11.夢でも見てるのか
「あの岩のところで、休憩します。」
そう宣言したメリッサは、またもや岩の前にひざまずき、なにかの祈りを捧げ始めた。
アレイは相棒が面白い行動ばかり取るので、内心この森の探索をものすごく楽しんでいた。
あのワーカホリックな男が、仕事以外でこんなに必死になってるのは見ものだった。
本人はまったく無自覚なんだろうが。
アレイから見ると、メリッサは正直者すぎるのか嘘が下手で、そのくせうっかりな一言が多い。意外とはっきりものを言うので、人見知りというわけでもないのに、ずっとうつむいて顔をローブで隠そうとする。笑うと年頃の普通の女の子だ。
それでいて、戦いの場面ではおくすることなく初めてのチームで連携がとれていた。彼女を騎士団の魔法術師として戦場で育てれば大物になるのではないかとアレイは判断している。
あのいつもは鉄面皮で冷静なセスランが、百面相して世話を焼いている。そういう意味でも大物だ。
メリッサは祈りを終えて、岩の向こう側を覗き込むと、何者かを手招きしている。
ガサガサっ。
「まじかよ」
現れたのは、真っ白な聖獣天馬だ。
白馬に羽根が生えたそれは、まさしく天馬でしかありえない。
聖獣のなかでも、その存在は貴重で、人間が目にすることはまずほとんどありえない。
伝説級の存在だ。
「信じられないな」
セスランも同じく驚愕している。
メリッサはその天馬としばらく見つめあい、カバンからピンクのリボンを取り出した。
あれは雑貨屋で買ったものだ。
そして、天馬のたてがみにピンクのリボンを結んでやった。
天馬はメリッサにお礼のようにほおづりすると、岩を飛び越えて消えていった。
「おいおい、あれ天馬だったよな」
「そうですね、とてもめずらしいです」
微妙なはぐらかし方をしたメリッサは、向こうが目的地の泉ですと言って駆けだした。
「なんか、夢でも見てるのか俺たち」
「いっそ夢であってほしいな」
うすら寒い畏怖の念が沸いてきて、二人は彼女の後をすぐに追った。はぐれたらまずいと直観的に感じていた。
◇◇◇
一方メリッサは、天馬にプレゼントを用意していてよかったと、心底安堵していた。
気ままな天馬は、見目麗しい男どちらか一人を置いていけとねだっていた。
二人は自分の仲間だから置いて行けないと伝え、かわりにリボンで気を収めてもらおうと必死でご機嫌を取っていたのだ。
万が一にも天馬に連れていかれたら、おもちゃにされた挙句、森で白骨死体になるのが容易に想像できる。うまく気に入られたとしたら長寿の息を吹き込まれて長い時を天馬のおもちゃとして過ごすことになる。
どっちみち地獄だ。美しい天馬は慈悲と残酷さをもった生き物なのだ。
天馬はこの森の番人の一柱だ。天馬が気をよくすることで、泉への道を開けてくれる、そういう決まりがある。
メリッサは天馬がきき耳を立てて興味がわいて戻ってくることを考慮して、詳しいことは話さず泉を目指して走った。
二人も何かを感じ取ったのか、何も言わずに走ってついてきてくれた。




