事件その2 ゲリラ放送(5) 第1回定例会【前編】
祝日の次の日は、見るからに学校に行くのが億劫そうな高校生の集団が駅から学校に向かって歩いていく。
その日、珍しく電車を一本遅らせた土本は、その集団に混じってだらだらと登校していた。
彼にとって、多人数で同じ方向に歩く、というのは、どうも気に入らない。
そうやって集団に飲まれて動いていると、そのうち登校するだけでなく、日常の一挙一動に至るまで、集団で同一の行動を強いられているような気になってくるため、それを避けるために、普段はわざわざ早起きして、大部分の生徒が乗る電車よりも一本早い電車で登校していた。
しかし、今日は自宅から出発するのが遅くなったために、この不快な集団行動を強いられることになった。
出発が遅れたのは、要は寝坊なのだが、昨夜、兄が同窓会の場で調子に乗って、慣れない酒をしこたま飲んで酔い潰れ、母からその介抱を手伝わされた結果、寝るのが遅くなったからである。
父も酒飲みで、酔って周囲に迷惑をかけることが多いが、兄もこの有様である。酒というのはそこまで良いものか、そこまで人を惹きつけるものなのか、土本は興味を持つと同時に嫌悪感も抱いた。
酒のせいとはいえ、部屋に運び入れる際に蹴りを入れられた脇腹がまだ痛む。この借りをどうやって返そうか、それをあれこれと考えることで、同じ制服を着た集団に飲み込まれた不快さを紛らわせることにした。
そして、その日の放課後。
土本は、既に夕焼け色に染まった空をガラス越しに眺めていた。
日課時限終了から生徒会室の集合時間まで約30分の空き時間がある。この30分を無駄にする手はない。
そういうわけで、さっきまで彼は珍しく机に向かい、宿題となっていた数学の問題集を解いていたのだった。しかしそれも早々に片付けてしまい、約束の時間まで残り10分足らずではあるが、その空き時間を贅沢にも「何もしない時間」として消費していた。
校舎外は、部活をやっている連中の出す騒音が周囲に響き渡っている。しかし、教室内にはそれも控え目にしか届かない。
むしろ、外の騒がしさを多少感じられるくらいの方が、教室の静かさ、居心地の良さを認識しやすい。
騒音の発信源である体育館から近いことが悩ましいが、それでも窓を閉めておけば、ガラス窓が振動でビリビリ鳴ることを除き、音がそれほど気になることもなく教室に居ることができる。
そして今は4時少し前。ちょうどよい時間になったので、生徒会室に向かった。
生徒会室では、北條が既にカギを開けて待っていた。
「お待ちしてました。ちょうど時間通りですね」
教卓の側に立っていた北條が、そこから近い席を指し、土本はその指された席に座った。
「まあ、そりゃちゃんと時計を見て来たからな」
時計を見ずとも時間の分かる彼女に対して、少々嫌味っぽくそう言った。
「早速ですが、開始時間はこの時間でよろしかったでしょうか? 何か不都合があれば、変更も可能ですが」
「いや、特に問題ないよ」
「そうですか。それでは、来週からもこの時間、ということで」
そう言うと、彼女は黒板に何か字を書き始めた。
『木曜探偵班 第1回定例会』
その文字列の意味するところを、土本は数秒間考え込んでしまった。
「えっ? なんだ、それ」
「この調査チームと、今日のこの場の呼称です。とりあえず、仮に、という感じですが。いかがでしょう?」
正直なところ、調査チームの名称も、集まりの呼称も、割とどうでもいいと思ったが、何故か先ほどから随分と機嫌の良さげな北條に対して要らぬ茶々を入れて、わざわざ機嫌を損ねる必要もなかろうと思い、当たり障りのない返事をすることにした。
「うん、いいんじゃないか」
「そうですか? よかったぁ、では今後もこの名称でやっていきますね」
北條は妙に楽しげに板書を再開した。
『1 生徒会備品倉庫の現場確認
2 放送事件の証拠精査
3 今後の調査方針』
「今日やるべきことは、とりあえずこんなところですかね?」
「うん、そうだな」
なんだか授業をやっているようだと思い、土本は苦笑した。
「では、早速備品倉庫から見ていきましょう」
北條は早足で教室を出て行こうとする。
「えっ? ああ」
土本は若干慌てて北條の後を追った。
