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あの日、体育館に響いた四重

ついに文化祭当日。

 初めて私たち『音葉~おとは~』の音を、人に聴いてもらう日がやってきた。


寄せ集めから始まった私たち。

ギターもベースもいない、少し変わったバンド。

歌うのも、ロックでもポップスでもない。


でも、ピアノ、ヴァイオリン、ドラム、そして私の声が重なり合って生まれる音楽。

それが──私たち『音葉~おとは~』の音だ。




 体育館の中では、私たちに興味のない人たちの会話があちこちで聞こえる。

前方には友人や家族など関係者が集まり、

後方には、次のバンドを待っている生徒たちの姿が見えた。


私は集中するために、そっと目を閉じて深呼吸をする。

その耳に、きよちゃんのリズムを刻む小さな声が届いた。


──1曲目、『響鳴散花きょうめいさんか』。


きよちゃんのピアノが前奏を奏でる。

力強く、リズミカルな音色。

そこにひろりんのドラムが重なり、利美ちゃんのヴァイオリンが、あの印象的な旋律を描く。


そして、私の番。

始まりの“た”の音に全神経を集中して、

針に糸を通すように、第一声を放つ。


──「歌は、第一声で全て決まる」

それは、何度も歌の先生に言われ続けた言葉だった。


無我夢中だった。


誰かひとりでもいい。

この演奏が、この歌が、心に届いてほしい──そう願いながら歌った。




ラストの『燈火ともしび』を歌う頃、家族連れで来ていた子どもがステージ前に駆け寄り、一緒に歌い始めた。


それがきっかけだった。

体育館にいた人たちが次々と、同じ旋律を口ずさみ出したのだ。


バラバラだったお客さんと、私たち“音葉~おとは~”が、ひとつになった瞬間だった。


歌いながら、私はこの光景を胸に焼き付けた。




歌い終えたあと、体育館はしんと静まり返っていた。

あの盛り上がりが嘘のように、空気が静まる。

私は足先が冷たくなるのを感じた。


(え? 失敗した?)


もしかして、さっき一緒に歌ってくれたのは、

“楽しかった”んじゃなくて、“笑われてた”から?


そんな不安がよぎる中、私は最後の挨拶をした。


「以上、音葉~おとは~でした! 

ありがとうございました!」


頭を下げた、その瞬間──

体育館中に、拍手が一斉に鳴り響いた。


驚いて顔を上げると、「アンコール!」の声が飛んだ。

いや、文化祭にアンコールなんてないはずなのに。


次の瞬間、子どもの声が響いた。


「響鳴散花、歌って!」


進行役の先生を見ると、

『さっさと1曲やって下がれ!』という顔をしている。


私たちは顔を見合わせ、頷いた。


きよちゃんの小さなカウントが聞こえる。

 ──「タッタタ、タッタタ……」


再び、あの前奏が鳴り響く。

きよちゃんのピアノ、ひろりんのドラム、

利美ちゃんのヴァイオリン。


そして、観客が一斉にコーラスを歌い出した。


体育館の天井まで届くような大合唱。

笑顔と涙が入り混じる中、

私たち“音葉~おとは~”の文化祭ステージは──

大成功で幕を閉じた。


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