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事件その2 ゲリラ放送(11) 第2回定例会

 特命班として生徒会から指名を受けてから、2回目の木曜日。

 そして、2回目の定例会の日でもある。


 昨日はゲリラ放送がなかったため、通常通り調査を粛々と進めていくことになる。

 土本は、いつものように放課後も教室に残って時間を潰し、午後4時10分前に生徒会室に向かった。

 生徒会室は既にカギが開いていて、中では北條が「定例会」の準備をしていた。


「あっ、今日は早いですね」

「ああ、まあ大事な仕事だしな」

 黒板に向かっていた北條が振り返り、教卓に近い席を指し示すと、土本はその席に素直に着席した。

「では、今日は話すことも多いですし、早めにやってしまいましょう」


 黒板には、既に「木曜探偵班 第2回定例会」と書かれ、その下には今日話すべきことも書かれている。


「1 放送部からの調査結果

2 放送後の調査について

3 備品事件に関する資料の確認結果

4 発見された備品の取扱い、その他」


 改めて書き出すと、やる事が大分多くなった。

 そして、「放送後の調査について」と書かれているということは、おそらくある程度は今後の流れが想定できていて、それの確認を迫ろうとしているのだろう。

 話しにくいことではあるが、前もって北條に知らせておくべきことには違いない。

 

「では、最初に、放送部からの調査結果、聞き取り結果について、私からお話ししますね」

 いつも以上にやる気のありげな表情で、北條は話を続けた。

「ではお話しします。放送部には、OBに関して卒業生名簿とは別に独自に名簿を作ったりはしていないそうです。なので、タテカワさんが放送部に在籍していたという確実な証拠はありません」


 いきなり出鼻を挫かれた。では、DJピンキーの正体については、はっきりしたことは言えないのではないか。

「ですが、放送部の方で過去の資料を隅々まで調べて頂きました。その中で、放送室に掲示する放送予定表、その写しが見つかりました。そして、複数ある写しの中から、手書きで担当者の氏名が書かれているもの、さらにその氏名の中に『堅川』の字を発見したとのことです」

「えっ、そうなのか」

 土本の驚いたような声に、北條は笑顔で答えた。

「はい、卒業生名簿を見た限り、『タテカワ』という名字の方は他にはいないので、この方がそのタテカワさんでまちがいないかと。念の為、コピーも戴いてきました」


 北條は自慢げな顔で土本にコピーを手渡した。

 北條が土本に手渡した紙には、木曜朝の放送担当者として、「堅川」と書かれている。

「残念ながら、堅川さんの在校中の放送部員は全員卒業してしまっていますし、月山先生も昨年赴任してきた先生なので、その人となりは不明です」

「それにしても、これで堅川さんが放送部にいたことは確かだ。いい収穫だったな」

「はい、そして……」

 北條はそこで一呼吸置いた。

 

「その放送関係の録音は、放送部に大量に保管されていることが分かりました」

「えっ、じゃあ」

「あの放送に限らず、過去の番組のテープが保管されているそうです。そして、ケースにはしっかりレーベルが貼られていて、タイトルが記載されているので、『DJピンキーのトキメキ⭐︎オンエア』のテープが保管されているのも確認できました」