先日の話の通り、備品倉庫は生徒会室の廊下を挟んで向かい側、つまり生徒会室を出てすぐそこにある。
出入口の扉は廊下の壁と同じクリーム色で、おそらく木製であろう。北條が扉のドアノブを捻ると、扉は簡単に開いた。
「ここが備品倉庫です。普段からカギは掛かっていません」
室内は6畳くらいの広さで、壁際全面にスチール棚が設置してあり、出入口と反対側に小さな窓が1つだけ付いている。
棚には過去の書類綴りやドッチファイルが大量に保存されている。出入口から見て右側だけは、OA用紙やその他消耗品が置かれている。
「この辺に置かれた備品がなくなった、というわけか」
土本は、OA用紙の載った棚に手を置きながら北條に確認した。
「そうです。盗難を防ぐことを考えると、施錠しておくべきなのでしょうけど、そもそもここは生徒会の人が何人も、それこそ頻繁に出入りする場所ですし、施錠すればおそらく会員からの苦情は出るでしょう。ですから、施錠するなら役員会ではなく、総会を通すことになるでしょうね」
「ところで、11月以降は備品の減り具合はどうなんだ?」
「それが、その後は明らかに減っているという状況はありません。今の時点では、11月以降は起こっていないけれども、今後起こらないとは言えない、という感じでしょうか」
「なるほどな。いずれにしても、こちらの『犯人探し』は、今の時点で手の打ちようがないな」
「そうですか……」
土本からの一手を期待していたのか、北條は少々残念そうな反応を見せた。
「とりあえず、発生を防ぐことについて、手段が打てなくもないけど、あまり現実的じゃないな」
「一応お聞きしても?」
現実的ではないとは言え、「再発防止策」について興味がある北條は、土本に尋ねてみた。
「力技ではあるけど、施錠設備を新しいものに付け替え、ごく限られた人にしか鍵を渡さない、ということにすれば今後の発生は防げる。でも、それだと活動に支障が出るし、犯人は分からない」
「そうですね。『犯人探し』を目的に調査しているわけなので、それを進めなければ」
「そんなわけで、今更だが、犯人に関する情報を、それこそ断片的でも集めなきゃいけないってことになるわけだ」
「情報とは?」
「そうだな、調べるのは、当然犯人と、実行した日時、備品の行き先、できれば運び出した手段も、ってところかな」
「でも、今の時点で、その『運び出した』という情報がないと、少なくとも日時を明らかにするのは難しいですよね?」
「そうだな……、それを見ていた人が、こっそり教えてくれればありがたいんだけどな」
「それは難しいですね。その情報を広く求めるとなると、備品がなくなっていることを説明しないといけなくなりますし」
「そうなんだよなぁ……、流石にこれを大っぴらにするのはまずいだろうし」
「そうですね」
大ごとにしないことを目的として、生徒会全体ではなく、この特命班のみで調査をしているわけで、ここで大勢に実態を知らせてしまっては本末転倒である。
「ここに普段近づく人なら一般の生徒より現場を見ている可能性が高いんだが、そうなると該当者は生徒会員で、しかもおそらくは大体の人は聞き取りされているだろうし」
「大体、というか、ほぼ全員ですね。私も聞き取りされました」
「そうか……そうなると、今俺たちが改めて聞き取りをやったところで、新たな情報が出てくるのは望み薄だな」
「はい、そうだと思います」
「仮にだけど、ここに生徒会以外の人間が来る可能性があるとすると、それは誰だ?」
「来る、というだけなら、廊下清掃の際に来る人くらいですね。それ以外には特に来る理由はないかと」
「清掃って……」
「私たち、普通科進学クラスの1年3組ですね」
生徒会室は、新校舎の2階の西端にある。それは、普通科進学クラスの1年3組の教室と同じ階であり、同教室は東端に位置する。
「そうか……でも清掃時に荷物を運搬すれば、流石に目立つだろうしな」
「はい、それに清掃を実施するのはたった5人ですから、そこから1人2人抜けて運び出すのは現実的とは言えません」
「うーん、やっぱりその線はないか。やっぱり生徒会内部の犯行だよなぁ」
「そうなると、誰かは兎も角、いつどうやって運び出し、その備品を何処に持って行ったか、を調べることになりますね」
