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プロローグ 放課後の生徒会室

 放課後の高校。

 夕日に照らされた校舎。

 BGMは、誰かの拙いピアノ。


 その日の夕方は、読みかけの小説を放り出したくなる程に、出来過ぎたシチュエーションだった。

 誰も居ない教室に独り残り、窓際のロッカーに腰かけ、表紙買いしたものの、読み始めて早々にハズレと気付いた文庫本を放り出したまま、その男子生徒は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

 そうしていると、次第に周りの音が耳に入ってくる。今日は、その音にいつもと違う、微かな変化を感じて耳を澄ませていた。

 隣の体育館から聞こえるのは、バスケットボールが跳ね返る音と、体育館シューズと床が擦れる時の独特なあのキュッキュッという足音。校庭からは、野球部の打球音と掛け声。

 そして、先週から、やや拙いピアノの音が、向かいの旧校舎から聞こえるようになった。

 

 旧校舎の東端には音楽室がある。

 この学校にはピアノを弾く部活や同好会は存在しない。音楽教師にしては音を外し過ぎているので、生徒の誰かが弾いているのだろう。それでも、先週よりは幾らか上達しているようだ。

 彼は、この時間、この情景を好んだ。ただ少々不満なのは、周囲の不快な音。

 しかし今日は、そのピアノの音色が、不快なノイズを帳消しにしてくれる。そんな気がしていた。

 

 そうしているうちに、辺りは黄金色から朱色へと塗り替えられてゆく。

 生徒の帰宅を促す校内放送が流れ、教室の掛時計が4時を回ったのを確認して、男子生徒は教室を出た。

 行く先は、昇降口ではない。新校舎の西端にある、生徒会室の方。

 生徒会室の引き戸を開くと、1人の女子生徒が彼を待っていた。


「……今週も時間どおりですね、土本君」

 銀縁眼鏡を掛け、今時珍しいおさげ髪の少女は、微笑んで長方形に配置された長机の廊下側一番前にある椅子を指し、座るよう促した。

「まあね……、週に一度の仕事だし。時間くらいは守るさ」

 土本と呼ばれた少年は、気のない返事をすると、少女の指した椅子に腰を下ろした。

 それが、ここ1か月ほど、毎週木曜日に行われる彼の「仕事」であり、彼がわざわざ放課後に居残る理由である。


 少年が席に座るのを見届けて、少女は室内の上手にある教卓に手を掛けつつ、少し胸を張った。

「では『例の件』、早速始めましょうか」

 そう言って、少女は教卓に置いてあったファイルを開いた。


「では先週までのおさらいから……。先日、副会長から依頼されたとおり、生徒会室で発生した備品の盗難事件、についての調査ですが、現在のところ……」

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