「おお、それは……」


 つまり、これで例の放送については、過去の放送部が作成し、放送されないまま「お蔵入り」した、という土本の仮説がほぼ真実と確定したということ。

「これで、声の主と、録音したのがこの校内であることは間違いありませんね」

「そうだな。でも、テープで保管なのか」

「はい、あっ、えっと、その件なんですが……」

 北條は急に口籠った。


「ん? なんだ?」

「テープは確かに保管されていて、それでも音源を持ち出した、その辺りが謎で……」

「ちょっと拝借して、ダビングして、それから返せば何も不思議じゃないだろ?」

「それが……保管庫は常に施錠されているそうです」

「ええ……またカギかよ……」

 カギが掛かっているということは、外部から侵入してテープを持ち出し、ダビング後にまた返すという、一連の面倒で困難な作業が一層困難になるということ。


「そして、持ち出しできる可能性を考えると……部員が自らカギを借りて持ち出したテープを、何処かでダビングして返した、としか考えられない、と」

「それは、タテカワ本人じゃないのか?」

「そうですよね、そう思うんですけど……友人が言うには、『自分の声が放送の音に乗るのって相当に恥ずかしい、自分でダビングして持っている程度ならまだしも、肉親にその存在を知られる、ましてや聞かせるなど有り得ない』とのことです」


 確かに、自分の声を吹き込んだテープを誰かに聞かれるのは恥ずかしい、それは分かる。

「そうか、うーん、そうなると、犯人はどうやってそのテープを入手して、わざわざCD-Rにしてゲリラ放送をやったのか、謎が解決されないな」

「はい、あっ、ちなみに校内には音声データをCD-Rに記録する機材は無いそうです」

「そうか、じゃあやっぱり、テープを持ち出して、ダビング後に返し、さらに学校外でその音源からCD-Rを作成する、という一手間をかけた、ということだな」

「はい、そうなります。何故だかは分かりませんが」


 そこで土本は一旦腕を組んで、空を睨んで黙った。

「うん……これは犯人に聞かないと本当のところはわからないけど、一手間の理由について、想像できるところはある」

「お聞きしても、よろしいですか?」

 北條は待ってましたとばかりに、教卓に手をついて前のめりになった。


「テープとCD-Rの違いは、テープが何度も再生するとテープ自体が劣化するのに対して、CD-Rは少なくとも再生するだけなら劣化はしない、ということ。とはいえ、記録面は20年くらいで経年劣化して寿命が来るらしいけどな。それでも短期間に繰り返し何度も聞くなら、テープよりも適した媒体と言える」

「はあ……なるほど」

「繰り返し聞くことを想定したら、CD-Rに記録して、CDプレーヤーで再生した方が都合がいい。ただし、CD-Rに記録するための機材を用意しなきゃならないけどな」

 しかし、これはあくまで技術的な話。そうして作ったCD-Rを何故放送で使用したか、それは今のところ不明なままである。


「そうして作ったCD-Rを、今回ゲリラ放送に使用した、ということですね」

「そうだな。そして、わざわざCD-Rに『DJピンキー』と記載したのは、おそらくそれを見た者に何か伝えたいことがあったんじゃないか、と思うわけだが」

「えっ……なんでしょう?」

「ここからは憶測でしかないけど……」


 そこで土本は、「憶測」であると前置きした上で、「DJピンキーの身に起きたと思われること」について伝えた。


「そんな……」

 それは北條にとっては衝撃的な話、できればそうであってほしくはない話だった。

「この憶測が外れるなら、その方がいいと思う。でも、正直そのくらいの大ごとでもないと、こんなこと、リスク承知の上でわざわざやったりしないと思うんだよな」

「……それを、犯人に直接聞いてみる、ということですね」

「うん、そういうことになる」

 そこで、土本は大きなため息を一つ吐いた。

「その上で、だ」


 土本は、犯人に、動機や犯行の詳細について、それに「DJピンキー」の現在及び犯人との関係性などを「直接聞く役目」を、北條に任せようとしている、と告げた。


「……それは、理由をお聞きしても?」

「俺が直接当たると、どうしても強い口調になりそうだから。この件、正直言って真相について深い部分は、犯人に直接話してもらうしかない。俺は口下手なんで、確実性を求めるなら、大人との交渉ごとに慣れている委員長に任せるのが得策だと思う。当然プライバシーに関わることになるんで、慎重に、上手いこと聞き出してほしい」

