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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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25.壊れた瓶底眼鏡1

「絶対嫌ですよ!わたしは資材庫番の仕事をして、平凡に自由に生きるって決めているんです」

「すでに平凡じゃないだろ」

「それはお二人の方じゃないですか。だいたい、わたしは戦闘向きじゃないので隠密など無理です」

 運動神経は並みで、師匠にしごかれはしたが別段いいわけではないのだ。剣術も出来ない。


「昨日の、あの魔法は傑作だったじゃないか」

「それは、セスラン様が――」

 メリッサはうっかり名前を呼んでしまい、あわてて口を手で塞いだ。

「お客様が魔法を手伝ってくれたからで‥‥」

 言い直してから、はす向かいに座るセスランを見ると、目を見張り手で口元を隠している。

「すみません。勝手に名前でお呼びして」

 彼を、不快にさせたかもしれない。こういう時は、さっさと謝罪した方がいい。なにせ相手は貴族だ。


「謝らないでくれ。できれば、名前で呼んでほしい」

 遠慮がちに、それでいて懇願するかのように彼は言った。

「そんなふうに言われましても」

 彼の以外な反応に戸惑う。魔女にとっては、お客様との線引きが仕事上は大事なのだ。

「だめだろうか」

「いいえ。だめというか‥‥‥」

 魔女のメリッサは依頼客に感情移入しないためにも、名前を呼ばないようにしている。

 すでに二日も一緒にいて、食事をして、さらには悪党から助けられた上に、魔法の指導もしてもらっている。

「‥‥‥」

 紅い瞳をゆらし、彼は返事を待っている。

 流石に無下にはできないと観念して、その名を呼ぼうとしたとき――。


 ――パキン!

 何かが割れる音がした。

 メリッサはローブのポケットから瓶底眼鏡を取り出した。

「また、割れてる」

 朝よりもひどく、ひび割れが増えていた。魔法術師として格上の二人なら治す方法を知っているのではないかと思って、持ってきていたのだ。


 眼鏡のひび割れから、ゆらゆらと黒いモヤが浮き上がりだした。

 メリッサは眼鏡を持つ手にピリッと痛みを感じると同時に、全身に悪寒が走った。

「なんで!!」

「魔法が発動する!ラファエル、魔導具たちのセキュリティの術式を変更しろ!彼女を標的にさせるな!」

 異変に対し、セスランは指揮官のごとく指示を出し、そのままメリッサを抱き上げて隣室へと走った。


 ――サファイアの秘密を知ったものを生かしておくな。

 声が頭の中に響く。

 ――また利用されて、裏切られる前に殺せ。

 初めて聴く、おばあ様がくれた瓶底眼鏡の記憶の声に、メリッサの意識は飲み込まれた。 

「離せ!」

 バチバチバチ!

 メリッサは魔力を放出して、セスランの腕から離れた。


 


「どうせ利用しようとする癖に。お前など信じない」

 メリッサの蒼い瞳は光をなくし、黒いモヤがその身をを包む。

 手に握られたままの眼鏡は砕け、握られたレンズが手のひらに刺さり血を流している。


「古い魔法が発動したのか。これでも守護の魔法なのだろうな」

 駆けこんだ隣室はベッドと鏡だけが置いてある、広い割りにこざっぱりとした部屋だ。

 魔導具の保管庫で攻撃魔法を放ったら、侵入者ありとセキュリティが発動し、メリッサを標的にした捕獲魔法が発動する。しかも侵入者を半殺しにするレベルのものだ。


 攻撃の意思を含んだ魔力が放出される前に、こちらの部屋へ移動し空間を隔てたが、保管庫では今頃初動を察知したセキュリティが発動して、残されたアレイが標的にされた上にラファエルが保管物が破壊されないように立ち回るという大変な目にあっているはずだ。


「魔法術師が魔法に飲まれてはいけないな」

 黒いモヤとなって流れ出す魔力を、セスランが異空間へ流して部屋の爆発を防いでいる。

 魔力が届かないと苛立ったメリッサは、血だらけの眼鏡を捨てて、ローブの裏に仕込んである短剣を抜き出した。


「サファイアの力を利用するものは殺す」

「やってみるといい」

 短剣を操るその剣裁きは、暗殺者を思わせるものだった。

 メリッサは俊敏に間合いを詰め、短剣を振りかざす。


「祖母殿は強いな」

 セスランは短剣をかわし、その腕を軽くひねり上げた。メリッサは一瞬宙に浮き、背中からベッドの上に落下する。そのまま両腕を抑え込み、体の上に跨って制圧した。

「お前は、信じられない」

 真上に跨るセスランを睨みつける。それは相手を殺すことを躊躇わない目をしていて、押さえられた手には短剣を握ったままだ。


「俺はメリッサを信じている」

 メリッサの目が見開き、一瞬揺らぐ。

 黒いモヤが胸のあたりに集まり、チリチリと魔力が炎に変化する。

「火炎魔法はまずいな。すべて吹っ飛ばすつもりか?」

 放出する魔力量が上がり、熱風がベッドのシーツを巻き上げる。

 セスランは水魔法で相殺しつつ、部屋には収まらない魔力を異空間へ流した。


 そして、黒いモヤを祓うために光を集め、メリッサを包む。

「この記憶は君のものではない」

「‥‥‥きおく」

 光は、記憶に残る、悲しみ、後悔、苦悩、怨嗟を溶かしていく。

 黒いモヤが、少しずつ砂のように形を変えさらさらと消えていく。

 殺気をはらんでいた目が、空っぽになる。

「メリッサ・レイニード目を覚ませ!」

 声に光の魔法をのせて、メリッサの名を呼んだ。

 暖かい光が、二人を包んだ。



「‥‥‥セスラン様?」

 蒼玉の瞳に、光が戻る。

「そうだ、俺がわかるか」

 メリッサの手から力が抜ける。握っていた短剣が手から離れ、カランと床に落ちた。

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