「だが、どうやってと言っても、ここから手作業で運び出して、廊下を通って何処かへ持ち出す……しかないよな」
倉庫の小窓は小さく、全開にしても段ボール箱は通らない。台車もないので、手持ちで廊下を進むしかない。
「そうですね。その目撃情報があればよし、無ければ断片的でも証拠をどうにか見つけ出す……ということですね」
「うん、そうだな」
「分かりました。では、ここですることは他にはないですね」
「ん? ああ、そうだな」
北條は早々に話を打ち切り、土本の返事を受け取るやいなや、足早に倉庫を出て廊下を横切った。
今日の北條は随分と動きが早い。それはおそらく、やることが多く、時間が限られているから。そして、今の時間を考えつつ事を進めているのだろう。
土本はその北條に頼もしさを感じつつ、生徒会室へと戻った。
生徒会室に戻った2人は、続けて証拠の精査、つまりは例のCD-Rから犯人に関するヒントを抽出する件に取り掛かった。
「さて、それでは例の証拠品から犯人に繋がる情報を……ということですが、あのCD-Rから何か分かりますか? 見た限りでは、普通のCD-Rで、ラベルには手書きでの記載がされてはいましたが、筆跡から何か判明するとも思えませんし」
「そうだな。あの円盤そのものから、犯人を特定する情報は特に出てこないだろう」
「では……」
「やはり、放送内容から、DJピンキーと、その関係者を特定していくしかないと思う」
「それは、できるんですか?」
「かもしれない」
「えっ?」
北條は、放送内容を完全に記憶している。その上で、内容からは関係者の特定に至る情報はなかったと判断していた。
しかし、土本は違っていた。
「この前ダビングして貰ったテープを書き起こして、手掛かりになりそうな部分にマークしておいた。ちょっと見てくれ」
土本は、そう言ってカバンからルーズリーフ数枚を取り出し、北條に見せた。
「えっ……こんなに」
ルーズリーフには、1行おきに黒色ボールペンでテープの書き起こし内容が書き込まれ、さらにいくつかの部分にはオレンジ色の蛍光ペンでアンダーラインが引かれ、そのラインの下には、青色ボールペンで何らかの書き込みがされていた。
土本は、直接特定には至らないまでも、関係者に繋がる可能性のある断片的な情報を、テープにダビングして持ち帰ったその日の時点でピックアップしていた。
「確かに、内容はこの通りですけど、チェックの数が……」
例えトークの内容を全て暗記できていたとしても、音声を聞きながら、それが「放送関係者の特定に繋がる情報」か否かを判断するのは流石に困難である。ここは北條に落ち度はない。
むしろ丁寧に全て書き起こした上で何度も読み込み、数十か所にチェックを入れてきた土本を評価すべきだろう。
「これは、気になるところに全てチェックを入れただけなんで、チェックの数はあまり気にしないでくれ。ここで注目すべき点はおそらく4点。まず、そのルーズリーフの最後にまとめて書いてあるけど、日付けを明言してない、というところだ」
ルーズリーフの束の1番後ろ、そこには、赤色のボールペンで☆印と、それに続けて「重要ポイント」と書かれている。
さらにその下に、「①日付けに関する発言なし。放送の同録ではない可能性が高く、録音、しかも放送日が決まってない、『雨傘』では?」と書かれている。
「確かに、日付けは言ってませんでしたが……すみません、『同録』とは?」
「ラジオ放送で、生放送の場合、放送と同時に録音している場合が多い。それを『同録』と言うんだが、それではないということだ。日付けだけでなく、放送その日に関する情報も一切ないからな」
「それは、声の主がたまたま言わなかった、という可能性は……?」
「ゼロじゃないが、まずそれはない。何故なら、このDJピンキーという人物、本物のラジオのDJを意識したトークをしているからだ」
「はあ……」
ラジオに馴染みのない北條は、あまりピンとこないといった顔で土本の話を聞いている。
「本物は、生放送なら、その日のニュースや情報、現在のスタジオの外の様子なりを大抵冒頭にちょっとは話す。ならば、そこに触れないのは、生放送じゃない、ということだ。そして、クリスマスや正月などの行事に『あえて』触れているのは、その生放送で言う『その日の情報』の代わりだと言えるだろう。実際そうしているDJはいるしな」
