶通なのよ!変わった花茶は好きだと思うわ」

 シャシャもかぶせるように、花茶をすすめてきた。

「そうですか、じゃあ花茶にします」 

  店主は何故か申し訳なそうに、特級紅茶をおまけでつけてくれた。

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