 無茶を言っているのは土本も重々承知している。

 だが、犯人から話を聞くのは一発勝負、失敗してもやり直しが効かないから、少しでも調査が有利に進みそうな手を使う、たとえそれが北條にとって酷なことだとしても。そのくらいの覚悟を持っていた。


「……分かりました。やってみます」

 北條は、若干不安げな顔で、この無茶な話を了承した。

「頼む。その時には後ろに俺も控えてるし、辛そうなら交代する」

「はい、あ、いえ、大丈夫です。やれます」

 北條は背筋を伸ばした。


 気丈に振る舞ってはいても、その表情までは隠せない。明らかに今の北條は、その重責と経験のない仕事に動揺している。

 それでも、自分から引き下がったり、泣き出したりでもしない限りはやってもらう。

 土本はそう心に決めていた。


「まあ、話が前後したけど、これが俺の考える『放送後の調査』ってやつだ。放送前の夕方に犯人が放送室に入り、機器を操作した際の映像を撮る。放送があったら現場に行って、CD-Rを回収、同時に他に侵入経路がないことを確認しておく。次の日にある『定例会』で、一旦最終確認をして、そのまま犯人に話をしに行く、という流れで考えてる」

「……はい、それでいいと思います」


 割と重要な話であるはずだが、このままだと、土本1人の考えが、北條からの意見がないまま通ってしまう。

 このまますんなり通してしまうのは気が引けるので、土本は珍しく北條に意見を求めた。

「委員長の方で、これはこうした方がいい、とか、実はこういう方針を考えてた、とかそういうのがあったら、遠慮なく言ってもらっていいんだけど」

「いえ、私の方でも、今後の方向性については一応考えていましたが、ほぼ一致してます。犯人に話を聞きにいくことについては、どちらが前に立つか、それを決めていなかっただけですし、特に異論はありません」

「そうか……ならこの件はもう話すことはないな」

「はい、では次の件に……」


 北條はノートに何かを記載しながら、次の議題に移ろうとしている。

「では続いて、備品事件に関する資料の確認結果の件ですが。これについて、1つご報告がありまして」

 北條は改まって語り始めた。


「グラウンド東側の物置内から発見された備品について、私と梅里さんで、火曜日の放課後に再度箱を開いて中身を確認しました。その際に、内容物の品目、数量を調べておきました」

「えっ?」

 箱の中身について、調べることは今まで聞かされていなかった土本は流石に驚いた。

「品目、数量とも、ほぼ昨年10月に判明した不足分と一致します。これが備品紛失のうち10月以降のもの、ほぼ全てと言えます」


「そうなんだ……いや、だったらそれ、言ってくれたら俺もやったのに。あの箱重かったろ」

 ファイル類やペン等の入っていた箱はともかく、OA用紙の入った箱は重かったはず。それを女子2人で棚から下ろし、中身を確認してまた持ち上げたということになる。

「丁度梅里さんと話した後で、明るいうちに私も物置の中を見に行こうとしたら、梅里さんが付き合って下さって。そこで、ついでに中身を調べたという流れでした。ほんの段ボール二箱分なので、大したことはありません」


 つまり、火曜日のテスト終了後すぐ、北條は梅里と接触し、諸々の説明を受けて、その流れで2人で物置の確認に行った、ということだと推測される。

 その日、土本は放課後には屋上へ、その後校舎裏へと、ぶらぶら動き回って無駄な時間を過ごし、その後教室で1時間弱暇つぶしをしていたので、その間重要な話と物品確認で目一杯働いていた北條に対しては、正直、面目ないと感じていた。