「そう……なんですね、ならばこれは、放送のための、収録の音声であると」
「そうだな。そして、これを聞いた人がいない、そういう情報が上がってきていないとなると、この2回の放送は、いずれも『お蔵入り』になったもの、ということ」
「収録はしたものの、実際には放送されなかった、ということですか?」
「そう。そして、収録は比較的近い過去のものだ。何故かというと、内容に『センター試験』という単語があったからだ。あ、これはチェックの3つ目で指摘した内容だけど、共通一次試験からセンター試験に変わったのは割と近年だから、それより昔の録音じゃないってことがそこから分かる。ならば、実際に放送していれば、長く勤務してる先生なら聞いてるし、覚えているはず」
「あっ、そうなんですね」
センター試験の開始は1990年。つまり、DJピンキーの録音はそれ以降のもの、ということになる。
「私立の高校だから、10年以上この高校に勤務してる先生もいるし、それでもこれを聞いた記憶のある先生がいない、ってことは、おそらく実際には放送されなかったんだろう」
「でも、それっておかしくないですか? せっかく2回も収録しておいて、それを放送しないなんて」
「実際の放送では、そういうこともあるんだよ。いわゆる『Bプロ』、もしくは『雨傘』ってやつだ。本来の番組が何かの都合で放送できなくなった場合の、代替番組だな」
「代替……」
「生放送の番組を予定していたが、しゃべりの担当が休むとか、機材の故障とか、そういうトラブルがあった時に流すための、代替番組だったんだろう。で、結局出番のないまま、この番組はお蔵入りになった、と考えると、割と自然かな」
代替番組まで作るということは、それほど当時の放送部は活発に活動し、番組作りも熱心にやっていたのだろう。
「今の放送部は、番組みたいな校内放送はやってないけど、過去にはやっていたんだろうな。実際、放送室には茶色く変色した貼り紙に、番組に関する貼り紙もあった」
「えっ、そうなんですか」
「1枚だけな。昼の校内放送の予定表があった。それは3年前で、それ以降更新されてない。ってことは、それが最後の番組仕立ての校内放送だったんだろう」
つくづく土本は抜け目がない。放送室にあったものを、全て目を通し、それらを全て把握している。
「初耳です。それは友人に後で確認してみます」
「そうだな。それで、その友人に確認してほしいことを、後でまとめるから、それも併せて聞いておいてもらえるか?」
「はい、わかりました」
北條は話しながら、手元のノートに今話している内容をメモしている。それでも会話が途切れないのは流石としか言いようがない。
「2つ目だが、新年の挨拶のところで、『タテカワ始めスタッフ一同』と言ってた。この『タテカワ』って、DJピンキーの本名なんじゃないか?」
実は、土本はこの情報に一番注目していた。卒業生名簿に「タテカワ」が1人だけで、それが放送部員だった場合、それでDJピンキーの正体はほぼ確定する。
北條の手元にあるルーズリーフにも、「②『タテカワ』の正体とは? 声の主では?」と書かれている。
「あっ、その件なんですが……」
北條は申し訳なさそうに手を挙げた。
「ん? どうした?」
「実はその件、既に放送を聞いていた会長が気づいていまして、生徒会で『タテカワ』が声の主、という推測の元、過去の卒業生名簿を調べたのですが……」
「えっ、まさか」
嫌な予感がして、土本は思わず声を上げた。
「生徒会側で閲覧可能な約20年分の名簿を確認した結果、『館川』や『立川』の名字は確認できませんでした。『川』の字を『河』に変えたり、旧字体の可能性も考慮しましたが、やはり該当なし、でした」
卒業生の名簿は既に確認済み、そして、タテカワに該当する名前は無し。
「マジかよ……、いや、逆に該当者が1人も出てこないのもすごいな」
卒業生にタテカワはいない。そうなると、声の主は外部の者、または偽名、ということか。
いや、まだ別の可能性がある。
「その卒業生名簿、今日この後、借りることはできるか?」
