12.泉の女神
林を抜けると、空が開け岩場の先に美しい泉が現れた。
「ここです、この泉の水を汲んで帰りましょう。」
メリッサは泉のふちにひざまずきまた祈りを始めた。
すると、泉が金色に光りだした。
ブクブクブクっ
泉の中心が噴き出した。
水の柱が4~5メートル噴射し、そこに白い光を放つ女性が現れた。
「ひさしいな、蒼玉の魔女」
その女性はメリッサにだけ聴こえる声で、微笑みながら挨拶した。
メリッサは、その女性にだけ聴こえる声で答えた。
「お元気でしたか、泉の女神ファンテーヌ様」
「今日は面白い客人がいるな」
「勝手に森に連れてきたことをお詫びします」
「よい」
「泉の水を分けていただけますか?」
「またあの月の女神の戯れにつきあっているのか?」
ファンテーヌは白いドレスをけり上げながら足を組んで、優雅に水の椅子に座った。
「どちらかというと、人間の戯れです」
「お前はいつも正直で面白い」
ファンテーヌはメリッサの後ろを見やって言い放つ。
「お前が男を連れてくるなんて珍しいな」
「色々わけがあって連れてきました」
メリッサは後ろの二人を一瞥する。
「・・・・?」
二人は、なにかとんでもないものを見ているかのように唖然としている。
そして、突然その場に跪いた。
まさか・・・・・。
「女神様、見えてるの?」
白く長い髪はきらきらと水滴を反射させ、アクアマリン色の瞳が清らかな水面を思わせる。純白のマーメイドドレスを身にまとう、人智を超えた美しい女神の御姿。
「お前が面白いものを連れてくるから、吾奴らにもわらわが見えるように魔法をかけてやったぞ」
「ええっ!!」
「声も聞こえるようにしてやった」
これでは、メリッサの秘密がバレてしまう。ファンテーヌ様なんてことを!二人からは謎の祈りを捧げてる自分の姿だけ見えて終わるはずだったのだ。
女神はめったに人前に現れない。そう思い込んでいた。
「蒼玉の魔女よ、して、どっちをここに置いていく?」
「え???」
「水をやるかわりに、そこの見目麗しい男を一人捧げよ」
天馬と同じ展開に、また挑まなければならなくなった。
「ファンテーヌ様、申し訳ありませんが、彼らはこの国の為に戦う魔法術師と騎士です。連れて帰らねばなりません。」
水をもらったとて、ここに依頼主を置いて行っては元も子もなくなるのだ。どちらかだけが生き残って秘薬を手に入れるなんて、ばかばかしいデスゲームだ。
「国のことなどどうでもよい。その男の、どちらか大切な方を連れて帰ればよい」
無理難題過ぎる。
大切な方と言われてもどっちも付き合いはそんなに長くないし、むしろ出会ったばかりだ。
メリッサは、もう水はあきらめて秘薬の契約もなかったことにしようと思った。アレイとセスランも女神の申しつけに逆らってまで手に入れるものじゃないとさすがに納得するだろう。
自身が至高の存在と自負している女神が、人間の男に興味をもつなんて考えていなかったのだ。
「ファンテーヌ様ご容赦を」
メリッサは最後の望みをかけて、ファンテーヌが以前所望していた乙女の恋愛小説をカバンから取り出して差し出した。
魔女と騎士の秘密の花園二巻。
「おお、新刊が出たのか!」
ファンテーヌが少女のように全開で目を輝かせながら、本を受け取った。
「ふむ、あまりいじわるをして、そなたが来てくれなくなったら続きが読めなくなるな」
メリッサは手に汗握り、女神の裁量を待つ。
セスランとアレイは跪いたまま、この状況を静観しているが、とてつもないピンチに追いやられていることは多分伝わっているはず。すべてメリッサの背にかかっているという状況が危うすぎる。
「では、蒼玉の魔女よ、魔女と騎士の秘密の花園第一巻の七十八ページ、二人の騎士に迫られて戸惑う主人公が、その場で本命の騎士にキスするシーンを再現せよ!」
一瞬時が止まった。三人とも耳を疑った。
「ファンテーヌ様ひどい!それは無理です!」
メリッサは顔を真っ赤にして立ちあがった。
「どうしてじゃ、人間のらぶストーリーはおもしろいではないか、見せておくれ」
「それは小説だからですよ!」
「では、とちらか一人置いていくのじゃ。」
女神はまったく譲る気はないようだ。