「まあ、とにかく、少なくとも引き継ぎ以降の備品の所在は掴めた、ってことだ」

「そうですね、これで然るべき時まで備品はその場で保管、でいいですね。あとは倉庫から物置までの、備品の動きを知れればいいんですが」

「そうなんだけど、それについて打つ手がないんだよな、今のところ」

 梅里によって、役員のうち2人が関わってるのはわかった。しかし、まだ証拠はない。


「そうですね……でも、役員が関わってると分かっているなら、再度聞き取りしてみれば」

「いずれはしてみるけどな。だけど、今やるわけにはいかない。証拠もないのに再度聞き取りでは犯人も口を割らないだろう。梅里の『特技』だけじゃ、証拠にならないからな」

「そうですね、それを口外するわけにもいきませんし」

「他の証拠もないしな」

「あっ、その話ですが」


 北條は、先日土本から手渡された、教頭の保管していた資料のコピーを確認した件について思い出した。

「先週、教頭先生からお借りしてコピーした資料、ご覧になりました?」

「えっ、見たというか、ざっくり確認したけど、まあ以前貰ったのと一緒だったな……」


「本当に、一緒、でしたか?」

 北條は「一緒」であったか、追及する姿勢を見せた。

「うっ、それは、隅々まで確認したわけじゃないから、はっきりとは言えないが……」

「実は、先日、私の方で確認したところ、以前に戴いた資料との相違点を発見しました」

「えっ、そうなん?」

「はい、それも、極めて重要な部分でした」

 北條は誇らしげに微笑して、発見した相違点について語り始めた。


「頭から読み進めていくと、最後近くまで特に変更点はありません。なので、途中で『どこも変更されていない』と感じてしまうのも仕方がないと思います。ですが、変更点は最後にありました。生徒会員からの聞き取り結果、その中に書き換えられた箇所、というか改竄(かいざん)がありました」


「改竄? 修正とかではなく、か?」

 どこか悪いニュアンスを感じさせる「改竄」という言葉をあえて使うところに、何か含みがあると感じた土本は、その言葉選びの真意について訊いてみた。

「はい、何故なら、教頭先生側の資料には、2年生の『Tさん』が、備品の持ち出し状況を目撃した、と書かれているのに、生徒会側からの資料ではその部分が削除されているのです。しかも、わざわざ字数を合わせて、別の文に書き換えて」

「えっそうなのか、気付かなかった」

「しかも、教頭先生の持っていた資料は、一度は提出して、その時点で問題ないと職員の間で判断されたはずの内容です。にも関わらず、今回私たちに改竄した資料を出したということは、ここが重要な部分、『知られては都合の悪い部分』ということになります」

「そうだよな、うん」


「さらに、私はあの日、土本君を生徒会に招き入れる件を、常会の最初に久保先輩に伝えるまで、誰にも話していません。つまり、あの常会の最中に、資料の最後の部分を改竄して、常会後の説明会の開始前にその資料を用意したことになります」

「えっ、それじゃ」

「はい、そこで改竄を思いつき、即実行できる人物は限られてきます。梅里さんは、報告会の出席者の中で『特技』を使用した結果、犯人について『会長と私以外の誰か2人』と言っていましたが、それと改竄を実行可能な人、両方に該当する人となると、あの日、説明会に出ていた役員の中で会長以外、ということになります」


