13.魔女と騎士の秘密の花園
いつもの女神はメリッサに友好的で、こんな無理をいうようなお方ではなかった。
自分が不遜にも、他の者を連れてきても許されると勘違いしていただけかもしれない。そうであれば、安易に二人を連れてきた自分が責任を取らなければならない。
いっそ二人を女神に献上して逃げたいところだが、責任感と罪悪感がわずかばかり上回り踏みとどまらせる。
それに女神の要求をクリアしなければ、森から出ることが出来ない。
メリッサは小説のシーンを思い出す。主人公は、本当に好きな方にキスをしてほしいと謎の懇願をされ、本命の騎士にキスするのだ。そして、確かあれは、ほっぺにだった気がする。
絶対にほっぺだったはず。
メリッサは意を決して二人の方を振り向く。
セスランとアレイが、なんとも気まずそうな表情で跪いている。
普通の婦女子ならば、美丈夫がそこにいるのだからよろこんで女神の提案にのるだろう。しかし、恋愛未経験のメリッサにはさっぱりどうしていいかわからなかった。
そもそも、出会ったばかりのひとにキスをするって変じゃないか。メリッサは脳内フル回転で自問自答していた。
その時、セスランが女神に申し出た。
「泉の女神ファンテーヌ様、発言することの許可をいただきたい」
「許す」
「その小説を再現するという話ですが、再現するというのであれば、私がその本命役をやると取り決めてしまえばいいと思うのですが、いかがでしょうか。」
「よい。そのようにせよ。蒼玉の魔女が限界だしな」
女神は完全にメリッサで遊んで面白がっている。彼女はまったく気が付いていないが、女神がこちらの反応をみておもちゃ遊びしているのがみてとれた。
支配者の戯れは、面白がっているうちはいいが、機嫌を損ねると急転直下で地獄に変わる。油断はできない。
「魔女殿、小説の再現をするだけだから」
セスランはメリッサに近づき、自分のほうを向かせる。
「うう、責任が。・・・・・・でもやっぱり無理。・・・・・・絶対無理いい」
メリッサはもう限界に達していた。ぶつぶつつぶやいて心ここにあらずだ。フードを引っ張りそのまま地面にめり込みそうなほど頭を抱えている。
「魔女殿・・・・・・」
妙齢の女子に口づけを催促するなど、さすがに出来ない。
彼女の心が傷つかないように、セスランはメリッサの額に手を触れて魔法をかけた。
ぱさりと深緑色のローブのフードがめくれ落ちる。
メリッサの視線が夢見ごこちにとろけだす。
セスランの紅い瞳をじっと見て、何かに気づいたように目を見開いた。
「ルビーお姉さま!」
「メリッサ、挨拶のキスをくれる?」
「ふふっ、いいですよ!」
メリッサは背伸びをしてセスランのほっぺたに小鳥のようにキスをした。それからふにゃりと笑ったかとおもうと、そのまま意識を手放して倒れる。
セスランはその崩れる体を抱きとた。
「少し違っていたけど、まあいいでしょう。」
女神が一連の小説の再現なるものを見て、納得したようだ。
「面白かったわ。水を持ってその娘をつれて帰りなさい」
女神は魔法で泉の水を瓶に満たした。アレイがそれを受け取る。
「私たちの娘の因果を断ち切る者たちよ、その子を傷つけることは許さない。自由を奪うことも許さない。」
女神は神の威厳をもって二人を見下ろす。
「あの木の間を通れば外に出られる。行くがいい」
セスランはメリッサを抱えてアレイとともに女神に一礼し、指示された木の間を通って森を出た。




