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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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41.シャシャとお買い物1

「メリッサこっちよ!」

「シャシャ待って」

 シャシャは石畳の裏路地をずんずん進み、軒を連ねる店を、次から次にはしごしていた。 

 メリッサにべったいくっついて引きずりまわすシャシャの後を、ぴったり追うように、ルビーとマキシムが着いてくる。


 裏路地には聖都特有の骨董品店などが並び、他国の旅行者が、怪しげな魔法の国を楽しむための人気スポットになっている。

「こうゆう所に来てみたかったの、ほとんど学園都市の方ばかりに滞在していたから、聖都の生活感のある場所に来たかったのよね」

 シャシャは興味深々で石畳の古い通りを見て回る。店と店がぎゅうぎゅう詰めで軒を連ね、ガラス窓越しに見える店内には怪しな商品がずらりと並び、目を楽しませる。


「ここのビスクドールは、メテオーラの衣裳を着るのね」

 ある骨董品店の中に入ると、人形やガラスランプ、古い時代の食器などが並べられていた。シャシャは、なんとなく目が合ったビスクドールをまじまじと見て言った。

「そう、本体はオルテンシア王国の人形を参考に作っているけれど、服はメテオーラのものを着せることが多いの。ちなみにこれは呪いの人形よ、シャシャのことを見ているわ」


 メリッサには、人形がずっと一人ごとをしゃべっているのでそれがわかった。

 ――ソノキレイナワンピースヲチョウダイ。ウラヤマシイ、シロノガイイ。キセカエテ。

 綺麗なお人形は、うらやましいとずっとつぶやいている。  

 店主に聞こえないようにシャシャに耳打ちする。

「ちょっと怖いわね」 

 シャシャは人形から離れて、反対側にある棚に並ぶ石に興味をしめした。


「宝石とはちがうけど、綺麗ね」

「メテオーラでは宝石より、原石の方が好まれるので、こういったのが多いの」

 棚に並ぶ紫水晶の原石はとがった石柱がキラキラ輝いている。魔法術を付与したり、石そのものが持つ魔力を利用した道具を作ったりするので鉱石は原石で売られることがほとんどだ。


