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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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33.研究員ジェイド1

 メリッサは資材庫の事務室で、アイスティーの氷が溶けないようにするための保存魔法を考えていた。


 春祭りの三日目。魔塔全体は休暇になるものの、魔法騎士団は稼働しているし、緊急事態に備えて、必ず一人は資材庫に出勤することになっていた。メリッサは三日目が当番で業務自体はなくほぼ留守番状態で、暇を持て余して魔法の練習をしていた。


 休暇中ではあるが、きちんと制服着用で出勤している。人の出入りの激しい時だからこそ、魔塔の人間であることを証明できる制服着用は義務化されていた。


「氷が氷のまま維持できたら、味は薄くならないし、冷たいまま美味しく飲めるけど、液体の部分と混ざらずに維持するのが難しいよね」

 誰もいない事務室で、独り言をぶつぶつ言いながら、アイスティーの入ったグラスとにらめっこしている。


 ラファエルが来てくれたらいいのに。今日は、見回り猫が一匹も見当たらない。

 外を出歩くときは、スーリアと一緒に出掛けるようにしろとアレイが言っていた。

 いつ、デービス翁の差し向けた輩が、現われるかわからないからだ。逆に魔塔の中なら安全だから、いっそ資材庫にでも引きこもっていろと言われたくらいだ。


 月の女神の秘薬も作り終え、王女にも会った。前国王と悪縁があるサファイアの孫だと知らないはずだが、何かのきっかけで知ってしまうかもしれない。

 考え事がぐるぐる頭の中をめぐって、勢いで秘薬を飲んでしまったことを思い出す。後悔はない。ないけれど。


「運命の人って誰なんだろう」

 今更になって、秘薬によって自分が変わってしまうということが、少し怖くなってきた。

 春祭りで出会った、アナベルのことを思う。彼女は秘薬を使ったのだろうか?


 二年前、ウィズダムに入学する前に、アナベルは占いの館で働いていたメリッサと一度だけ、客と占い師として出会っていた。魔法学科での同級生になったときは驚いたが、貴族出身者グループとはあまり交流をしなかったメリッサは、きっと瓶底眼鏡の地味女くらいにしか認識されていないだろうし、ましてや変装していた占い師のメリッサと同じ人物だとも気づかれないと考えていた。

 メリッサにとっては、月の女神の秘薬を直接売った唯一の客がアナベルだったのでばっち覚えていたのだが。


 あの時から彼女はソルのことを想っていた。

 王都に帰らない彼のために、きっとアナベルも魔塔に残ったのだろう。昨日の様子からすると二年間変わらずに思い続けているのだ。


 メリッサは今頃になって、ソルが資材庫番に就職してから、よく休日に一緒に出掛けようと誘われたり、急に仲良く接するようになったことに気が付いたのだ。あの時は、同僚だとしても婚約者がいるソルとでかけるのは良くない事だと思っただけで、それ以外には深く考えずにいた。アナベルの気持ちなど、考えてなかったのだ。もっとよく見ていれば気づけたこともあったかもしれない。


 ――コンコン。

 事務室のドアをノックする音が聞こえた。

「はい、お待ちください」

 考え事にふけっていたメリッサは、急いで席を立ってドアを開けた。


「やあ、休日出勤ご苦労様」

「どちらさまですか?」

「魔技研の研究員。ジェイド・ウォーカーだ。頼んでた材料を貰いにきたんだけど」


 爽やかな美青年が現われた。名前のとおり綺麗な翡翠(ジェイド)色の髪の色をしている。魔技研の研究員の証である、タッセルの付いたローブを着ている彼は、注文書の控えを差し出してきた。春祭りの休暇中でも、研究を休まない人間が一定数いると聞いていたが、彼がそのうちの一人らしい。 


「お待ちください」 

 事務室に戻り、準備済みの箱の中から、ジェイドの名の付いたものを探す。

 注文書には上級水晶四つと、聖水一瓶。鉄パイプ5本と書いてある。


「あった」

 箱に詰められて準備されていた材料を、ジェイドの元へ持って行った。

「こちらでよろしいですか?」

「間違いない、水晶も上級のいいやつだね。ありがとう」


「こちらにサインを下さい」

 注文書と受取書に、魔力を込めてサインをしてもらう。

「資材庫に新人が来るなんて、めずらしいと思っていたけど。ずいぶん変わった子がきたんだね」 

 サインを書きながら、ジェイドが話しかけてくる。


「新人のメリッサ・レイニードです」

 魔技研の先輩に対して挨拶をする。資材庫番と研究員は仕事上仲良くなっておくことに越したことは無い。

「最近まで話題にならなかったのに、急に資材庫にかわいい子が入ったと噂になっているよ」

「は?」


「眼鏡っ子が、実は美人だったって」

「え?」

 美人?嘘でしょう。

 目の前のジェイドの方がよっぽど綺麗だ。最近は美貌の青年ばかり目にしていてずいぶん目が肥えてきたが、彼もまったく遜色ない美形だ。


「その噂は間違っていませんか。からかうのは止めてください」

「やっぱり、無自覚なんだね」

「自覚はありますよ、この世にはものすごーい美人が男女問わず存在するんですよ。自分など平凡以下だと最近改めて思い知ったばかりです」


 緑陰のあの二人と、超絶美少女の王女様、ここ数日で超級の美人に会ったばかりだ。

 比べるのもおこがましいが自分は影が薄くて、冴えない女だと改めて思ったのだ。

「なんかちょっと、自己評価が間違ってる気がすけど、まあいいや。メリッサちゃんお願いがあるんだけど、ちょっと手伝ってくれないかな?」


 彼は、申し訳けなさそうに、鉄パイプをチラ見する。長さ2メートルのそれはけっこう重い。

「いいですよ。もうお昼なので、いったん事務室を閉めて運ぶのをお手伝いします」

 特にすることもないし、お昼休憩は事務室を離れていい事になっている。

 メリッサは、水晶と聖水の入った箱を持った。ジェイドは鉄パイプを抱える。


「‥‥‥鉄パイプって何に使うんですか?」

 資材庫に鉄パイプがあることも意外だったが、使う人間がいるのも意外だった。

「うーん、ちょっと健康器具でも作ろうかなって思って」

「健康器具?」

「最近研究にハマりすぎて運動不足だから」

「そうですか」


 魔技研の研究員の考えることはあまり本気で聞くもんじゃない、とレイズ課長が言っていた。メリッサは、これ以上突っ込んで聞くのは止めることにした。

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