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ブルー インフェルノ メテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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24.緑陰の二人

 隣国の王女様などまったくの想定外だ。メリッサはセスランの方を見た。

「第三王女シャリア姫が秘薬の依頼主だ」

 まじめそうな彼が端的に答えてくれた。信じがたいが本当の事なのだろう。

「どうりで、報酬額が破格な訳ですね」


 ――王族の依頼。一番近づきたくない種類の人間だ。

 蒼玉の魔女の力をもっとも欲しがり、支配してきた王族たち。

 この二人は、そこと通じている。


「蒼玉の魔女だと知っていて、王女は私に依頼を?」

「いいや。秘薬を依頼したのは芙蓉の魔女をあてにしてのことだ。王女は知らない」

 セスランは首を横に振る。秘薬は王族に知られるほど売れたのだろうか。

「どうして王女様に協力するんですか?」

「それは、俺とセスランがその王女の婚約者候補にあげれちまったからだよ」

「嘘でしょ」


 とんでもない予想外の話に、メリッサはなんだか騙されているんじゃないかという気がしてきた。

「嘘みたいな話だが聞いてくれ。彼女は十六歳なった今年、国王に何人か婚約者候補を挙げられたんだ。それで俺とセスは一応貴族籍順に行くと上の方で、適齢で独身で魔法術師でってことで、いつのまにか候補にされたんだよ」

「二人は、オルテンシアの人だったんですね」


 彼らは本物の貴公子だと確定した。王国の貴族がわざわざ聖都メテオーラのウィズダムに留学してくるのは、貴族の特権ともいえる魔力保持者の血統を守ることと拍付だ。ほとんどの貴族はウィズダムを卒業すると国に帰る。魔法術師が自然発生的に生れるメテオーラと違い、貴族の魔力保持者の数は減少の一途をたどっていると聞いたことがある。


 彼らはそのままメテオーラに残っている特異な存在だといえる。そんな二人をも候補に挙げるとは。

 アレイは、うんざりといった顔をした。 

「目的は俺らの魔力。王国では貴族が血統で守ってきた魔力が弱ってきていて、俺とセスの魔力を王家に取り込んでおきたい訳だよ。」

 いかにも王族の考えそうなことだ。メリッサも同じような目に会う可能性がある。


「そういうことですか。納得です。でもそれなら貴族籍を抜ければいいのでは?」

「貴族社会はそう簡単じゃないんだよ。俺は候爵家の三男だからまだなんとかなるが、セスは‥‥‥っと。まあなんだ、辞めるにもしちめんどくさい手順があるんだよ」

 アレイが言うのを止めたことが気になるが、貴族社会のことを深堀したところで、メリッサには理解できない価値観で出来上がっているのだろう。


「俺たちは緑陰だとは国王は存じ上げない。だから婚約がそもそも無理だとも言えないし困ったことになってんだよ」

「でも、王女様と結婚できるチャンスですよね。貴族男性なら喜ばしいことではないんですか?」

 メリッサが読んでいる恋愛小説は、お姫様と結婚する騎士や魔法使いが登場する。みんなハッピーエンドで胸キュンするものばかりだ。

「俺は嫌だね」

 アレイは即答した。


「お客様は?王女様と結婚したいと思いませんか?」

 メリッサは恋愛小説のような話を聞かされて、つい浮かれて好奇心をセスランに向けた。

「論外だ」

 ザクッ。ミルフィーユのパイ生地が砕けた。

 こころなしかメリッサを侮蔑するかのようなまなざしで、バッサリと言い捨てた。

「うっ。ちょっと乙女展開を期待しただけなのに。わたしが切られた気がする」

 この二人がここまで言う王女とは、一体どんな人なのだろう。    

「君が何を期待してるか知らないが、王女も俺たちとの婚約を拒否している。死んでも嫌だそうだ。お互い様だがな」

 セスランの冷笑が、怖すぎる。


「とりあえず、俺たちは婚約を回避するという点で目的が一致している。それで秘薬が必要な理由は王女から直接聞いてほしい」

 なぜかご機嫌斜めになったセスランの代わりに、アレイが話をつづけた。

「王族には会いたくありません。それにどうして貴族出身のあなた方が緑陰なのですか」

 自身の身の安全の為にも、この二人の事を知っておかなくてはならない。

「俺は表は第一騎士団所属の魔法騎士だが、緑陰としてオルテンシアの影との調整役をやっている。」

「その調整役ってなんですか?」


「向こうの親メテオーラ派の王族の影と連携して、外交問題が起きないように裏でいろいろ動いてるんだよ。メテオーラの人間たちと違って、オルテンシアは貴族社会でいつも他国の資源やら金儲けの種やら狙ってる輩がいるからな。そういう火種をつぶしてくのが緑陰の仕事だ」

「すごいですね」

 世の中の裏の裏を知った人間の末路が、頭をよぎりだした。


「セスは俺と組んで動いている。こいつもオルテンシア出身で向こうに顔がきく。両国間の争いを未然に防ぐ目的で活動しているんだ」

 貴族出身の二人が、魔塔の裏の情報に関わるのは危険ではないのだろうか。

「あなたたち、貴族側のスパイだったりしませんよね。」

 ド直球だが、ここまで聞いてしまったら、もやもやをはっきりさせておきたい。

「スパイじゃない」

 アレイはきっぱりと言い切った。


 メリッサはセスランの方を見やると、彼は懐から短剣を取り出した。それには美しいエメラルドがはめ込まれ、三賢者の紋が装飾されている。 

「俺たちは、魔法術師の魂の故郷であるメテオーラの聖石に忠誠を誓っている。魔法をつむぐ自然そのものを信仰している。生まれは関係なくその信仰と魂によって誓いを立てたものだけが聖石に選ばれて緑陰になるんだ」

「聖石が選ぶ‥‥‥」

「そう、メテオーラの秩序を壊すようなスパイ行為をしたら、偽の誓いを立てたと聖石の怒りに触れて死ぬ」

「死?」

 そんなことはないだろうと、今度はアレイを見やる。

「まじで即死だな」

 アレイはあっけらかんと言う。


「俺たちは魂で繋がっているからすぐにバレて死ぬんだよ」

 誠実さと命を懸けて戦っている。

 これは、緑陰の最大の秘密であり弱点じゃなかろうか。

 さらにアレイは、王女様と協力する最大の理由を説明してくれた。 

「王女と結婚したら、必ず王国の利益のために動かざるを得なくなる。そうなればメテオーラを裏切る行為だってすることになるはずだ。それは俺達にとっては死を意味する」


 メリッサは、二人の核心にふれすぎて、まずい気がしてきた。裏の裏を知った人間はたいてい消される。

「メリッサ・レイニード。君を緑陰にスカウトしたい」

 アレイは、いたずらな笑みを浮かべて、メリッサが一番聞きたくないことを言った。

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