「これは、古い魔道具の核だった石」

 メリッサは、原石の一番端に置かれた、丸く加工された紫水晶を指さした。

 まだ少し魔力の残滓が見える。これは音を奏でる魔法に使われたものだ。

 ――赤ん坊が泣いている。綺麗な音が流れると、ぴたりと泣き止む。

 紫水晶の記憶。


「なんの道具だったのかしら」

「オルゴール、子どもを寝かしつけるための」

「メリッサはすごいのね!石を見ただけでわかるの?」

「えっと、資材庫番の仕事をしてると、いろんな石を扱うようになるから、なんとなくわかるようになるんだよ」


 メリッサはそれらしいことを言ってごまかした。少ししゃべりすぎたかもしれない。

 骨董品店などにある、古い物には意思が宿るものや、記憶を残すものが多い。

 少しだけシャシャを楽しませたくて、記憶を読んで解説してしまったけれど、あまりやすぎてあやしまれてはいけない。


 ルビーと、護衛騎士のマキシムも一緒にいるのだ。

 二人は、あまり広くはない店内の入口側に立っている。

 ルビーお姉さまを見ると、なぜか胸が苦しくなる。メリッサはそれから気をそらすためにも、シャシャのガイドに専念した。

 骨董品店を楽しんだ後、四人はいったん外に出た。


「何かお兄様にお土産を買いたいのだけど、何がいいかしら」

 シャシャは三人に向けて何かいい案はないかと尋ねる。

 シャシャの兄ということは、王太子殿下の事だろう。王族の兄妹関係は複雑ですべて覚えていないが、シャシャの兄が王太子だとアレイが言っていた。


 ――王族が喜ぶものってなんなの?なんでも持っていそうだけれど。

「聖都メテオ―ラにしかないものがいいわ」

「となると、やっぱり魔道具かな」

 王太子の事を知らないメリッサは、何が喜ばれるのか正直思いつかない。

「お二人は、何がいいと思いますか?」

 王族に使えている二人なら、人となりを知っていそうだ。


「シャシャの贈り物であればなんでも喜ばれるかと」

 マキシムは部下らしい回答をした。

 シャシャは、名を呼ばれたところでほんのすこし頬が赤くなった。そのシャシャの反応に、気づいているかどうかマキシムの無表情な顔からは読めない。


「兄上は、新しい万年筆が欲しいと言っていましたよ」

 ルビーは、にっこり微笑んで言った。

 王族付きの専属占い師のルビーは、王太子のほしいものを答えられるくらい親しいのだろうか。

「そう。では新しい万年筆にしようかしら」


「では、あちらの魔道文具店に行きましょうか」

 メリッサは、表通りの先にある店を指さした。

「シャシャ。表通りは人が多いから、サルバドル卿と離れないで下さいね」

「な、なによわかってるわよルビー」

 シャシャの思いを知っているのか、ルビーはさりげなく二人がくっつくようなアシストをしている。専属占い師だからシャシャの婚約のことも相談を受けているのかもしれない。


「シャシャ。人混みに賊が紛れていると危険です。こうする方が賊に目を光らせながら自然に歩けますので」

 そう言って、マキシムは腕を差し出した。

「お嫌でなければですが」

「嫌ではないわ」

 シャシャはマキシムの腕にそっと手をおいて歩き出した。


「‥‥‥これが、本物のエスコート!」

 二人の背を見送って、メリッサはつぶやいた。

「メリッサも、ああいうのがしてみたいのか?」

「いいえ!小説で読んだお姫様の話に、王子様がエスコートするシーンがあったので、それを思い出しただけです」


 ああいいうのは、貴族とご令嬢だから様になるのだ。平凡庶民のメリッサには夢物語でしかない。

 美しくて貴賓に溢れている、王族ご用達の占い師のルビーには、普通のことかもしれない。

 そう思うと、なんだかますます場違いで見劣りする自分が、一緒に歩いていてはいけないような気持ちになってきた。

 表通りに出ると人が増え、すれ違いざまにルビーを振り向いてまで見る人が増えた。美女に、驚きと羨望の目を、向けているのだ。


「どうした?メリッサ」

「え?」

「何か不安な事でも?」

「なにもないです」

 またもやネガティブオーラが、出てしまっていたのかもしれない。

 もう顔を隠す瓶底眼鏡はないし、今日は魔法術師のローブをかぶって、顔を隠すこともできないのだ。メリッサはネチネチした劣等感を悟られたくなくて、作り笑いをした。


「ルビーお姉さま。今日は、変な男にからまれないように、お美しいルビーお姉さまのことは私が守りますね!」

 そうだ、二年前の借りを返すなら今だとメリッサは考えた。

「何を言っているんだ。綺麗でかわいいメリッサを、変な男から守るのは私の方だ」

「え」

「さっきから、君をやたらと見ている男が沢山いる。絶対に私から離れてはいけないよ」

「ちが、違いますよ!ルビーお姉さまが綺麗だから注目されているんです」


 メリッサは、ルビーの綺麗でかわいい発言に死にそうになった。収まりかけていた心臓がまた飛び跳ねて、どきどきと走り出した。苦しい。


「なぜそんな事を‥‥‥。そうか。まだ、伝えてなかったな。今日のワンピースとても君に似合っているよ。髪も綺麗に結んでいてかわいい」

「こ、これは、親友が選んでくれたんです、か、髪型も全部」

「すてきな親友だね。メリッサのかわいさを理解しているんだな」


 メリッサはもう、わけがわからなくなった。慈愛に満ちた、ルビーのまなざしを直視できない。気恥ずかしいくせに、どこかで嬉しいと感じているのだ。

「ちょっと、メリッサを口説くの、止めてくれるかしら」

 二人のやり取りを、先に歩きながら聞いていたシャシャは、振り向いてルビーを指さして言い放った。


「聞いてるこっちが恥ずかしいわよ」

「うらやましいですか?」

 ルビーは涼しい顔だ。

「あなた性格変わった?ちょっと、いいえ、すっごく怖いわよ」

 シャシャにドン引きされようとも、ルビーは意に返さない。


「変に気を使って、言うチャンスを逃すと後悔しますので。なるべく気持ちは素直に伝えるようにしようかと」 

 そう言ってちらりと向けた視線の先にいるのは、寡黙な護衛騎士だ。


「もういいわ。お店に入るわよ」

 呆れるシャシャは、マキシムが開けたドアをくぐり魔道文具店に入った。メリッサはまたもや、借金返済の呪文を唱えて、平常心を取り戻そうと苦心していて、シャシャとルビーのやり取りを聞いていなかった。


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