「えっ、はい」
「なら、もう一度、俺の方で確認してみる。見落としがあるのかもしれない」
鴎翔学園高等学校の1学年当たりの生徒数は1000人以上、それが20年分となると、膨大な人数になる。それを土本は、確認し直すと言う。
「……本気ですか? 単純計算で2万人以上の名前がありますが、それを私達だけで再確認ですか?」
「いや、俺1人でやる。1990年以降だけ見ればいいんだから、1万人にも満たない。不可能じゃないだろう、やってみるさ。『カワ』の字は二種類しかないはずだから、あとは『タテ』と読む字について、想定外の文字の可能性を考えて見直してみる。さすがにそれなら幾つか候補が拾えるだろう」
「……わかりました、名簿は先ほどの倉庫にありますので、後で取りに行きましょう」
労力に見合った結果が出るとは思えなかったが、北條は反対しなかった。
「ああ。で、候補が幾つか出たら、それと放送部との繋がりを確認してもらう。それが2つ目の、放送部の友人に対する確認事項だ」
「はい、ではそうします」
「3つ目は、さっきも触れたけど、『センター試験』と言っているから、録音時期は共通一次試験に代わって、センター試験の導入開始後、つまり1990年以後ということ」
ルーズリーフにも、「③『センター試験』導入後の放送、つまり、1990〜現在」と記載されている。
「そうだったんですね。確かに、『共通一次』という単語には聞き覚えがありましたが」
「共通一次とセンター試験では大学入試のシステムが大分変わっているけど、それについて何の言及もないから、センター試験の導入直後じゃない、という推測はできる。が、まあそれは推測でしかないな。とにかく、センター試験の導入開始後なのは間違いないだろう」
「はい、ある程度時期は絞れましたね」
「あと、4つ目、これはまあちょっと気になった程度のことだけど、編集がされているっぽい。一部音声が切り貼りされたようなところが何か所かあった。そして、切り貼り後のトークの音声にBGMを被せている。BGMは切り貼りされていないからな。そういう編集用の機材は、放送室には見当たらなかった」
「確かにそうですね」
ルーズリーフには、「④テープの編集機材は? どうやって編集した? そしてCD-Rに書き込んだのはどこだ?」と書かれている。
「ということは、どこかに編集用の機材がある。放送部の部室にあるのか、一応確認したい」
「それがあると、どうなるんですか?」
「まあ、校内で録音して、編集することが可能だった、と言えるってだけだな。高価な機械で、しかも大きいはずだから、校内で録音、編集をしたなら、校内のどこかに機械があるはず。逆にこれがないと、外部の者が関わっている可能性を考えなきゃいけなくなる」
「なるほど。では、それも放送部に確認、ですね」
「そうだな。とりあえずこんなところか」
ルーズリーフに書かれた内容を読み終えたところで、北條は放送部への依頼事項について、ノートに記載しながら土本に確認した。
「ということは、私から放送部に依頼することは……、まず、過去に放送していた、番組仕立ての放送の過去データ、これのうちDJピンキーが関わっていると思われる情報の提出を求める。次に、OBに『タテカワ』さんがいるか、いればその人に関する情報も併せて提出を求める、ですね」
「そうだな、それと、編集とCD-R作成可能な機材の有無の確認もだな」
「はい、では明日、本人に接触してみます」
「頼む。明日の朝までには、俺の方で名簿を確認しておく」
約1万人弱の氏名が記載された名簿全てに1人で目を通す、しかも1日で。普通に考えたら、結構な苦行である。
「大丈夫ですか? やはり、1人で名簿全てに目を通すのは、無理があるんじゃ……」
「大丈夫。それより、委員長は明日提出する報告書の方をやっておいてくれ」
「……はい、では私の方で、報告書、作成しておきますね」
どういう訳か、ここに限って土本の意思は固く、手分けして、というつもりはないらしい。
ここで揉めても仕方ないと思い、北條は大人しく引き下がった。
おそらく、これも何かの意図があってのこと。それにも気付いてはいたが、時間の都合上、ここでそれを尋ねるのは控えた。




