9.メリッサの謎の自信
「森に行きます」
セスランは、メリッサに言われたとおり黙ってついてきた。買い物も終わりやっとそれらいしい場所に行くと言われて、相棒のアレイはわかりやすく安堵していた。
だが、それから小一時間ほど歩いてたどり着いたのは西の森だった。
「西の森は魔法術師が一人で入るにはかなり危険な場所だよな。いつもここで材料採取してるのか?」
アレイの言う通り、西の森は、魔物と迷路で知られている。一度足を踏み入れると森の外に戻ることが出来ない。それゆえ、どんなに強い魔法術師でも近づくものはほとんどいない。
それなのに、メリッサには自信があるように見えた。
セスランはこれまでの魔女の買い物の、意味不明さの正体が気になっていた。
だが、黙ってついてこいと言われて承知した以上、その通りにするほかない。
しかし、西の森に、普段単身で侵入してるとなれば、黙ってはいられなかった。
「魔女殿、命知らずがすぎるのでは、この森に入るだけの装備も実力も備えずに行っていい場所じゃない」
きついものいいかもしれないが、セスランはメリッサが無謀なことをして命を落とすようなことをしてほしくなかった。
謎の買い物を詰め込んだカバン一つで、森に乗り込もうなどと無謀すぎる。
しかも、アレイとセスランの戦力を頼りにしているわけでもない。
「では、ここで待っていていください」
メリッサはためらわず森にむかって歩き出す。
セスランはメリッサの手をつかんだ。
「待て」
「なんですか」
メリッサは、心底驚いたかのように振り向く。
「魔女殿、依頼した俺たちがいうのも何だが、ほかに方法はないのか?」
「さすがに俺たちがついてても、戻ってくるのは難儀だぜ」
アレイも真面目くさってメリッサに言い募る。
「こんなことまで魔女殿にさせたいわけじゃない」
セスランは手をさらに強く握りしめる。
やっと彼女は何かに気づいたように、二人に向き直った。
「この先の、泉の水がないと作れません。それに、迷わない方法を知っているので大丈夫です。ただ魔物のほうは相性が悪い奴がいるので、・・・・ついてきてもらえたらそれはそれで助かりますけど」
メリッサは最後のほうは、仕方なしにといった感じで言った。
自信がありげな態度の理由はいたってシンプルだった。方法を知っているというのだ。
これは、この魔女の秘密の一つを知ることのように思えた。
セスランとアレイは顔を見合わせた。おそらく同じことを考えている。
魔女の秘密を暴きたい。
「わかった。魔女殿を信じよう」
「魔物は俺たちに任せておけ」
メリッサはほんの少し顔をしかめた。それからすぐに目を逸らしてうつむき、小声でささやいた。
「あの、手を放してください」
セスランが握った手を緩めた瞬間、メリッサは素早く手を振りほどいた。
◇◇◇
「これから出会うものに対しては失礼がないように」
メリッサは、それだけ言うと、森の入口のおそらく境界線で一礼し手を合わせて祈る姿勢をつくり何かをつぶやきはじめた。
そして、草むらの上にハンカチを敷き、りんごを三つのせる。
「もうこっちに来てもいいですよ」
草むらをかきわけて森に入った。
セスランとアレイも彼女の通った道を続いて進む。
それからは、メリッサの奇妙な行動の度に歩みを止めては森を進という、謎の行進が続いた。
森に入ってから三十分ほど経っただろうか。大きな大樹につくとメリッサは買い物を詰め込んだカバンをおろして、一人分座れるほどの敷布を広げた。
そして、カバンの中から、紅茶の茶葉やスパイス、ミルクを取り出した。さらに、ガチャガチャと音を立てて、小さい金属のポットと携帯用の火炎台を並べる。
手際よく、ポットに茶葉とスパイス、ミルクが注がれる。カバンから素焼きの小さいカップを取り出して置いてから、なにやらごそごそとカバンの中を探しはじめた。
「あの、マッチを忘れたので、火をつけてもらえませんか?」
目の合ったセスランに火炎台を指さして言った。
「魔法術師のくせにと思うかもしれませんが、わたし火炎系の魔法は苦手なんです」
「苦手か。わかった」
セスランは人差し指を火炎台に向けるそぶりだけで、いとも簡単に火をつけた。
「すごい、詠唱も集中も短縮するなんて」
無駄がなく、精緻な魔法だ。火をつけるだけの簡単そうな魔法なほど、実力がよく見える。
それを理解しているのだろう、メリッサはセスランの魔法に目を輝かせている。
「ありがとう」
メリッサは礼を言うと、ポットを火にかける。
茶が沸くと、家から持ってきた砂糖をとりだして、たっぷり三杯もいれる。
素焼きのカップに注ぎマサラ茶が完成した。
それを、大樹に捧げるように恭しく根本に置いた。またメリッサはそこでも祈りの姿勢をとる。
セスランとアレイはただ後ろに立ち静かに待った。
森に入ってから、彼女は何度も草木や岩に祈りを捧げここまで来た。
セスランは、メリッサの祈りの姿が厳かで尊いものに感じた。
「終わりました、残ったお茶を一緒に飲みましょう」
そう言ってまたカバンをごそごそ探ると、野営用の紙製のコップを取り出した。
「予備があってよかったです、ちょうど3つありました。」
ポットの茶を三当分する。
香辛料が効いていて、砂糖の甘たっぷりで、ミルクの味わいがちょうどいい。
1時間以上歩きとおしだったので、甘さが疲労を回復してくれる。
「うまいな」
セスランは甘党なのでとても気に入る味だった。
「良かったです。師匠直伝のお茶ですからね」
「そうか、どおりでなつかしい味がしたんだな。あんたの師匠に昔死ぬほどしごかれたときに、訓練終終わりにこのお茶入れてくれたんだよな。まさに飴と鞭を使い分ける教官だったな」
アレイが芙蓉の魔女との思い出を語るのが面白かったのか、メリッサは小さく笑った。
メリッサは手際よく敷物の上を片づける、水魔法でささっとポットやミルク瓶を洗い、風魔法で乾かして布にくるんでカバンにしまい込んだ。紙製コップを火炎台の火で燃やして、灰を土に還す。
すべてカバンにしまい込むと、メリッサはふたたび進む方向に確信があるように見据えて歩き始めた。