「あれ、そうなると、会計の小瀬先輩は?」

「そう考えると、小瀬先輩は容疑者から外れることになりますね」

「そうか……あと、庶務の菅野先輩もか」

「そうですね、これで役員のうちその2名は候補から外れることになりますね」

 容疑者のうち有力と思われていた会計が、ここで候補から外れることになる。残るは、副会長の久保と海野、そして書記の松田の計3人。


「すごいな、大分容疑者が絞れた」

「どうでしょう……これって、いい情報でしたか?」

 土本の反応を窺うように、北條は尋ねてきた。

「うん、いい情報、それどころか、めっちゃ重要だよ。あとは残りの3人、いや2人のどちらかだな、これを特定できればいい。これで大分前進したな」

「よかった、またお役に立てましたね」

「ああ、本当に」

「あっ……そういえば、すみません、その節には見当外れなことを言ってしまって」


 土本には、一瞬、話の筋が見えなくなった。

「ん? 何の話だ?」

「教頭先生の資料のコピーについて、意味のないこと、と言ってしまった件について、です。意味は大いにありましたね。すみませんでした」


 そう言えば、そんなことがあった。教頭から資料を借りる際、北條からそう言われていたのであった。

「その、一見意味のなさげなところから、重要なことを見つけてくれたんだ。プラマイゼロどころか、プラスが大分上回ってるさ」

「よかった、これで名誉挽回できました」

 北條は実に誇らしげにガッツポーズをしてみせた。珍しくこんなリアクションをする彼女を見て、土本は思わず笑みをこぼした。


「えっ、なんだ、そんなに気にしてたのか」

「そうですよ。資料を読んでこれを見つけたときには、もう夜も眠れないくらい恥ずかしくて、情けなくて、悔しくて。だから、せめて次の定例会までには、調査を自分の力でできる限り前に進めようと、一生懸命考えました」

 やはり北條は負けん気が強く、そして立ち直りが早い。責任感もある。

「そうか、うん、なんと言うか……恐れ入ったよ」

 泥臭い仕事も進んでやるし、何より結果を出す。出すまで諦めない。

 一緒に仕事をしていて、これほど心強いことはない。土本は改めてそう感じていた。


「なんだか、この『探偵班』での仕事が、楽しくなってきちゃいました。なんと言うか、難問を解決している、という実感が、とっても気持ちいいです」

「そうか、そりゃよかった。それなら、俺も『趣味』を披露した甲斐があったな」

「はい、本当に。土本君には本当に感謝してます」

 北條は、今の成功体験だけを純粋に味わって、無邪気にはしゃいでいる。

 だが、この後には、おそらく北條にとっては非常に辛い「解決に至る過程」が控えている。

 その時、同じように「楽しい」とは思ってはいられまい。もう二度と体験したくないような、そんな思いをするかもしれない。

 それを今告げずに黙っていることくらいしか、今の土本には思いつかなかった。


 北條が最初に黒板に書いていた項目については、全て話した。

 ただ、一つ問題なのは、明日の報告についてである。


「ところでさ」

「はい?」

「これ、明日また報告するわけだよな?」

「はい、そうですが」

「全部そのまま報告するのか?」

「いえ、まさか。備品事件の犯人は役員のうち2人、なんて言ったりしませんよ」

「まあ、そうだよな。じゃあ、資料の改竄の件も」

「はい、というか備品事件については、先週同様、重要な報告は特にありません。報告内容はほぼゲリラ放送のものになりますね」

「そうか……ここまでわかっているものを伏せておくのも、なんだかもどかしいな」

「そうですね、仕方ないとは分かっているんですが」


 備品事件について、報告会で2週続けて進展がないと、役員から何か小言を言われるのではないか、と土本は考えた。

「でも、役員は『仕方ない』とは思ってはくれないんじゃないかな」

「それは考え過ぎですよ。放送の方は着実に進展してますし、備品の件は、難しいのを承知で1年生に任せる、という話でしたし」

「そうかな。だったらいいんだけど……そうだ、そう言えば」

「はい?」

 役員達は、あえて1年生の2人に、この件を全て任せた。役員の同級生、つまり2年生にすら一切任せずに。目立たないように、とは言っていたが、それは方便で、そこにはやはり何か「意図」があったのではないか。


「その、なんて言うかさ……役員は、身内に犯人がいる可能性を、薄々は感じているんだよな? それで、その身内にいると思われる犯人のことを、どう考えてるのかなって。皆互いを疑いあってるのか、それとも庇いあってる、とか。そこのところ、どう考えてるんだろ?」

