3.事件を追って。
新作情報、あとがきに。
「『ホームレス変死事件』……発生しているのは、東京と埼玉の県境。河川敷ってなると、一ヶ月前のこととはいえ懐かしいな」
僕は電車に乗り、新聞記事に書かれた内容を確認しながら呟く。
レイラさんに拾ってもらうまでのちょっとした期間だが、自分もとある河川敷でホームレスの真似事をしていた。右も左も分からないまま東京という地へ出てきて、誰を頼ることもできず。あの頃の僕は無知ゆえに向こう見ずで、後先なんて考えていなかった。
あるいは、それについては現在も大差ないかもしれないけど。
「さて、と。次の駅で降りないと」
とにかく今は事態解決のために動こう。
そう考えて僕は、少ない荷物を肩に担いで電車を降りたのだった。
◆
――一週間前のことである。
東京都と埼玉県の県境にある河川敷、その高架下でホームレスの男性が変死体となって発見された。目立った外傷こそないものの、眼球が溶け落ち、首には抉られたような傷跡がいくつも残されていたという。検死の結果、被害者男性の爪から皮膚片を採取できたため、自傷行為によるものであると断定された。
以上が事件の概要ではあるが、一部は僕の方で調べて補足した内容もある。
ともかく、気になった点は二つ。
「溶け落ちた眼球に、首の傷跡。これってやっぱり、レッドアイズ……?」
憶測で語るべきではない、とは分かっているけど。
僕は先日の事件でも出てきた麻薬の存在が、気になって仕方なかった。アングラな場所であれば、そういったものが入手できる機会もあるだろう。でもアレは相応の価格で取引されているはずだし、ホームレスの男性が購入できるとは思えなかった。
「とりあえず、現地で聞き込みしないと――ん?」
そんなことを考えながら歩いていると、何やら言い争う声が聞こえてくる。
何事かと思い声を追ってみると、件の河川敷で一人の少年が、ホームレスの男性たちと揉めているようだった。男の子は中学生くらいの年頃で、短く刈り上げた髪に眼鏡をかけている。
対するホームレスの男性は、三名。
一対一でも分が悪いのに、これではあまりに無謀だった。
「だから、父さんはどうして……!!」
「うるさいな、坊主! あまり俺たちの場所に踏み込むな!!」
そんなわけなので、僕は慌てて仲裁に割って入る。
「あのー? すみませーん」
「……あ?」
「なんだ、またガキかよ」
「あはは……すみません。この子、僕の知り合いでして」
そして、口から出まかせ。
適当な理由を付けて、男の子の手を取った。
「いや、すみませんね。後でキツく言いつけておきますんで」
「ちょ!? 待て、誰だアンタ――」
「いいから、ちょっと話を聞かせてくれって!」
そのまま、引きはがすようにして。
僕はその子を河川敷から遠ざけ、必死になだめるのだった。
◆
「はい、コーラ。……飲む?」
「いらねぇよ」
「そう?」
近くの寂れた公園まで、少年を連行して。
僕は自販機で買った清涼飲料を手渡そうとしたが、あっさりと拒否されてしまった。仕方なし。もったいないので、このコーラはあとで僕が飲むことにしよう。
そう思ってベンチに腰掛ける男の子の隣に座り、バッグにそれを押し込んだ。
そして、単刀直入にこう問いかける。
「どうして、揉めてたのさ。相手は大人だよ?」
「…………いいだろ、別に」
すると少年はへそを曲げてしまったらしく、ツンとした態度で応えた。
僕はその様子を見て、しばし考える。僅かに聞こえてきた内容から、いくつか憶測は立てられた。だったらその中で、一番可能性が高いのは――。
「もしかしてだけど、この事件と関係ある?」
「……お前、その記事!」
やっぱり、河川敷での事件との関連性だ。
こちらが新聞記事を示すと、男の子は驚いた表情で僕を見てくる。ここまでくれば、あとは誘導していくだけで情報は引き出せるはず。
そう考えて、僕は改めてこう訊ねた。
「それで、どうしてあんなことを?」
「………………」
すると彼はうつむいて、握った両拳を震わせる。
そして、絞り出すように言うのだった。
「その記事を書いたのは、俺の父さんなんだ……」――と。
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