 役員は、とは言っているが、土本から見れば、北條は役員に非常に近い立場の人物。

 その北條が、これを正直に回答するだろうか。また、この質問で気を悪くしないだろうか。

 そんな懸念はあったが、今これを聞いておきたい、という衝動に駆られて、思わず聞いてしまった。


「なんとも言えませんが、庇っている人がいる、庇おうとする動きがある可能性は否定できません。以前にもお話ししましたが、会計の小瀬先輩に疑いが向くのはある意味当然ですし、それを役員の皆さんが表に出さないのは、ある意味庇っていると言えなくもないかと」

「そうか。庇っている可能性はある、と。逆に誰かを疑ってる可能性、そういう可能性を感じるような状況はないのか?」

「それについては何とも。そうですね、強いて言うなら、菅野先輩は、逆に小瀬先輩を疑うような向きを嫌っている風ではありました」


 ここで新たな話が出てきたので、土本は興味を惹かれた。

「あっ、そうなんだ。それは何か理由があるのか?」

「すみません、詳しいところは分かりません。菅野先輩は、根拠のない憶測で人を貶したり、容姿や肩書き、経歴で人を評価するのを大変嫌う人なので、それが理由かもしれません」

「えっ、ちょっと待て。じゃあ小瀬先輩が疑われてるってのは……」

「私はよくないこととは思いますが。正にその、容姿や経歴に起因するところがあると思われます」


 会計担当の小瀬先輩こと小瀬渉は、見た目は身長の低い小太り、顔はニキビだらけ、髪は長く伸ばして後ろで一つ縛りにして、細い目で常に睨みつけるように顔を顰めているという、どう贔屓目に見ても良い人相とは言えない人物である。

 また、意外にも内部生であり、そうでありながら、早い段階で進学は希望せず就職する旨を公言していて、周りから奇異の目で見られているとのことだった。

 つまり、会計という立場から疑われているということではなく、いや、それも理由としてはあるのだろうが、主な理由は「醜い見た目と、内部生でありながら進学を捨てた変人という要素」という、土本からすれば、何とも程度の低い、くだらないものであった。

 北條によると、以前に生徒会の概要を説明した際には、小瀬が疑われている理由については全く根拠のない言い掛かりであったことから、説明から省いたとのことだった。


「うわっ、ひでえなそれは」

 土本は思わず嫌悪感を露わにした。

「そうですよね、それはあんまりなので、さすがに役員の皆さんは、その中傷とも言える疑いの目から庇おうとしている向きは、確かにあると思います」

「そりゃそうだ。庇って当然だ。こちらではもう容疑者から外れているのは分かっているんだから、小瀬先輩のためにも、早めに何とかしてやりたいな」

「そうですね、でも今は我慢しましょう。まずはできるところから着実に」

 あまりの理不尽な状況に、一瞬暴走しかけた土本だったが、北條から宥められて落ち着きを取り戻した。


「……うん、そうだな。とにかく、今は目の前の事件1つ、放送の方を片付けないと」

「はい、そちらを優先して、解決できたら備品の件に集中できますんで、頑張りましょう」


 そうして、その日の定例会が終わり、また2人で駅までの帰り道を並んで歩き、互いの電車に乗って別れた。


 その日は珍しく、土本はだらしない顔はしていなかった。

 普段土本が言っている、探偵もどきについて、今回に限っては「趣味」の範囲に収まらない、この探偵班での調査に「大義」を見出したため、気持ちが昂っていた。

 その時土本は、探偵もどきを始めたきっかけ、中学時代、自分達不良仲間が見に覚えのない泥棒の誹りを受けて憤怒に駆られ、真犯人を探し出した時のことを思い出していた。

 

 理不尽は許せない。

 無辜の者が罪を着せられるなど、あってはならない。

 逃げ隠れている真犯人を、必ず暴いて白日の下に晒してやる。

 その思いこそが、土本を「犯人探し」に駆り立てた原動力の正体だった。


 その時は結局自分達の突き止めた真相に大人は耳を貸さず、結末は曖昧になって終わったが、今回はそうはさせない。

 土本は決意を新たにし、備品事件解決のために今できること、それを考え続けていた。

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